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寒さが届けた温かさ

いつもの時間にいつもと同じように電車に乗り込む。
年明けすぐの日曜日なんて世の中お休みだからか、いつもよりもガランとした電車は心なしか寒く感じた。


「ま、冬休みも私には関係なかったけどね〜」


同じ車両に人がいないからと独り言まで呟いてしまうが、誰の耳にも届くことはない。明日になれば学生も社会人も一気に動き出し、あっという間に人であふれるのだろう。
この快適な車内も今日で終わりかと思うとすこし憂鬱な気分になった。

始発駅から乗り込む私はいつも同じ車輛の席に座る。ほぼ毎日乗っている為、定位置と化しているこの椅子に愛着すら湧いてくるくらいだ。
ゆっくりと動きだした列車で、いつもの様にスマホをいじる。日課のようにニュース欄を読んだ後、ゲームアプリをして過ごせば目的の駅へと付くというのがいつもの流れ。だから今日も同じようにニュース欄へと目を通せば、全日本高等学校バレーボール選手権大会とやらで宮城県代表が初戦を突破したニュースが上がっていた。
少し前に「大番狂わせだ〜!」とバレー好きの友人が騒いでいた学校なだけに、一勝できたんだと何故だか嬉しくなる。

あらかたのニュースを読み終えたところで、先程見た『烏野』という単語が聞こえ顔を上げると、向かいの席にいつも見掛けない二人組の男の子がスマホを見ながら会話をしていた。
私服だからハッキリとは分からないが、年が近そうな二人に自然と視線がいってしまう。
ガン見したら失礼だと慌ててスマホへ視線を戻したが、チラチラと盗み見てしまうのは許してほしいところだ。
起動させたゲームアプリそっちのけで観察している私は少し気持ち悪いかもしれないけど。背高そうだな〜とか、お互い自分のスマホ見てるのに会話が続くとか仲いいな〜とか。特に落ち着いた雰囲気の方は大人っぽいし、タイプだな〜なんて思っていた時だった。


「ヘブショイ!」
「お大事にどうぞ」
「フハッ!」


何の前触れもなく放たれたクシャミと、間髪入れずに続いたお友達の言葉があまりにスムーズで、その流れにノるように笑いが噴き出る。
いくら人が乗って来てたとはいえ空き空きの車内だ。当然私の声は彼らまで届いてしまう。


「あ、す、すみませんっ!お大事にどうぞ」


彼らの視線に耐えられず慌てて頭を下げて視線をスマホへと移動させる。
小さく「どうも」って聞こえた気がしたが、恥ずかしさから顔を上げる事が出来ずうつむいたまま頷いてみせた。
それを彼らがどう思ったかなんて確認できる勇気もなくて。カーッと熱くなった顔を隠すように頭を下げたままスマホをいじってやり過ごした。
実際には何を見ていたかなんて定かではないから、スマホをいじるフリ、なのだが。
その間も電車の音や他の人の声に混じって届く彼らの声に、勝手に意識が集中してしまう自分がいた。
あと二駅が遠い。まだ目的の駅に付かない事に、今日ばかりは学校までが遠いことを恨んだ。

とにかく落ち着こうと、ドアが開いたタイミング深呼吸をしてみると、思いのほか冷たい風が体内へと吸い込まれた。
1月の寒さが入り込んだ列車内は、人がどっと降りた事もあり熱した顔を一気に冷やしていく。その結果


「ヘップション!」


必要以上に冷えてしまった体が寒さを訴える。
鼻水が垂れなくて良かったとか思いながらも、先程笑った手前、居心地の悪さからチラリと二人を盗み見ると、二人ともしっかりこちらを見ていてバッチリ目が合ってしまった。


「「お大事にどうぞ―」」


きれいにハモった台詞にはニヤリという笑顔が付いてきたことに、「どうも」と返した後にまたしても笑いがこみ上げてしまい慌てて口を押さえる。
せっかく冷えた顔はまた熱を持ち始めてしまったが、二人も一緒になって笑ってくれたので、その場に何とも言えない温かさが広がった。
対面の席で笑い合う私たちを周りの人たちが不思議そうに見ているがどうにも止まらず、次の駅のアナウンスが流れるまで笑い続けた。
もう次の駅で降りてしまうけれど、気になっていた方たちと和やかな雰囲気で終われたことが嬉しくて、いつまでも頬は緩んだまま。
列車の停止とあわせて席を立ち、二人に会釈した時もきっとだらしのない顔をしていた事だろう。

「じゃ〜ね〜」なんて手を振ってくれる彼らに手を振り返し、明日から混むからやだな〜なんて憂鬱になっていた気持ちはどこかへ消え去っていて、改札までの階段を足取り軽く駆けのぼった。
冬休みの日曜日だし、きっと彼らは普段あの電車は使わないんだろうなって思うと少し寂しいけれど。それでも今日、いいことがあったと浮かれる気持ちは確かなもので。しばらくはクシャミするたびに笑っちゃうんだろうな、なんて想像してまた笑った。


「もう一度逢えたらいいな〜」


それはまるで少女漫画のような展開だが、わずかな可能性を期待してしまうくらいには彼に惹かれていた。
恋心と呼ぶほどには成長していない芽生えたばかりのこの気持ちは、しばらくしたら枯れてしまうんだろうけど。会えるわけないと分かっていながらも期待して乗る電車は、いつも通りの日常をほんの少し温かいものにしてくれた。

そんなほの甘い気持ちも長くは続かず、予想通り芽生えた若葉が桜と共に散り出した春。
最上級生へと進学した私は、新年度も変わらず部活漬けの毎日を送っていた。

あの日以来、変わる事のない日常。
しいて言うのなら春になり、花粉症の季節になった為クシャミをよくするようになったということくらいだろうか。
ただあの日の様に抑えたクシャミをすることに疲れてしまった私は、マスク越しを良いことに遠慮のないクシャミを繰り返す。
周りに白い目で見られがちだが、この時期だけはご勘弁願いたいところだ。
今日も今日とて同じ席でクシャミを繰り返す私の隣の席は開いたまま。まぁ、わざわざ落ち着けない隣に座るような人はいないかと納得し、列車のドアが開いたことでまたクシャミを繰り返す。


「ハックシュッ、、、ハッッックシュン!」
「フハッ、豪快だね。お大事にどうぞ」


その笑い声にハッと顔を上げる。
花粉の影響なのかクシャミ後だからなのか少しぼやけた視界に、あの日の彼の姿が映った。
あの大人っぽい雰囲気に、ちょっと垂れた眉。平日の今日も私服なところを見ると、どうやら大学生のようだ。
すらりと高い背をかがめ、風邪?と心配してくれる彼に花粉症ですと返すと同時に隣に少し傾く体。どうやら誰も座る事の無かったこの空席に、彼が腰を下ろしたようだ。


「前もこの席じゃなかった?」
「あ、ほぼ毎日ここに座ってます。土日も部活あるので」


それは大変だね、なんて言ってくれるけどそれほど驚いたように感じられないので、もしかした彼もそんな生活を送っていたのかもしれない。
背も高いし、前回高校バレーの話しをしていたからバレー選手なのかな?なんて一人で勝手に妄想を広げる。

どうやら彼はこの春から大学生になりこの電車に乗るようになったようで、毎日ではないが今後もこの時間の電車に乗る日があるらしい。
彼への憧れ的キモチは散りかけていたはずなのに、彼の声が響いてくるたびにトクンと脈が小さく音を立てた。
もう会えないと思っていたのに。これからはまた会えるかもしれない。ただそれだけの事実が無性に嬉しくて、いつもなら長く感じる通学時間があっという間に過ぎていく。


「じゃ、また明日ね」
「っっ!はい!また明日です!」


席を立った私に当たり前のように掛けられた声と、優しい笑顔。
つま先から痺れるような温かさが全身を駆け抜け、彼に恋をした事実を伝えてくる。
明日も彼に会えるんだ。
いつも通りの通学が、彼がいるだけで酷く待ち遠しいものへと変わる。


「ひゃっほいっ!!」


走り去った電車を見送りながらホームで叫ぶ私は何て怪しい人なのだろうか。
でも叫ばずにはいられなかった。
寒かったあの日に芽生えた温かな気持ちは、熱いモノへと変化し、私を駆り立てる。

明日は、彼の名前を聞こう
そして、私の名前を呼んでもらおう




ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
書き終わってから思ったんです。
名前変換どころか、松川の名前すら出て来ないって夢小説っていえるのか・・・???
え、しかも原作読んでる人でもわかるかどうか微妙な一コマのネタを拾ったやつなのに…反省。
いつか続きでも書けばいいのかな…

write by 朋
HappyBirthday Saito!



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