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プラマイゼロ 前編


「あー、美味しかった」


暖簾をくぐり抜けて外へ出ると、今までの油っぽい空気から一変して夜独特の澄んだ空気が肌を撫ぜる。


「お前食いすぎじゃね?」
「そうかな?洋一なんて替え玉してたじゃん」
「俺は現役だからいーの」


久しぶりに一日中一緒に過ごせた今日。夕食も作るつもりだったけど、洋一が「ラーメン食いてぇ」なんて言うから一瞬でラーメンの気分になってしまい、オシャレとは程遠い近所の年季が入ったラーメン屋へと入ったわけだ。

ちゅるりと啜るラーメンは久しぶりに食べるとおいしくて、洋一の言うとおりついつい食べ過ぎてしまったのも事実。
洋一と比べると普段の運動量は雲泥の差だから、ちょっとヤバイかも。なんて思いながら満腹で膨らんだお腹をそっと撫でた。


「ちょっとコンビニ寄っていいか?」
「いいけど。何か買うの?」
「漫画、気になってるのだけ読みてぇ」


あぁ、今日は週刊誌の発売日だっけ。と洋一の発言で気付き、二人揃ってコンビニへと足を向ける。
早速雑誌コーナーで立ち読みを始めた洋一を尻目にふらふらと店内を歩いていれば、ふと目に留まったおいしそうなスイーツ。

何も買う予定は無かったのに、おいしそうなものが沢山並んでいるとつい欲しくなってしまうのはどうしてだろう。
ましてや今ラーメンをお腹に入れたばかりだというのに・・・いや、だから甘いものが欲しくなるのか?なんて自問自答しながら一つ手に取った。

しょっぱいものの後には甘いものが食べたくなるし、甘いものの後にはしょっぱいものが食べたくなっちゃうんだよなぁ。
そんなデブまっしぐらの思考とともに<生クリーム10%増量>という文字を食い入るように見ながら誘惑と戦っていれば、横から洋一がスッと顏を出す。


「何か買うんか?」
「いや・・・どうしようかなーと思って」


やっぱりこの時間に食べるのは良くないかなぁ・・・。でもかなり惹かれるし、今買っといて明日にでも食べようか。と、一人で葛藤していれば「買えばいいだろ」その言葉とともに手の中から消えたシュークリーム。


「お、コレうまそーじゃん。俺コレにしよ」
「えっ・・・?」
「何?買わねぇの?」


棚からプリンを一つ取り、私から奪ったシュークリームと一緒に持ってレジへと向かう洋一を慌てて追えば、振り向きざまにそう言われて少し悩む。
もしここで買わない選択肢を選べば、この後家に帰ってプリンを食べる洋一を見る事になるわけで。今我慢しても次の誘惑に勝てるか分からない。


「・・・買う」
「だろ?買ってやるよ」
「あり、がと」
「おー。帰って食おうぜ」


だから結局選ぶ選択肢は残りの一つだったんだけど、私の手から奪い取って買ってくれるそのスムーズさに、ニッと無邪気に笑うその表情にドキリと心臓が跳ねる。
長い付き合いにも関わらず、こうして些細な事で翻弄してくる洋一は本当にズルい。
本人にそう言ってもきっと笑うだけだから言わないけどさ。

ガサガサと袋の音を奏でながら家へと返り、早速袋から買ったばかりのプリンとシュークリームを出して机に並べる。


「もう食うのか?」
「時間が経つと罪悪感が増すから!今のうちに」
「ヒャハッ!何だソレ。まぁいいけどよ」


笑いつつも私の横に腰を下ろした洋一の前にプリンを置き、シュークリームの包装をピリッと破いた。
ふわふわで見た目からしておいしそうなそれにパクリと齧り付けば中から出てくる甘いクリームが口内に広がって。その甘さに自然と笑みが漏れる。


「ん〜おいひ〜」


罪悪感もなんのその。この甘さと満足感の前にはやっぱり敵わない。
今日食べ過ぎた分は明日で調整すればいいんだ。そうしよう。なんて、きっと明日になったら忘れているような事を思いながらパクリパクリと食べ進めていく。


「楓のやつちょっと食わせて」
「ん?」


いいよ。そう言って差し出そうとしたのに、私が答えるよりも早く少し口を開けた洋一が顔を寄せてきて、私の手の中のシュークリームを一口奪っていった。


「お、ウマ」


そう呟いた後、口の端に付いたクリームをチロリと覗いた赤い舌で舐めとるのを直視してしまい、鼓動が乱される。
ただシュークリームを一口食べられただけ。それだけでこんなに私を動揺させられるのなんて洋一だけだ。

近い距離には慣れているはずなのに、急に来られると未だにドキドキする。
それに、普段隠されている舌を見て否応なしに思い出してしまうのは、思考を奪われるようなキス。あの舌に絡みとられると・・・。と、そこまで考えてからふるりと頭を軽く振った。
何を考えてるんだ、私は。

平静を取り戻そうと残り半分になったシュークリームを口に運ぼうとすると、「こっちも結構ウマいぜ。ホラ」掛けられた声の方へと顔を向ける。
その先にはスプーンに乗ったプリンがあって、口を開けろと言わんばかりにちょんっとスプーンの先で私の唇をつついてきた。

それに導かれるように少し口を開ければ、口内へ滑り込んできたプリン。
簡単にとろりと溶けて、カスタードの風味だけを残して喉の奥へと消えていく。


「ん、おいしい」
「だろ?」


嘘。本当は動揺していたせいもあってカスタードの風味くらいしか分からなかった。なんて言ったら洋一は笑うかな。
パクリと齧る残りのシュークリームも最初とは違い、甘さだけが口に残る。
最後の一口までそれは変わらなくて、もったいないとも思ったがどうしようもない。

空になった容器と包装をゴミ箱へ捨てると、さっきよりも少し前に出てしまった気がするお腹を撫でてから同じ場所に再び腰を下ろした。


「おいしかったけど・・・太るかな?」


罪悪感はとっくに置いてきたはずなのに、食べ終わってからジワジワと来るのは何でだろう。
ラーメンの後にデザート、とわざわざカロリーを考えてしまうからいけないのかもしれないけど。


「女ってすぐそう言うよなー」
「はぁ?」


確かにそうだけど。間違ってないけど。
贅肉なんてない洋一にそう言われた事と、女というカテゴリで一括りにされた事でムッとしてしまったのが声にも表れてしまった。
前者はともかくとして、後者は明らかに私以外の誰かも含まれているから。


「悪ぃ悪ぃ、怒んなって。協力してやるからさ」


そんな私の機嫌を察知したのか、軽く謝った後にニヤリと意地悪く口角を上げる洋一。
グッと腰を引かれて近かった距離を更に詰められると、そのままゆっくりと床へと倒される。


「え、何?」


洋一の行動の意味が分からずに首を傾げれば、ヒャハッといつものように笑った後、とんでもない一言を落としてきた。


「運動、しよーぜ」


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*注* 次の話は性描写を含みますので、注意喚起としてパスワード入力になります。




相方とフォロワーさんのついったでのやり取りを拾いましたw笑
甘いものの葛藤のくだりを詳しく書きすぎたwwwだって、皆思いますよね?そうですよね?
だから運動してください!(意味深)
write by 神無



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