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秘密の関係に終止符を


「澤村ー呼んでるぞー」


昼休み、クラスメイトが放った言葉に思わずそちらの方を見てしまった。
扉の方に向かう大地と、その先に居るのは…道宮さん。


「あれーまた?最近多くない?」


私が会話を止めて視線で追ってしまったからか、その場にいた友人も気がついたらしい。
その証拠に先程までの会話から一転、矛先がこちらへ向いた。


「いいの?ちょくちょく道宮さんと話してるよね」
「うん。でも、部活の話だと思うよ?同じバレー部主将だし」
「ふぅん…葵が良いんなら、良いんだけどさ」


余計な心配だったかな。そう続けた友人に、ありがとうと感謝を返す。

正直、平気な訳ではない。自分の彼氏が他の女子と話していれば少しは気になるし、道宮さんは多分…大地のことを好きなんだと思う。仕草から伝わってくるし、大地はそれに気付いているのかいないのか。いまいち分からないけどあの態度からするにきっと気付いていないんだろうな。
彼女だから大丈夫なんて、そんな自信は生憎持ち合わせてはいない。第一この学校…いや、このクラスの一体何人が私達が付き合ってるのを知っているんだろう。

大地は部活がある。遅くなるから待たなくていいなんて言われたら、先に帰るしかない。朝だって朝練があるから別々だし、たまにある部活休みの日はデートしたりもするけど、そんなの皆は知らないし。二人とも人前でイチャつくような性格でもないから傍からみれば仲のいいクラスメイト?あ、ヤバイ。なんか考えるだけで凹んできた。


「やっぱ大丈夫じゃないじゃん。顔に出てるよ?不安です〜って」
「え?本当?」


思わず顔を抑えてしまってから、失敗したと気づく。
これじゃあ肯定したのと一緒だ。


「う〜ん。じゃあ言うけどさ、たまには一緒に帰りたいなぁ。とか思うけど我儘だと思う?」
「全然!たまには良いんじゃん?いつも我慢してるし、秘密にしてる訳でもないんだし」


そうなんだよね。秘密にしてる訳じゃないのに気づかれないっていう切なさ。最早秘密にしているのと同じなんじゃないかと思うくらいだよ。

とりあえず、思い立ったがなんとやら、トークアプリで誘ってみる事にした。道宮さんとの話は終わってるみたいだけど、今は菅原くんと楽しそうにお話してるし。こういう消極的なところがダメなんだろうな。はぁ…。


《今日一緒に帰ってもいい?》


今の気持ちを悟られないために付けた顔文字がどこか滑稽だったが、まぁ良しとしよう。
何となくそのままの流れで友達と一緒に大地の動向を見ていると、意外と早くスマホを取り出して確認していた。私のスマホに表示させたままになっているソレに既読がついたのを見て、何故か緊張が走る。


「ちょ、こっち来たよ」


友人の声に、スマホを眺めていた顔を上げると、既に目の前に大地の姿があった。
トークアプリに返信は来ていないので、確認してそのままこっちに来たって事なんだろう。


「葵、これって…」
「いや、久しぶりに一緒に帰らないかなって思って」


あぁ、言った矢先に後悔する。だって、視線を外して困ったように頭を触る大地を見れば、私が望む答えではないっていう事が分かるから。


「あー、今日も自主練とかあるだろうから遅くなるし…」
「だ、だよね!また今度で全然大丈夫だよ!」
「…ごめんな?」


◇ ◇ ◇


はぁ…なんだか昨日のごめんなが何回も頭の中で繰り返されて全然眠れなかった。
授業も全然身が入らなかったし、グズグズしてる自分が情けない。


「葵、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「ちょっと寝不足なだけだけど、顔にでてる?」
「うん。気分悪かったら保健室いく?」
「ううん、もうちょっと頑張ってみるよ」


友達の優しさが身に染みる。やはり持つべきものは友達だな、うん。

それからすぐに次の授業が始まったけど、やっぱりちょっと頭痛いなぁ。さっき頑張るって言った手前言い出しにくいけどやっぱり保健室行こうかな。でもなぁ…なんて同じことをグルグルと考えていると、


「先生、すみません」
「ん?どうした澤村」


大地の声が先生の板書の動きを止める。皆大地に注目していて、もちろん私も視線を移すと思いっきり目が合った。
え、私?しかも何かちょっと怒ってる?ズキズキと痛む頭は思考回路も上手く回ってくれなくて、理由が全然分からない。


「高宮さん、具合悪そうなんで保健室連れて行ってもいいですか?」
「んー?なんだ高宮そうなのか」
「あっ、はい…少し」


大丈夫か、なんて先生の心配する声に適当にしか返せない。
だって、何で大地が気づいたんだろうってそればかりが頭の中をグルグル回る。今日は全然話していないし、友達が何か言ったわけでもないと思う。それに、こんな時にそんな事言ったら…。


「澤村やっさしーい」
「良く見てんなぁ」


ほら、こういう冷やかしが入るんだ。

中学だろうが高校だろうが、敏感に反応して言ってくる人は絶対いる。主に男子になるけど。女子はもっと敏感だけどこうやって表立っては言わないから。


「葵、行こう?」
「…ぅん」


恥ずかしさもあって蚊の鳴くような声しかでなかったけど、大地には聞こえたみたい。

男子の茶々入れる声にもスルーしながら、優しくドアの方まで誘導してくれた。このまま保健室に行くのかと思いきや出る直前、


「自分の彼女良く見てるの、当たり前だろ」


そう言い放った。
閉めたドアからざわめきが聞こえて、あぁ、やっぱり皆知らなかったんだ。なんて思ったけど、それよりも嬉しさと恥ずかしさがじわじわとやってきて。


「あれ?先生居ないみたいだな」


保健室を開けて大地がそう言った瞬間、思わず後ろから抱きついてしまった。


「え?ちょ、葵?」


見た目よりもがっしりとしたその背中に顔を埋めて更にギュウッと力を込めると、シャツ越しに温もりが伝わってきて。昨日まで悶々と考えていた事が嘘のように晴れていった。


「あー…もしかしてさっきのマズかったか?」
「ううん…嬉しかったよ」
「そうか」


頭を撫でるようにポンポン、とされたのでそっと背中から離れる。
かなり名残惜しかったけどこんな所でいつまでもそうしているわけにいかない。そのままベッドへと促されたのでそっと横になった。


「俺先生呼んでくるな」


軽く頭を撫でて離れていこうとする大地の手を思わず掴む。
温かいその手をギュッと握ると、意を決して口を開いた。モヤモヤが晴れた今なら言えるかもしれない。


「あ、あのね」
「ん?」
「…我儘かもしれないけど、教室でもっといっぱい喋りたいとか、たまにでいいから一緒に帰りたいとか。部活頑張ってるの知ってるし、大地がバレーしてる所見るの好きだから…邪魔じゃなければ部活見学してたいな。って、思うんですけど」


最近考えていたことを思いつく限り口にした。
何だか我儘ばかりで申し訳なくて最後敬語になってしまったけど、もっと一緒にいたいってこと。伝わった、かな。


「…っ!」


ふわっと柔らかく降ってきた唇は、気づいた時には離れていた。
久しぶりのキス、ましてやこのシチュエーションでのことで瞬時に顔に熱が走る。


「あぁー、何でそう可愛いことを…」


項垂れながらそう呟く大地だけど、ただの我儘を言ってしまっただけで全然可愛いと思われることをしたつもりはない。


「俺も色々誤解してたみたいだ。葵は余り周りに知られたくないのかと思ってた」
「そんなことっ」
「うん。だからこれからは普通にしていような」


こくり、と首を縦に振る。
何だ。素直に気持ちを打ち明ければこんなに簡単な事だったんだ。悶々と悩んでばかりいないで早く言えば良かったな。


「あー、あと部活な…今まで渋ってたのにはちょっとワケがあって」
「あ、邪魔とかならごめん!集中出来ないとかだったら止めておくよ」
「いや、じゃなくて…カッコ悪くて言いたく無かったんだけど…男ばかり、だから」


男子バレー部なんだから男ばっかなのは当たり前だよね?あ、でも清水さんはマネージャーだから女子もいるか。
私が分かっていないことを察知したのか、大地が言いづらそうに口を開いた。


「葵のこと見せたくないし、あまり見られたくないなって…」


珍しく語尾を濁らせる言い方に、言い辛さは伝わってきたけど、思いもよらないその内容に顔が緩んでしまった。


「私は大地だけだし、大地がバレーしてるところを見たいな」


だから心配しないで。そう続けようとしたけど、ガラッと勢いよく開いた扉に驚いて言葉が出なかった。


「あれ?誰かいるの?ごめんなさいね、席外してて」
「あっ、はい。彼女ちょっと調子悪いみたいなので」
「分かったわ。付き添いありがとうね。あとは先生が付いているからあなたは教室に戻ってね」


突然に戻ってきた先生に、教室に戻らざるを得なくなったわけだが、今は授業中なので仕方ない。お互いに軽く視線を交わすと仕様がない、といった風に微笑んで大地は保健室を後にした。

先生と二言三言話してカーテンを閉められると安心したせいか急に睡魔が襲ってくる。
不意にスカートのポケットに入れていたスマホが一度だけ振動したので取り出すと、今しがた出て行った大地からのメッセージだった。


《今日は良く休んで早く治すように。そしたら明日、一緒に帰ろう》
《部活見学は上の観覧スペースで。流れ玉が危ないから!》


続けられた二つのメッセージに顔が緩む。
簡単にスタンプを返して、枕に顔を埋めた。
明日が今から待ち遠しいな、なんて思いながら幸せな気分で眠りに落ちた。




初めての澤村さん。崩壊気味でしかも最後は強制終了(笑)
迷走しながらぼちぼち書いていきます。

write by 神無


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