二口くんと付き合って分かった事が一つ。
彼は意外に紳士だった。
意外って言い方は失礼かもしれないけど、男子高校生なんて皆猿みたいなものだから。
そう誰かが言っていた気がするし。毎日一緒に居るにも関わらず指一本触れてこないのには驚いたし、私の事好きってからかっているだけなのかとも思ったくらいだ。
でもそれは最初だけで、言葉の節々や態度、表情に私への気持ちが見て取れたので最近では逆に不思議に思う。
「って感じなんだけどさ」
「それってアレじゃない?今流行りの草食系とか」
腐女子友達との電話で二口くんについて話してみるとこの返答。
草食系男子ねぇ・・・。でも告白の時の流れを思い返すととてもそうは思えないんだけど。
そもそも草食男子って、自分から告白とかしないんじゃないの?
「多分違うと思う。二口くんめっちゃ肉食っぽい」
「妄想の中でじゃなくて?」
「いや、リアルに」
「ふーん。じゃあその内手ぇ出してくるんじゃないの?ってか葵はいいなぁー。イケメンでウチらの趣味を嫌がらない彼氏見つけちゃってさ」
もう二度と現れないかもしれないんだから、大事にしなよ。そう締めくくられて通話を終了する。
別にそんなに手を出して欲しいわけじゃないんだけど・・・。むしろ、誰かと付き合うのが初めてな私としてはこの距離感が心地良かったりもする。
付き合って一ヶ月。最初は流されたものの、二口くんと一緒に居て彼の優しさに触れる度に段々と惹かれていった。
決定的な何かはないけど・・・多分好き、なんだと思う。
こんな言い方は失礼かもしれないけど、元々顔と性格はドンピシャで好みだった。好みじゃなかったらこんなにも妄想してないし。好みだからこそ宇宙のように果てしなく妄想が広がっていくわけで。
でも、その頭の中で繰り広げていたアレコレが自分に向けられるとは思ってなかったから戸惑いが大きかったんだ。
この気持ち・・・伝えてみようかな。でも、今更?いつのタイミングで?妄想では全て上手くコトを運べるのに、現実ではそうはいかない事を思い知った。
◇ ◇ ◇
「うはっ、おいしい」
鎌先先輩と二口くんの絡みを見て、思わず口から本音が漏れる。
彼と付き合うようになってから毎日こうしてバレー部の見学にきていた。付き合う前から見学はしていたけど、体育館の中で!堂々と!見学出来るのはかなり嬉しい。他に誰もいないから独り言も呟き放題だし。今まで名前が分からなくてあだ名で妄想していた先輩達も、ちゃんと名前を覚えたから妄想だって捗る。
二口くんがハッとしたように私を見たので軽く手を振るけど、その後の視線はちょっと呆れたようなものだったので、私が何を考えているのか分かったんだと思う。
彼とは始まりもアレだったし、私の腐り具合は今更隠すこともしなかった。もちろん深い話はしないけど、会話の切り口として「今日は何の妄想してたの?」なんて二口くんに聞かれて答える程度。
それでもドン引きせずにちゃんと聞いてくれる彼は友達の言うとおり本当に貴重な存在なのかもしれない。
ネタ帳を出していつものように書き留めていると、背の高い子が二口くんに駆け寄っているのが視界に入る。その姿がまるで犬みたいに見えて、そのまま二口くんとのやり取りを眺めていると、段々と自分の顔が緩んでしまう。
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【年下ワンコくん×二口くん】
「二口さんっ!好きです」
「は?何言って・・・うわっ、ちょヤメロって」
ガバッと勢い良く抱き締める。
「嫌です!なんでこんなに可愛いんスか」
「はーなーせーって、オイ!どこ触ってんだよ」
指先で腰を撫でるワンコくん
ちょっと反応しちゃう二口くん
「そんな可愛い反応されたら俺・・・止まらないっス」
「いや、止まれ。な?」
「そんなに嫌なんですか?」
悲しそうな顔で眉を下げながら見つめるワンコくんに絆される二口くん。
「別に、イヤじゃねーけど」
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キター!!!
年下のワンコ攻めとか最強すぎる!
今まで二口くんがタチで色々考えてたけど、年下ワンコくんなら全然ネコでも有りだな。
むしろリバとかでもイケる。あぁ、今日は二口くんにあのワンコくんのこと聞かなくっちゃ。
そんな事を考えて一人で悶えていた時に、ふと友達の言葉が頭を過ぎってもう一度二口くんを見やる。
うーん・・・やっぱり草食って感じじゃないよな。時々見せる意地悪な顔とか、揶揄うような言動とかはちょっとSっぽいし。あれか?肉食に見えて実は草食ってやつ?えーっと・・・アスパラベーコンだっけ。やっぱりしっくりこないなぁ。
もしかしたら何かのキッカケで急に攻めに転じちゃうとか!?
後ろからハグされて、耳元で「葵・・・」と囁かれる。固まる私を余所にそのまま顎に手をかけ唇を・・・。
って、無理無理無理!!自分に例えて妄想とか無理ゲーすぎた!これじゃあただの痛い人だし。
一瞬にして速くなった鼓動とあつくなった顔を落ち着かせようと深呼吸していると笛の音が聞こえ、コートへ視線を落とす。
丁度練習が終わったらしく、私もコートへと降りて二口くんへ声を掛けた。
彼が着替えるのを待っている間になんとか脈拍も顔色も治まってホッとする。妄想であんなに刺激を受けたのは初めてだよ、うん。
「お待たせ」
「お疲れ様、行こっか」
若干疲れた顔をして部室から出てきた二口くんに、労いの言葉を掛けて2人揃って歩き始める。
早速気になっていたワンコくんの名前を聞くと、訝しげな視線と共に名前を教えてくれた。黄金川くん・・・黄金川くんね、よし。
さっき妄想していたことを頭の中でもう一度反芻したので、つい口から「年下ワンコ攻めっていいよね」と本音が漏れてしまった。慌てて口を噤むけど、二口くんは全然気にする様子もなくバレーの話を振ってきて、インハイ予選に来ないかと誘ってくれた。
インハイ予選とか凄く行きたい!ネタ探しもあるといえばあるけど、それよりも・・・。この一ヶ月間、バレー部を近くで見てきて、彼らの努力を目の当たりにしてきた。それが報われるのを見たいし、報われるように応援したい。だから、
「ちゃんと俺の応援してくれるならいいよ」
「もちろん!全力で応援するよ」
そう二口くんの言葉に即答すると、隣に居た彼の大きな手が私の頭に伸びてきて、何をするのかと思いきやそのまま撫でられた。
いきなりの事で呆然としていたら、そのまま手を強く握られて何事も無かったかのように歩き始める二口くん。手を繋いでいるので必然的に私の足も動くけど、この状況に心はまだ着いていっていない。
私の手をすっぽりと包み込むような大きな手。普段からボールを触っている所為か少しカサついた掌。手を通して伝わってくる二口くんの体温。離さないと言わんばかりの力強さ。
その全てを感じた時、心臓がキュッと音を立てた。
足りなかった決定的な何かが今、埋まった気がする。
私やっぱり、二口くんの事好きだ。
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年下ワンコ攻めが好きなのは私です(笑
黄金川が好きなわけではないww