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sweet syrup 01


ヴー、と震えたスマホに過敏に反応してディスプレイを覗きこむ。でも、そこに表示された通知は携帯ショップからのメールマガジンで、無意識に溜息を吐いた。
笑えるはずのバラエティ番組も、時計やスマホを意識してしまっているせいでクスリとも笑えない。そわそわして落ち着かない気持ちを紛らわすためにテレビをつけたのに全く効果がなかったようだ。


「もうすぐかな・・・」


思わず出てしまった独り言も、起きた時からずっと時計やスマホを気にしてしまうのも今日久しぶりに会える一也のせい。

遠征が多く簡単には会えない恋人だけれど、今日の予定が終わったら私の家に直で来てくれるらしく、それを聞いた時から気持ちが逸ってしまって全く落ち着けないのだ。
これだけ集中出来ないなら意味ないな、とプツリとテレビの電源を落とせば一気に静寂に包まれた。

早く一也に会いたい。それだけで心が飽和状態になっていて、他の事が手につかない。
そんな自分を客観的に見るとどれだけ一也が好きなんだと自嘲しそうになるが、きっと一也に会うまでこの気持ちを抑える事は不可能だろう。

傍にあったクッションを抱きかかえて顔を埋めながら、カチカチと響くアナログ時計の音を耳で感じ、時折顔を上げて時計の針を確認し、ちっとも進んでいない事に嘆息する。その、繰り返し。

いっその事寝てしまおうか。鳴らないスマホに痺れを切らせて目を閉じた時、部屋中に鳴り響いたインターホン。
クッションを投げる勢いで立ち上がり、モニターもなにも確認せずに一直線に玄関へと走る。
ガチャガチャと慌しくチェーンとロックを外して勢いよくドアを開け放てば、そこには待ち望んだ恋人の姿。


「一也、」
「おい、今誰が来たか確認しなかったろ」


会いたかった、という甘い言葉は一也から発せられた一言に飲み込まざるを得なくなり、代わりに謝罪を口にする。
あれ?思ってた再会と違うぞ。甘い空気とは程遠い雰囲気に、伸ばしかけた手も引っ込めた。


「時間的にも絶対一也だと思ったんだもん」
「それでも、一応確認はしろよ」
「・・・はーい」


ドサッと重い音を立てて玄関へ持っていた荷物を降ろす一也をジッと見つめる。
会えなかった分、今日は沢山話したいな。
どんな選手と対戦して一也がどう思ったのか。どんな試合展開だったのかとか、いつも私が一方的に聞き出してしまう。日々を惰性で過ごしている私からしたら、一也の毎日は非日常の連続だし新鮮で面白くて、つい色々と聞いてしまうんだ。

広く逞しい背中を見ながら頭の中でそんな事を考えていると、不意にこちらを振り返った一也と視線が交差し、それだけで心臓から血液が忙しなく送り出される。

真っ直ぐに私に向けられる瞳から視線が逸らせなくて、思わず息を呑んだその一瞬。
たった1歩で距離を詰めてきた一也に腕を取られ、グッと引かれると同時に包み込まれるように抱き締められた。


「っ!」


驚いて身体に変な力が入ったが、一也の温もりを認識すると自然に力は抜けて胸の中へと身体を預け、久しぶりの抱擁を堪能しようと一也の背中へと腕を回す。

ドクドクと煩い自分の鼓動と、一也から伝わってくる同じくらいの速さの音を聴きながら温もりに浸っていれば「あー・・・やっと会えた」と、耳元でくぐもった声が聞こえて胸がキュッと疼いた。
一也も私と同じ気持ちでいてくれたんだろうか、なんて。自惚れてしまうような一言に口元が勝手に緩む。


「楓」


こうして名前を呼ばれるのすら久しぶりな気がする。
電話で話すような機械越しの声じゃなく、直接鼓膜に響くようにして伝わる一也の声が何だかくすぐったくて、ドキドキして。高揚した気持ちを誤魔化すように更に擦り寄ろうとしたけれど、肩を押さえられて拒まれてしまった。

何で?と一也を見上げた私の表情はきっと不満気だっただろう。けど、それもすぐに鳴りを潜める事になる。
ふわりと頬を髪の毛が掠めたと思った瞬間、パクリと食べられるように塞がれた唇。
目を瞑る時間すら与えられなかったキスに驚きつつも、しっとりとした唇を受け入れるようにそっと目を閉じた。

繰り返し唇を啄ばまれる度にちゅっというリップ音が奏でられて、柔らかな舌の侵入を許した時には私も一也もお互いを求めるように回していた腕に力が籠る。


「んっ、」


久しぶりのキスだけれど、一也の舌の動きは変わらない。
舌同士を擦り合わせるように絡ませた後、私の弱いところを重点的に攻めてきて。合間にする呼吸すらも奪うような激しいキスに、否応無しに身体の熱が上げられて呼吸が乱されてしまう。
そして、息を弾ませた私に気付くと今度は唇を堪能するように食んだり、舌先で遊ぶように舐めながら身体に手が這わされる。

まだ再会して数分。会話も然程交わしていないというのに、まさかこのまま進むつもりだろうか。
戯れのようなキスよりも、悪戯に身体に触れていく一也の手が気になってしょうがない。
その手が明らかな意思をもって胸の膨らみを撫でた時、咄嗟に一歩後ろへと足を引いた。


「もう・・・どこ触ってるの」
「別にいいだろ」
「ダメだよ」
「・・・なんで?」


まさか私が拒むとは思っていなかったのか、不服そうな表情を見せる一也に、どう答えようか逡巡する。
流れに任せて身体を重ねてしまいたいとも思うけど、一也とそうなった時は大抵体力が底をついてしまって直ぐに眠っちゃうし。

そう思うと、やっぱり少し話がしたいかも。
一也を待っていた時に思っていたことを告げれば「ふーん」と、分かったのか分かっていないのか曖昧な返事が返ってきて、伏し目がちに私を見下ろしてきた。


「楓はシたくねぇの?」
「・・・え?」
「俺はお前を抱きたいんだけど?」


ズルい。求めるような瞳で、誘うような声でそんな事を言われたら頷いてしまいそうになるじゃないか。
逸らされることなくジッと一也の双眸に見つめられているだけで、身体中にジワジワと熱が広がっていくような感覚に陥る。確かに身体を重ねてしまえば、会えなかった淋しさも埋まるかもしれない。

いや、違う。そんなのは御託にすぎなくて。
こんな風に言われたらもう、全てを委ねてしまいたくなる。
力強いその腕が、優しく動く指先が、どうやって私を翻弄してくるのか全部知ってるから。


「でも、楓がシたくねぇならやめるわ」


なのに、私が決意したタイミングを見計らっていたみたいに、一也は軽く笑って私に背を向ける。
開いてしまいそうになる距離を、咄嗟に服の裾を掴んで引き止めた。


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中編というか・・・鬼みたいに長くなってしまったので分けました。
ストーリー性はあんまりないです・・・笑


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