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駆け抜ける

私は今、ものすごい勢いで天国へのカウントダウンをしているのかもしれない。


「っっぅぅっ!!!」


声にならないほどの恐怖。
私は唯々、目の前の背中に必死にしがみつくしかない。
しかし、それがこの状況を悪化させているなんて知る由もなかった。

事の起こりはなんだったか…そう、始まりは中3のあの日だ。
幼馴染がサッカー部のくせにバレーの試合に出るというから見に行った事がきっかけだった。その試合、私は幼馴染ではなく、誰よりも早く高く飛ぶ、まっすぐな目の男の子から目が離せなくなっていた。

衝撃だった。
だからその子、日向翔陽君が烏野を受験すると聞いて迷わず烏野を志望し、無事に合格した。入学式後、なんだか色々あったようだけどバレー部で頑張る彼を度々こっそりと見に行くようになった。
中学の時は居なかった部活仲間がいるという環境は、彼をどんどん輝かせていったように思う。

気づいた時には好きだった。
一目惚れもあったと思う。私は、日向くんの眼に、勢いに、存在に、心奪われたのだ。

自覚してしまったら止められない。ものすごい勢いで膨らむ感情は抑えることが出来ず、思い切って告白した。


「日向くんが好きです!練習忙しいと思うけど、よかったら彼女にしてください!!」
「あっ、あ、あの!お、俺も高宮さんの事、きききき気になってて!」


同じクラスになった事がないのに、日向くんは私を知っていた。
どうやら他の部活動を見に行くなんて子はほとんどいないせいか、こっそり見ていたはずなのに気付かれていたらしい。
本当にビックリしたけど、それで日向くんも私を気にしてくれていたのなら結果オーライ!


めでたくお付き合いさせていただくことになったのだ。
だから今は付き合いたてのラブラブカップルというやつ。一緒に居られる時間は多くないが、幸せオーラ全開!しかも今日は付き合ってから初めて日向くんの部活が休み。
初めて一緒に帰る、いわゆる放課後デートというやつなのだ!

それなのになぜ生と死の瀬戸際にいるかというと、私が判断を間違え続けているから。


「お、俺!自転車だから!後ろ!乗りなよ!」


と、本来なバス通学だろう道のりを自転車で通っている日向君が気軽に?言うものだから慣れてるのかと思い遠慮なく乗った。だって、せっかくの初放課後デートなのにバス停までって短いし、寂しい。

しかも2人乗りなんてカップルっぽいし!(違法だけど)
辛いだろうなと思ったけどトレーニングになるからと言う日向くんに男らしいとすら思った。

そう、後ろに乗るまでは。
私が後ろに乗って、ちょっとドキドキしながらもためらいなく日向くんの両脇を持ってしまったから。


「っうひょうぉう!?」
「え?!ごめん、くすぐったい?」


おかしな声を発しながら背筋をピシッと伸ばす日向くん。
脇はダメだったかと手を放そうとするが「だだだだ大丈夫!ちゃんとつかまってて」と言うので再び脇…いや、今度は腰辺りを持った。


「じゃ、じゃあ行くよー」
「はーい!」


この返事を最後に、私は声を発することが出来なくなったのだ。

急にかかったGに一瞬戸惑い、置いて行かれそうになる上半身を必死に保つ為に手に力を入れる。すると日向くんがまたピクリと背筋を伸ばしたかと思ったと同時に、さらにスピードが上がる。
つかまっているだけでは心もとない支えは、何も考える余裕なく抱きつくような形で腕ごと日向くんの腰に回した。
この行動を最後に、私は身動きすらとる事が出来なくなったのだ。


人力ではありえないのではないかというスピードで2人乗りの自転車が爆走している。
山道なのに!!きっとすれ違った車はビックリしている事だろう。後続の車を引き離すほどの時速で走る自転車。

ありえないありえないありえない!!
あんなにジャンプできるんだから足の力は強いとは思ってたけど!!

そして登った後に待ち構えているのは、さらにスピードの上がる下り坂。転んだだけで交通事故並みのケガをしそうだ。
下手したら死ねる!冗談じゃなく!!

もう、目を開けているのも恐ろしい程の速さだ。
怖いとすら言えず、ただギュっと日向くんの背中にしがみついていた。



「・・・さん?高宮さん???」


自転車を止めて顔だけで後ろを振り返り呼びかける日向くんの声にハッと顔を上げる。
どれくらいの時間がたっていたのだろうか。半分気を失っていたのではないかと思うほど記憶があいまいだ。


「ごめん、近所だって話してたけど詳しい場所わかんなくて…とりあえずアイスでも食う?」


そういって目の前の駄菓子屋を指さす。昔から見慣れている雪ヶ丘中近くの駄菓子屋だ。
言われてみれば同じ中学だって話はしたが一緒に帰るのは初めてなので家を知らなくて当然だ。
とりあえずごめんと発しようとしたが、なぜか音にならずに口パクでの返事になってしまう。


「あれ?どうしたの…って!!なんか震えてる?!え!?え!?泣いてるの!?」


見慣れた景色を見て安堵したのか、自然と目に涙が溜まっていた様だ。そんな私にあわあわする日向くんだが、いまだに私がしっかりとしがみついているから身動きが取れずにいる。
離れなきゃって思うのに、やっと感じることができた日向くんの体温から離れられるだけの回復をまだしていない。


「ごごごごごめん!!!!おおおおれ!?俺?!何かした!?お腹痛い!?トイレ!?どこーー!?」
「っち…ちがっうの!・・わ・・たの・・」


やっと出た言葉に万歳の状態のままぴたりと止まる日向くん。
でもよく聞こえなかったみたいで、ほへぇ?って首をかしげている。
その姿がちょっと可愛くて思わず笑ってしまい、おかげで変に入っていた力が抜ける。


「…怖かったの…自転車、速過ぎて…」
「え゛!?ああああああごめん!!!!」
「死ぬかと思った…から…今、すごい安心して…泣けてきただけ…だから、お腹は痛くない、です」


言い終わってから自転車怖くて泣く高校生ってどうよって冷静に思ってしまった。
それに、泣いてる女の子にお腹痛い?トイレーって発言もどうなの。

やばい
ちょっとツボった

さすがに笑ったら失礼かと思い必死に堪えてみる。
だが、その姿が震えて泣いているようにみえるのか、さらに慌てだす日向くん。背中に抱き着いている状態なのでよく見えないし仕方ないのだがあわってっぷりが半端ない。


「ごごごごごごめっごめん!!おおおおおおおれ!ああ頭まままま真っ白で!!!」


あぁ、もう駄目だ


「っっくふっぅ!プフー―!あっはははは!ダメっっくくくっ!」
「ぅふぇ!?」
「ふふっ!私、っ怖がり過ぎ…っはは!日向くん慌てすぎっっくふふふっ」


笑った勢いでやっと体を放したが、笑いが収まらずただひたすら笑ってる私に、ついに日向くんも笑い出す。


「フハハハっ!確かに俺、めっちゃ慌てた!」
「あははは!私自転車で泣いたの初めて!」


お互い自転車に乗ったまま震えすぎーとか、どもりすぎーとかお互いを指さして笑ってしまう。如何にお互いが緊張していたかとか語り合ってさらに笑って。もうお腹も頬も引きつるぐらい笑った。
そんな時


「こらー!そこの若いもん!店の前でいつまでイチャついてんだ!買わんのなら他所でやれー!」


駄菓子屋のおじいさんに怒鳴られ、お互いビクーっと背筋を伸ばしてしまったことにさらに顔を見合わせ笑う。
そんな私たちに呆れ顔のおじいさんの視線に慌てて謝り、2人でアイスを買って食べた。

初めての放課後デートはスリル満載、笑いありの素敵な一日となりました。

おしまい




一話で終われた!!(笑)
翔陽は何とも温かい目で見たくなるエピソードしか思いつきません

write by 朋


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