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「どうしてここにいるの?」


動揺を隠しながらそう問いかけた。
3年の教室は1階にあるから、ここ3階に偶々通りがかって・・・なんていう事があるはずない。つまり、何か理由があってここまで来た訳だ。


「国見ちゃんからメール来た。心配してたよ」
「あ・・・」


教室を出る時に声を掛けてくれた国見くんを思い出す。確かに心配してくれてた・・・あの後、徹ちゃんにメールで知らせてくれたのか。

国見くんって面倒臭がりっぽいのに、態々そんな事してくれたんだ。嬉しい・・・凄く嬉しいんだけどっ!ちょっとタイミングが悪かったよ。


「や、でも先輩とお話してただけだから」


心配されるような事は何もないよっていう意味を込めて、先輩の方へ振り返る。


「あれ?」


でもソコには誰の姿もなくて、忽然と先輩は姿を消していた。
おかしい・・・先輩は自分の教室に行くには徹ちゃんの後ろの階段を使わないといけないはずなのに。


「忍者?・・・まさか、幽霊!?」
「は?何、急に」
「だって先輩が消えちゃったから」
「あぁ、さっき葵の後ろの渡り廊下からどこかへ行っちゃったよ」


えぇ!?そっちか!別校舎からとは盲点だった。逃げるんだったら徹ちゃんに説明してからにしてよね。最初から最後まで傍迷惑な先輩だな、もう。


「ちょっと、話逸らさないでくれる?」
「・・・うん?」
「怪我の話。ずっとそこで話聞いてて、俺が出なくても良さそうだったらそのまま顔出さずにいようと思ったんだけど・・・怪我って本当なの?」


口調は怒ってるみたいだったけど、その表情から心配してくれていることは明らかだった。
その表情を見たくなかったから・・・心配されたくなかったから黙っていたのに。


「あの時、葵が中学で辞めたって聞いておかしいと思ったんだ。途中で投げ出すように見えなかったから」


畳み掛けるように言葉を繋げる徹ちゃんを見て、覚悟を決めた。もう白を切るのは無理だろうから、本当のことを話さなくちゃいけないよね。
ふぅ、と浅く息を吐いてから彼の顔を見上げた。


「中学の時ね、バレーが凄く楽しくて。練習に没頭してたら・・・膝、ダメにしちゃって」
「・・・うん」
「この前みたいに少し遊んだりするくらいなら全然大丈夫なんだけど、本格的にやるのはもう・・・ね。徹ちゃんも、オーバーワークには絶対気をつけなきゃダメだよ」


オーバーワークからの怪我は誰しもが起こり得ることだから。
徹ちゃんは昔からバレーに関して頑張りすぎちゃうところがあるし、気をつけて欲しかったから余計なお世話と思いつつも最後に付け足してしまった。

なるべく悲観的にならないようにそう告げた後に笑顔を浮かべると、グッと力強く腕を引かれて徹ちゃんの方へ引き寄せられる。


「っ、」


突然の事で何がなんだか理解できないまま徹ちゃんの腕の中に抱き留められていたけど、彼の熱が伝わってくると同時に今の状況を把握して、血が一気に駆け巡る。ドクドクと大丈夫かってくらいに心臓は脈打っているし、きっと顔は耳まで真っ赤になっているだろう。

だって、私から徹ちゃんにじゃれるようにくっ付く事はあっても、その逆なんて今まで無かった。こんな風に力強く抱き締めるなんて知らなかった。


「葵が怪我した時、傍にいてあげたかった」
「徹ちゃん・・・」
「昔みたいにずっと一緒に居たら、怪我する前に絶対気付いてやれたのにな」


耳元でそう呟く徹ちゃんの言葉を聞いた時、熱いものが込みあがってきた。

徹ちゃんの想いが嬉しくて・・・あの頃の辛かった気持ちを思い出して・・・。色々な感情が混ざったその涙を止める事が出来ずに一筋頬を伝う。そんな私の微かな震えが伝わったのか、巫山戯たように


「泣いたらちゅーしちゃうぞ」


前に聞いたことのある台詞が再び降ってきて、思わず顔を上げた。
冗談みたいに軽く言われた言葉に怯むことなく、しっかりと徹ちゃんの目を見て言葉を放つ。


「してよ」


徹ちゃんがどういうつもりで言っているのか分からないけど、私の気持ちを知った上でそんな風に言うのはズルい。
一瞬驚いた表情を浮かべた徹ちゃんだけど、ふわりと微笑むと指で優しく涙を拭ってくれて、その手が後頭部へと包み込むように添えられたのを感じるとそっと目を閉じた。

グッと引き寄せられるような感覚の後、唇に温かく柔らかいものが合わさった時には心臓が掴まれたようにキュッとなる。それが離れていった後、恥ずかしくて徹ちゃんの顔が見れずに隠れるように胸の中へ顔を埋めた。


「好き・・・大好き」
「俺も、とっくに好きなのかも」
「えっ」


想いが溢れて零れた言葉に、自分に都合のいいありえない言葉が返ってきた気がして、恥ずかしさも忘れて徹ちゃんを見上げる。さっきとは打って変わってニヒルな笑みを浮かべながら、私の前髪を指先で払うのを不思議に思っていると、徹ちゃんの綺麗な顔が視界いっぱいに広がって・・・硬直してしまった。

ちゅっ、と音を立てて触れた後おでこから離れいくのを見て一気に顔へと熱が集まる。


「ふはっ、顔真っ赤」
「当たり前じゃん!ね、ねぇ。さっきの・・・聞き間違いじゃないよね?」


今のキスって、そういう事だよね!?
縋るように徹ちゃんに答えを求めると、またしても腕の中へ閉じ込められた。


「好きだよ。・・・って言っても、自覚したのはつい最近だけど」
「本当に?」
「いくら俺でも、ただの幼馴染だと思ってたらキスしないよ」


頭を梳くように撫でながらそんな事を言われたら、もう抑えきれない。


「もうお隣のお兄ちゃんじゃなくて、彼氏って思ってもいいの?」
「どーぞ」
「はじめくんにも言っていい?」
「うん。でも岩ちゃんには俺から言うよ」
「あと、・・・」
「うん。後で聞くから、今はコッチ」


浮かれる私を黙らせるように口を塞がれる。
さっきの一瞬のキスとは違って、唇の感触を堪能するようなそれに心が震えた。


「放課後、部活来るよね?」
「うん」
「今日からは俺が終わるまで待っててよ。一緒に帰ろう」
「っうん!」


ずっと大好きだった隣のお兄ちゃんが彼氏になった日。
境界線を越えたこの日を、私は絶対忘れない。



fin.




及川さんに「ちゅーしちゃうぞ」って言われたい。
そんな感じで始めました(笑

及川さんは、年下ヒロインだと大人っぽくなります。
同級生ヒロインだとちょっとアホ&チャラい。
他のキャラ夢に出てくるとチャラさ倍増です。
うちのサイトの大王様はそんな感じ。


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