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馥郁たる香りにむせて 09

お願いです。誰か教えて下さい。
告白ってどうやればいいんですか。
紗良との電話で決意を固めてから早一ヶ月以上が過ぎました。太陽がどんどん力を増して地上を焦がすのではと思う季節が確実に近くなっているのを感じる今日この頃。相も変わらず定期的に結城君に会いに行っているというのになんの進展も起こせていません。


「ヘタレ」
「うぅ…」


何度聞いても進展なしと返す私にしびれを切らした紗良に呼び出され、さあ話すぞと身構えた矢先に罵られる。それでも致し方ないと思って反論しないのは、自分でもヘタレだなと自覚しているから。
じっくり言い分を聞こうじゃないかと構える紗良に及び腰になりそうなところをなんとか踏ん張り覚悟を決める。もっとも、フリードリンクを注文した時点で長丁場になることは確定しているのだが。


「っで、告白する気なくなったわけ?」
「そーゆーわけじゃないけど…」


二人きりになれるようにお誘いしようと意気込んでから会いに行っているにも関わらず、毎回いつもの会話以外の言葉が上手く出ないで終わってしまうのだ。野球部の臭いに耐えながら結城君の匂いを近くで嗅いでいるせいでテンパってしまう、なんて言い訳を口にしそうになる。
居たたまれなさから飲み物を口にするが、ストローから流れ出る炭酸がいつもよりも味気なく感じた。


「どうせタイミングが〜とか言うんでしょ?いい?タイミングすら作ってなんぼのもんだよ」
「それが出来ないからヘタレなんです〜」
「開き直るな」


間髪入れずにピシャリとダメ出しを喰らい口を噤む。
紗良の言ってることは正しいとは思うけれど、感じ取ってもらおうとしないで口に出すっていうのは思いのほか難しい。この嗅覚のことで嫌われないようにと本心を隠し、愛想を振りまいていたツケが今になってきたということか。意気地がないだけのくせにあーでもないこーでもないと言い訳を並べる自分が嫌になる。


「口にできないなら手紙にしたら?」
「え!?今どきラブレター!?」
「あー違う違う、お誘いの手紙だよ。どこどこで待ってます的なやつ」
「それはもうラブレターみたいなもんじゃん」


校舎裏に来て下さいとか屋上で待ってますって感じのアレなやつだろう。下駄箱なんかに入っていたら間違いなくそれだけでラブレターだ。無理無理と首を振る私に、紗良は本日何度目になるか分からないため息をついた。


「なら諦めたら?別に私は無理強いしたいわけじゃないし」


今までよりもトーンを落とした紗良の声にはッと息が詰まった。せっかく紗良が私のためにとあれこれ考えて提案してくれているのに、私は羞恥心だけですべてを無碍にしているのだとようやく気付いたのだ。
なんて情けないんだろうか。
ごめんと勢い良く頭を下げる私を笑って許してくれる紗良に甘えすぎてはいけない。これは私の問題であって、自分で何とかしなくてはいけないのだから。


「今度タオル受け取りに行くときに手紙、渡してみる」
「よーしその意気だ!タオルに忍ばせておけば周囲には気づかれにくいしね、頑張れ」


また電話した時に進展してなかったら承知しないんだからという彼女の顔はとても優しい。シンプルでいいはずの手紙の内容をあーでもないこーでもないと二人で試行錯誤して決めれば、後は清書するだけ。呼び出すのにちょうどいいだろう場所まで一緒に考えてもらったんだ。今度こそ臆病風に吹かれずに渡すぞと自分に言い聞かせれば、急かすように胸が早鐘を鳴らした。
やっぱり世の中の恋する乙女はすごいな。こんな事をすでに何度も経験しているのだから。


「紗良はすごいね……。そういえば私の話ばかりだったけど、そっちはイケメンいた?」


こんないい子私が男だったら絶対に彼女にしたいところだが、残念ながら私みたいなうじうじしたのが男だったら紗良の好みに掠りもしないだろう。私だってこんな男嫌だ。
だれか素敵なイケメンと恋仲になれるといいのにとの思いを込めて向けた視線の先では、予想外にも複雑そうに眉をひそめる紗良がいた。


「え?どうしたの?イケメンいなかった?」
「…いた。カッコいい先輩めっちゃいた。なのに……」


はぁ〜と驚くほど深いため息をついた紗良の真意が分からず首をかしげる。イケメン先輩にフラれたなんて話は聞いていないし、フラれたからってへこむのは時間がもったいないと言っていたはず。そうなら今頃振り向いてもらう努力をしているか、新しい恋を探しているはずだ。
そんなポジティブ思考な紗良になにがあったのかと顔を覗き込むと視線をそらされてしまったが、その顔は羞恥に染まっていた。


「……なとに……れちゃった、の」
「え?ごめん、聞こえなかった」
「だからっ、小湊に惚れちゃったの!」
「はぁ?!あの!?あの小湊君!?」


自分でも信じられないと頭を抱える紗良の真っ赤な顔が冗談ではないと物語っている。
確かに「大学にまで小湊がいたんだけど!」と騒いでいたし、なんだかんだいって仲が良いなとは思っていた。でも喧嘩仲間みたいな小湊をダンディーなおじ様好きな紗良が惚れるとは信じられず、思わず聞き返してしまうがなぜだか妙に納得はできる。勝手に上がる口角を隠す事が出来ずに紗良を刺激してしまっているがどうしようもない。羞恥からきているだろうジト目は甘んじて受け入れよう。


「じゃあじゃあ紗良も告白とかするの?!」
「急にはしないよ!自分でもまだ不思議だし、なにより小湊にとって私は女って扱いじゃないだろうしね…」


腐れ縁みたいな関係だからこその難しさがあるのだという。確かにこんな調子の紗良が告白なんて素直には言えないだろうし、冗談に受け取られてしまうかもしれない。相手はあの小湊君なのだから。それでも好きになっちゃったならしょうがないと前を向く姿はやっぱりカッコいい女だと思う。
私もうじうじなんてしていられないな。
さらに意思を固めたところでせっかくだからとレターセットを買いにいくことになった。メールばかりで手紙なんて書くのは小学生以来だと気付き、少し緊張が増したけれど今は怖気づくつもりはない。
来た時よりも清々しく感じる外の空気を肺いっぱいに吸い込んだら今から気合入れてどうすると笑われてしまった。


「深呼吸は告白前に取っておきなよ」
「いや、なんか落ち着かなくて。不審者に見られてないかな…」


挙動不審で怪しい人に見られていないかと心配になり周囲を見渡す。こちらを気にしている人は居ない様でホッと胸をなでおろしたが、視界の端に入った見慣れた顔触れに通り過ぎた視線を再び反対側の通路へと向ける。


「ねぇ、あそこにいるのって小湊君たちじゃない?」
「っえ?!嘘、ヤダ」


数人様変わりしているようだが間違いなく青道高校元野球部の方々だ。急にしおらしくなった紗良にほっこりしながらも懐かしいと感じる彼らに思わず期待をしてしまったが、残念ながら彼らの中に結城君の姿は無かった。今日も野球部は練習があるようだし仕方がないのかもしれないけれど。
声を掛けるかと聞いたが即答で断られ、足早にその場を離れる紗良の後を追いかける。大学で毎日のように見掛けると言っていたしわざわざここで声を掛けるのは恥ずかしいようだ。残念と笑いながら何気なくもう一度彼らへと振り返ると、微かにほほ笑んでいる小湊君と目が合ったような気がした。

その視線で紗良との恋仲を期待してほっこり、なんて穏やかな気持ちは湧いてこなくて、ゾクリと背筋が震えたのはなぜだろうか。小湊君の視線に気づかないふりをして紗良を追い掛けたが、彼の視線の意味を後日知ることになるとはこの時は思いもしなかった。


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