AofD | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




答え合わせをしよう

私にはずっと悩んでいる事がある。
それは「私と彼の関係について」だ。考えても考えても出る事のない答えに、最近では頭を抱える事もしばしば。
傍から見れば仲のいいクラスメイトっていうところだろうか。その関係に甘んじていれば悩んだりもしないんだけど、何を隠そう私は彼の事が好きだ。だから、ただのクラスメイトで終わりたくない。
じゃあ、彼は私の事どう思ってる?考えてみたところで、その答えは彼しか持っていない。関係を変えたくても、確かな答えが無い限り踏み出す勇気もなくて。結局、また頭を悩ませるんだ。


「楓、おはよう」
「おはよ、白州くん。朝練お疲れさま」


まだ何も書かれていない黒板を見ながらボーッと考えていれば、不意に隣から掛けられた声。ただの挨拶なのに、心臓はどくりと大きく脈打ち、自然と口元が緩む。
そんな私とは対照的に、ついさっきまで部活してたんだよね?って聞きたくなるくらいの平然とした表情で隣の席に腰を下ろしたこの人こそが、悩みの種の張本人。クラスメイトの白州健二郎くんだ。


「ああ、そういえばコレ」
「ん?」


目の前に差し出された手に、反射的に手の平を上に向けてお皿のカタチをを作ると、ポンッと何かが置かれた感触があった。何だろう、確かめなきゃ。そう思うのに、微かに触れていった白洲くんの指のせいで手の平が痺れてしまったように反応が鈍くなる。
白洲くんは指が触れたところで動揺なんて欠片も見られないのに。ドキドキしているのはきっと私だけなんだろうな。・・・やっぱり、白洲くんから見た私はただのクラスメイトなんだろうか。


「楓が好きそうだと思って」
「わっ、かわいい。もらってもいいの?」
「ジュースのオマケだけどな」
「ありがとう!大事にする」


自分で考えておきながら若干気落ちしそうになったけれど、手の平に置かれたキャラクターのストラップと白州くんの言葉で一気に吹き飛んだ。
だって、このオマケを見たときに私の事を思い出してくれたって事だよね?顔を合わせていない時に自分の事を考えてくれたのがすごく嬉しくて。手の中にあるストラップをギュッと握り締めながら満面の笑みでお礼を口にすれば、白州くんも「そんなに喜ぶと思わなかった」と笑ってくれた。

穏やかに笑う表情は、年の割に落ち着いていると思う。一部の男子みたいにバカ騒ぎしているところなんて見た事ないし、部活でも派手さはないけれど堅実なプレーでチームの支えになってるって誰かが言ってた。
誰とでも分け隔てなく接してくれるし、女子と話している姿も良く見掛ける。でも、白州くんが名前で呼ぶ女の子を、私は他に知らない。

特別だって、思ってもいいの?
それとも、ただの仲のいい友達?
白州くんの持っている答えが知りたいよ。



◇ ◇ ◇



「ねぇ・・・私の事どう思ってる?」


誰も居ない教室で、隣の白州くんの席に置いたキャラクターストラップに向けて声を掛けてみる。白州くんだと思って言ってみるけれど、練習になる筈も無くじわじわと虚しさだけが広がって、机に置いてあるノートの上に突っ伏した。

仮想白州くんは返事がないってわかってるから簡単に言えるけど、本人に向けてだとそうもいかない。まずどうやって切り出せばいいのか、言ってしまったらなんて返事が返ってくるのか。考えるだけでギュウっと胸が痛くなってくる。
だって、頭の中に思い描く白州くんはいつもちょっと困った顔をして「ごめんな。友達以上には見れない」って言うんだ。
想像するのなら甘い展開に持っていってもいいのに、残念な結果しか導き出さない自分の想像力の無さを恨むよ。


「はぁ・・・」


さっきから独り言とため息ばかりが増えていくし、そろそろ出ようかな。野球部の練習始まるまで課題をやりながら時間を潰していただけだし、もう良い頃合だろう。


「明日また考えよ」
「・・・何を?」


白州くんの練習してる姿を見てから家に帰ろうと切り上げる為に独りごちたのにも関わらず、返ってきた返事にビクリと肩が揺れる。
誰?なんて確かめなくたって直ぐに分かった。好きな人の声は例え喧騒の中でだって聞き分けられる自信がある。
だからこそ、突っ伏していた顔を中々上げる事ができなかったのに、「楓?」と促すように呼ばれた名前に観念してゆっくりと頭を持ち上げると、すぐ横に練習着姿の白州くんが立っていた。
いつからここに居たんだろう。教室に入ってきた事に全然気づかなかった。私の独り言、どこまで聞いてた?
色々な疑問が浮かんだけれど、さっきの事を掘り返されると都合が悪い。だから、投げかけたのは無難な問いかけだった。


「白洲くん、どうしたの?忘れ物?」
「ああ。今日出された課題、机の中に入れたままだった」
「珍しいね」
「ん?これって・・・」
「あっ」


机の上に置きっぱなしになっていた仮想白州くんを不思議そうに摘み上げながら、何故ここに置いてあるのかと視線で問いかけられる。
まさか白州くんに見立てて質問していました。なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、どうしようかと視線を動かした時に目に入った机の上のノート。


「えっと、サボらないように見張っててもらおうと思って」
「ははっ、なんだそれ」


あ、笑った。
思わず零れてしまったというような笑い方は白州くんにしては少し珍しくてつい見入っていれば、白州くんも真っ直ぐに私へと視線を合わせてきた事で僅かに緊張感が走る。


「でも、俺にはサボってるように見えたけどな」
「いや、あれは、考え事をしてただけで」
「考え事って・・・何か悩みでもあるのか?」


俺で良ければ聞くけど。そう続けられた言葉は純粋な好意だろう。多分、友達としての。
いっその事言ってしまえたら楽になるのかもしれない。丁度今は二人きりだし、こんな機会滅多にないし・・・。そう思うのに、やっぱり言葉が出てこなくて言い淀んでしまう。
すると、頭にポンッと乗せられた白州くんの手。視線だけでその手の先を追えば、いつもみたいに穏やかに微笑んでいる表情が映る。


「楓が言いたくなった時はいつでも聞くから」


離れていく手を掴んだのは殆ど衝動的だった。行ってしまうと思ったら体が勝手に動いたのだ。
どくんどくんと奏で出した心臓の音を聞きながら、小さく息をひとつ吐き出して白州くんへ視線を合わせた。

戸惑っている様子の白州くんを見ると、掴んでいる手を離して「何でもない」と逃げてしまおうかとも思った。
咄嗟の事だったから自分自身の気持ちがまだ追いついていなくて、正直逃げてしまいたいのが本音だ。けど、それじゃあ今と何も変わらない。
白州くんの持っている答えが知りたければ、聞くしかないんだ。


「白州くん、あのね」
「ん?」
「白州くんが私の事・・・どう思ってるか知りたい」
「・・・え?」
「って言ったら、答えてくれる?」


無意識に掴んでいる手に力を込めると、白州くんの手もピクリと反応した。
・・・言ってしまった。もう、後戻りは出来ない。


「もしかして・・・ずっと悩んでたのか?」
「・・・うん」


視線だけが逃げるように下へと落ちていき、一方的に掴んでいる手を捉える。
自分のとは違う無骨な指や日に焼けた肌を眺めながら次の言葉を待っていたけれど、「ごめんな」という単語が耳に届いた瞬間、ガツンと頭を殴られたような衝撃が走った。


「・・・うん」


何だ、やっぱり想像通りだった。困らせてしまった。・・・言うんじゃなかった。
何とか返事をしたけれど、喉に何か詰まったみたいに言葉が出てこなくて、代わりに涙がこみ上げてくる。

掴んでいた手にも力が入らなくて離そうとした時、するりと白州くんの指が間に入ってきて絡め取られてしまった。


「悩ませてごめん」
「えっ」
「俺はずっと・・・楓の事が好きだ」
「・・・しらす、くん」
「言わなくても伝わってるかと思ってたけど、やっぱりこういうのはちゃんと言わないと駄目だな」


目線を合わすためにしゃがんで顔を覗きこまれれば見ない訳にはいかなくて、ゆっくりと視線を移した先に見えた白州くんは、困った顔なんかじゃなく、どこか照れたような、初めて見る表情を浮かべていて。それを見た時に、ストンと白州くんの言葉が自分の中に入ってきた。

私と同じ気持ちでいてくれたんだ。
その事実が嬉しくて、さっきとは違う意味の涙が一筋頬を伝った。

白州くんは、私の事が好き。
私も、白州くんの事が好き。

言葉にしてしまえばこんなにも簡単で、あんなに悩んでいたのが嘘みたいに白州くんは答えをくれた。


「白州くん」
「ん?」
「ありがとう。あのね、私も・・・」


だから、次は私の持ってる答えを伝えよう。
そしたら、いつもみたいに優しく笑ってくれるかな。




初めての白洲先輩でした!
フォロワーさんが白洲先輩好きで書いてみたんですが、初めてなので解釈違いだったらごめんなさい!!
write by 神無
title/bathtub



[ back to top ]