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Thoughts are in my dreams

けたたましい機械音で嫌々目が覚めると、なぜだかどことなく違和感を感じた。何がと言われるとはっきりと答えることは出来ないが、何となくいつもと違うような気がしたのだ。


「・・・気のせい・・・かな?」


部屋の中を見渡してみても特別変わったところはない。鏡に映る自分もいつも通りだし、空もちゃんと青い。
違和感の正体がわからないまま身支度を整えてダイニングに向かえば、母がいつもと同じように朝食を用意してくれている。やはり気のせいだったのだろう。そう解釈して席に着いた時だった。


「おはよー」
「おはよう。早く食べないとお迎え来ちゃうわよ」
「は・・・?」


お迎えとは誰のことを言っているのだろう。私はいつも1人で登校しているというのに、母は長年勘違いをしていたのだうか。そう思って今更だが訂正を試みると、なぜか私がおかしなことを言っていると呆れられてしまった。
納得がいかないまま急かされ、半ば強制的に追い出させる形で玄関まで来たところでチャイムの音が響き渡る。


「ほらギリギリだったじゃない。待たせなくて良かったわ、いってらっしゃい」


いや、本当に誰ですか。
まったく理解が出来ないまま恐る恐る玄関の戸を開ける。これで見知らぬ人がいた場合はどう対応したらいいのだろうかとビクビクしていたが、実際に迎えに来た人物を確認した瞬間、絶句してしまった。


「おー、おはよーさん」


呑気に片手を上げて挨拶をする目の前の男はちゃんと知っている人だったけど。いや、知ってるどころではなく恋人なのだけど。そうじゃなくて・・・。


「な、なんで一也くんがここに居るの?!朝練は?!」


朝も夜も野球漬けの毎日を送っている一也くんが、帰宅部の私が登校する時間にのんびりしているわけが無い。
午後の練習が休みって日はたまーに聞くが、朝練がないなんて聞いたことがない。仮に奇跡的に休みだったとしても、寮生活をしている一也くんがわざわざ学校から離れた私を迎えに来ることなんてありえないはずなのに。


「は?朝練?」


お前何言ってんのって台詞はそっくりそのまま返したい。本当に何言ってるの一也くん。帰宅部の朝練てなんだよとかふざけてる場合じゃないよ。あの野球部の練習をサボったりなんかしたらどうなるか…想像もつかない。
混乱する私を心底不思議そうに見つめる一也くんに揶揄っている様子は見受けられなかった。それがより不安を駆り立てる。


「まだ寝ぼけてんのか?遅刻したくねぇし行くぞ」


何事もなく歩き出す一也くんを慌てて追いかける。初めて恋人らしく一緒に登校するというのにちっとも嬉しいと思えない。会話の内容だって右から左へ流れていくようだ。
起きた時からの違和感はこの事なのだろうか。もう違和感なんて言えるレベルではないけれど。
その後、教室へ行っても他の野球部員と出会っても、不安も疑問も解消される事はなかった。一也くんの態度が変わる事もなく、周りも当たり前のように野球をしていない一也くんを受け入れている。誰に聞いても私がおかしなことを言っていると呆れられてしまう。

そう、まるでこれが当たり前の日常のように。


「お前やっぱ今日おかしくね?」


念願だった放課後デートも上の空。タピオカミルクティーがぬるくなっても中々減らない私を心配そうにのぞき込む一也くんは確かに一也くんなのに。私にはどうしても受け入れられなかった。彼氏彼女らしく一緒に登下校したり、放課後デートでタピオカなんて飲んだり、買い物したり。どれも私が憧れて望んだことのある事なのに、胸が苦しくなる。


「体調悪いなら今日はもう帰るか?」
「え、あ・・・うん。そうしようかな。ごめん・・・」


これ以上一緒にいても心配をかけるだけ。ならば今日はもう一人になりたかった。この私だけがおかしな世界から逃げ出したい。そんな気持ちが逸ったせいか、勢い良く立ち上がった拍子にくらりと眩暈が起こる。危ないと抱き留めてくれた一也くんの腕から力強さが感じられなかった。

一也くんは私を抱き留めたくらいでよろめいたりしない。
一也くんの腕はこんなに細くない。
一也くんの胸板はこんなに柔らかくない。
一也くんはこんな傷一つないキレイな手じゃない。
一也くんはこんな目標もなく無気力な男じゃない。


「ごめん、一也くん。やっぱり・・・私の好きな一也くんはあなたじゃないよ」
「何言ってんだよ楓」
「おかしなこと言ってるならゴメン。でも違うの。私は野球バカな一也くんが好きなの」


野球ばかりで恋人らしいことが中々できずに不満に思っていたこともある。たまの休みにデートをしても野球用品店に立ち寄る一也くんに呆れた事もあるし、一也くんが野球をしていなかったら、なんて想像をしてみたこともある。
だけど、実際にそうなってほしいわけじゃないのだと改めて痛感した。私は、野球をしてる御幸一也が大好きなのだと。


「そっか・・・」


そう一也くんがつぶやいたような気がした。その瞬間、先程の眩暈なんかよりも激しく視界が歪み、目の前が真っ暗闇へと変わった。目を開けているのか閉じているのかもわからない暗闇がしばらく続いたのか、はたまた意識を失っていたのかはわからない。
目が覚めた時には青道高校野球部の練習着を着た一也くんが心配そうに私を覗き込んでいた。


「‥‥一也、くん?」
「楓!?大丈夫か?なんともないか!?」


どうやらいつものように練習を見ていた私は、一也くんが暗くなる前に帰れよと言いに来た途端に倒れたらしい。脈も呼吸も異常がないからとりあえず医務室に運ばれた私は、野球部の練習が終わる時間まで眠っていたようだ。一也くんの話ではそろそろ親が迎えに来ることになっているらしい。
ならばさっきまでの異様な日常は夢だったのだろうか・・・。それにしてはリアルすぎるし、なにより柔らかな一也くんの腕の感触がいまだに残っているというのに。
上手く働かない頭を押さえつつ起き上がろうとする私を慌てて止める一也くんの手はまめだらけでゴツゴツとしている。練習で汚れてしまったユニホーム。がっちりとした肩幅。男らしい汗の匂い。


「一也くんが、野球してる」
「は?」


何言ってんだと呆れる顔はさっきまで見ていた一也くんと同じだけど同じじゃない。眉間にしわを寄せる一也くんになんでもないと伝えたけれど意味不明だろうな。何か考え込んでしまった一也くんには悪いけれど込み上げる嬉しさで可笑しな顔になってしまう。


「なぁ、もしかして怒ってんのか?誕生日もろくに祝ってやる暇ないって言ったから…」


確かにそんな話をした。誕生日付近でデートが出来たらいいなと私が我が儘を言ったりしたから、お休みがないか確認してくれた一也くん。でも結局そんな暇はなくて謝られたんだっけ。現実のような夢のせいで記憶が混乱しているようだ。


「それはもう良いの。私気付いちゃったから」


どんなにデートが出来なくても。登下校だって一緒に出来なくても、それでも構わないのだと。


「私は野球してる一也くんが好きなんだって、本気でそう思ってるから」


だから野球頑張って。そう言うのと飛びついたのはどっちが早かっただろうか。
突然ベッドの上から体重をかけて抱き着ついてもしっかりと受け止めてくれた一也くんの胸は固くて力強い。回された腕も太くて、しっとりと汗で湿ったユニホームが男臭い。これが御幸一也だ。
押し寄せる安堵感に流されるように一也くんの逞しい胸へとすり寄る。


「あーマジか。そーくんのか・・・」
「一也くん?」
「…これはお前が悪い」
「なに?どうっ、、っんん!」


意味を解くよりも早く唇が重なり合った。驚いている間に後頭部へ回されていた手が一瞬でも離れる事を許してくれない。滅多に触れ合えないせいなのかキスだけで体が喜ぶように震えるのが分かり、羞恥心で顔が熱くなっていく。


「お前ねぇ、散々人に心配かけといてその顔はないんじゃね?」


後頭部から頬へと撫でおろされた手が熱くなっている顔を包み込む。ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる一也くんにドキッとしてる場合じゃないでしょ私。空いていた一也くんのもう片方の手がするりと腰から下へと撫でられていくのを止めないと。


「ちょ、まって。ダメだよ」
「楓が誘ったのに?」
「誘ってないっ、、!ほんとダメだよ!もうすぐ親が来ちゃうんでしょ!」


彼氏がいる事は母に伝えてあるがさすがにそういう問題じゃない。必死に胸元を押してもびくともしない一也くんに逆に押され、そのままベッドへと倒れ込む。すかさず覆いかぶさってきた一也くんに破裂しそうなほど鼓動が高まるせいで咄嗟に言葉が出てこなかった。
本気で嫌だと思っていないどころか嬉しいと思ってしまう自分が恥ずかしい。
ゆっくりと一也くんの顔が近づくにつれて呼吸の仕方を忘れたみたいに息を止め、ギュっと目を瞑る。ふっと小さく一也くんが笑った気がした直後、ちゅっとわざとらしい音と共に一瞬だけ触れた唇は物足りなさを残してすぐに離れていった。


「今日も我慢しますよ。さすがに楓の親に嫌われたくないしな」


意地悪く歯を見せて笑う一也くんは何事もなかったようにベッド脇の椅子へと座り直す。その気になってしまった自分が居たたまれないけれど、垣間見えた一也くんの本音に愉悦を感じて顔を緩ませずにはいられなかった。

我慢しているのはお互い様だったんだね。

ただそれだけの事実ですべて満たされるのだから幻のような夢なんて必要なかったのかもしれない。
自分を落ち着けるためなのか天井を見上げて息を吐く一也くんの頬に唇を寄せたら怒られるかな。なんて思いながらもそっとその頬に唇をあてた。




御幸一也が大好きな相方と、相方と好みがクリソツな大好きなふぉろわーさんへ。
お誕生日おめでとうでした!!!
いつまでも御幸一也大好きできゃっきゃしてる二人でいて下さいな
write by 朋



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