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おめでとう、なんて

貴方の誕生日はいつですか?

この質問に対して、聞いてどうするんだと思ってしまう私がオカシイのだろうか。
誕生日だからといって特別な何かをしてもらった記憶はない。親が家にいる事すら少ないし、おめでとうと言われて何がめでたいのかも分からない。
ただ一年、なんとなく生きていただけでしょ。そう思ってしまうから、ある程度の歳になってから聞かれても曖昧に誤魔化す様になっていた。
おめでとうって言われても反応に困るし、逆にお返しを求められても困るから。
そんな態度をとっているせいか、友達付き合いも浅く広く上辺だけ。誕生日なんて祝い合うほどの距離まで近づかない付き合いが普通になっていた。
それなのに


「高宮さん、誕生日おめでとう」


誰も居ない朝の教室でのんびり読書をする私の至福の時間に、何処から仕入れた情報なのか目の前の男が私におめでとうと言ってくるではないか。


「・・・・赤葦くん、朝練は?」


たしか赤葦くんはバレー部で全国大会とかにも行っちゃうほどで、朝も夜も練習ばかりで遊ぶ暇がないって女の子たちが残念がっていたはずだ。
いつもチャイムギリギリで教室に入って来ていたし、本来ならまだ朝練中ではないのだろうか。
前の席に勝手に腰を下ろして私と向き合う彼は、私の質問に応える気は無いのか軽く微笑んだ後、またおめでとうを繰り返した。


「誕生日教えた記憶ないんだけど」
「そうだね。でも覚えやすい日だったから」


会話がかみ合っていない気がする。覚えやすいも何も教えていないのに。
いまいち何を考えてるのかわからない赤葦くんを疑って見つめてみても、彼は表情を崩さない。


「・・・はぁ、で?何が言いたいの?」
「なんで?俺は高宮さんにおめでとうって言っただけだけど」


それが何考えてんだって話だよ。
今まで挨拶とか、一言二言の会話はあったけど面と向かって話した事すらない相手に、わざわざ朝一でお祝いの言葉を言いに来るってどういうことなのか。絶対に何か裏があるはずだと疑心してしまうのは私の悪い癖か。


「・・・今日は知り合いの誕生日なの?」
「うん。俺」


何の変哲もない日なのに覚えやすいという事は、誰か身内で誕生日が一緒に人でもいたのだろうかと言ってみた質問にまさか「俺」と返されると思わなくて一瞬固まってしまった。そうか、それは覚えやすいね。覚えようと思えばだけど。


「なに?おめでとうって言ってほしくてきたの?」


理解した瞬間にスッと冷めた心が赤葦くんはめんどくさい人だと私に訴える。
私の刺々しい返しにも怯むことない赤葦くんが「そういうと思った」なんて知った風な口を利くから、思わず顔をしかめた。


「いや、高宮さんに俺を知ってもらいたくて。高宮さん俺を認識はしてるけど知らないでしょ」
「ごめん、何が言いたいのかわからないわ」


赤葦くんってこんな感じの人だっけと考えて見ても、確かに考えて分かるほど私は赤葦くんを知らない。
だが、私が知る必要なんてあるのだろうか。赤葦くんはクラスメイトで、強豪のバレー部で、女子に人気がある男の子。それだけの情報で十分だ。
だから早く会話を終了させてほしい。そう思っているのに。


「誕生日一緒ってさ、なんか感じない?」


険しい顔を崩さない私に、軽く雑談でもするように質問してくる赤葦くんの心の内なんてわからないけど、でも今までこんなに動じずに誕生日の話題をし続けた人なんていなかったから。
いつもなら周りが空気を感じ取ってくれたりして話題を変えてくれていただけに、この後どうやって話題を止めてもらったらいいのかわからず戸惑う。
それでも赤葦くんは止まらない。


「俺、高宮さんが初めてなんだよね。誕生日一緒な人」


同じ年の同じ日に生まれたって、ほとんど一緒って事じゃない?なんて感慨深そうに語る赤葦くんだけど、実際は何を思っているのだろうか。
そんな雑談をするためにわざわざ朝早くにきたわけじゃないだろうけど、私にその根拠は計りかねた。
興味ないから知らないと言ってみても、赤葦くんの表情が変わる事はない。


「俺は興味持ったよ。誕生日が同じ高宮さんに」


その瞳は真っ直ぐ私を覗き込んで、小さな反応ですら見逃してくれなさそうな、そんな強気の眼。
よくわからないけどなんとなく、逸らしたら負けな気がして内心焦りながらもその瞳を見つめ返した。


「興味持ったら自然と目で追う様になってさ。そういう強気なところも、みんなとちょっと一線置いているところも気になってね。もちろん誕生日が好きじゃない事も」


どうして・・。その質問は口から出なかったけど、目が口ほどにものを語っていたらしい。フッと笑ってから「よく見てたら分かるよ」なんて言うから、今度こそ耐えられず顔を背けた。
私はいつから赤葦くんに見られていたのだろうか。
いつもこんな目を向けられていたのだろうか。


「高宮さんは俺の事、いまどう思ってる?」
「え・・・めんどくさい。厄介。意外と強情」
「フハッ!高宮さん素直」


あまり何も考えずに言ってしまったが、確かに悪口ともとれる返答に、今更ながら謝罪する。
もちろん本心なのだが、いつもならもっと当たり障りない感じで返せたはずなのに。赤葦くんには調子を崩されるというか、普段通りでいられないというか・・。


「あ、赤葦くんがこんな人だと知らなくて驚いてるっていうか・・・」
「うん。だから俺を知ってほしくて。とりあえず誕生日からね」


もう覚えたでしょって確認は、覚えたよねって言う念押しにしか聞こえない。
赤葦くんがどんな人かなんて想像は膨らませていなかったにしろ、こんなに強引でめんどくさい人だなんて誰が思えただろうか。
頷く以外の答えなんて求めていないだろう赤葦くんに「たぶんね」とだけ返せば、なぜか面白そうに目を細めるから、予想外の反応にドキッとしてしまった。


「いいよ、今はそれで。これから覚悟しておいてね」


拒否権の無い宣言に頷くことも首を振る事も出来ず、ただ赤葦くんを見つめ返した。
新しく年を重ねても、ただなんとなく生きていくだけだと思っていたのに。
これからの日々に赤葦くんがどんな影響を与えてくれるのかわからないけど、少しだけ何かを期待している自分がいる。


「ところで俺、誕生日なんだけど」
「・・・誕生日おめでとう」


これからはこの言葉を言う日が増えていくような、そんな予感がした。




赤葦くん、お誕生日おめでとうございますっ!
苦手だってわかっていたのにネタが思いついてしまったから書いてしまいましたが・・・赤葦くんとは?という話になってしまいました。
赤葦ファンの方、すみません。私も赤葦くんの事よく知らなくて…
もっと勉強してから書くようにしますね!
write by 朋



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