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野獣とプリンス 野獣の苦悩


熱気あふれる体育館にボールの音とシューズの擦れる音が響き渡る。


「葵――!!」
「ナイスパス!・・・・よっ!」


仲間からの絶妙なパスを受けた彼女がすぐさまシュートを放てば、ふわりと弧を描いたボールはシュッと音を立てネットを揺らした。その瞬間


「「「「「キャー―――!!!!!!!高宮様ーーーー!!!!」」」」」


体育館中に響き渡るほどの黄色い声援があがるのは今日でもう何度目だろうか。
彼女が何かプレーをするたびに上がる歓声で相手選手がやりにくそうにしているのを見るたび、自分のことでもないのに苦笑いが浮かぶ。
コート内を行きかう姿は本当にキラキラしていて、男の俺が見ても確かにカッコいいと思ってしまうほど、彼女は人を引き付ける。
練習試合なのに沢山のギャラリーが押し寄せるほど彼女、高宮葵の人気はいつも凄いのだ。
そんな彼女がなんで俺なんかを…。試合の応援に来たにもかかわらず観客席へ行かず入り口で佇むのは、いつもどこかでそんなことを思っているせいか。

試合終了の合図が彼女のいる烏野の勝利を告げた。
その瞬間、沸き起こる歓声に応える様に観客席へ手を振り頭を下げる彼女に、もはや歓声は悲鳴へと変わる。
挨拶を終えてベンチで色んな子たちから声を掛けられる葵ちゃんを、どこか他人事のように遠巻きに眺めていた。


「東峰は行かなくていいの?」


ずっと隣で試合を見ていた清水が彼女を指さして誘ってくれるが、この雰囲気の中出て行く勇気は無くて「俺はここで待ってるよ」なんて言って体育館の入り口に佇んだまま清水を送り出す。
あんなに注目されている葵ちゃんの隣に行くのは忍びないし、何より周りの子たちは清水とのツーショットを楽しみにしているから。
その証拠に、お疲れ様と清水が葵ちゃんにタオルを渡せば、今まで騒いでいた女の子たちがうっとりとしたため息を漏らす。
どこからともなく聞こえる「お似合いのカップル」なんて例えも納得してしまうほど、二人の姿は絵になっていた。

いつだったかの学園祭で葵ちゃんが王子様役、清水がお姫様役をやってから二人はまさに理想のプリンス&プリンセスなんて女の子たちの間で評判になっていて、元々高かった葵ちゃんの人気がさらに上がったのだ。
だから、俺なんかがあの雰囲気を壊しちゃいけない。そう思っていたのに、清水はそんな俺の気持ちに気付いていながら葵ちゃんに俺の存在を伝えてしまう。
きっと清水なりに気を遣ってくれているのだろうが、清水から聞いて俺を見つけた葵ちゃんが皆の輪から外れてこちらへ駆け寄ってきてしまうのだから、俺としては心穏やかではいられなくなる。


「旭ーー!見に来てくれてたんだ!ありがと!」
「う、うん。今日は練習早く終わる日だったから。お疲れ様」


嬉しそうに駆け寄って来てくれる葵ちゃんだけを見ていたら可愛らしくて和むのだが、それよりも周りの目が気になってしまい素直に喜べない俺が情けない。
今日は体が軽くてよく動けたと嬉しそうに話す葵ちゃんの話しを集中して聞いてあげられず、帰りにまた聞くねっと話しを切ってみんなの所に戻る様に促してしまった。
「待ってるね」なんて言ってその場を立ち去ったけど、本当はそこに居るのが辛かっただけ。

チラホラ聞こえてくる「なんで高宮様の隣にあんな野蛮な人が・・」とか「高宮様の隣にふさわしくない」などの女の子達の本音が俺を不安にさせる。
今だって俺の姿が見えなくなったからだろうが体育館から俺の話題が聞こえてくる。


「高宮様、なんであの人といるんですか?」
「確かに葵の男の趣味悪いよね」


そんな声にいつまでたっても慣れず、またもや痛む心。
そうだよね、みんな思うよね。なんで俺なんだって。
俺だって葵ちゃんに告白してもらった時は心底驚いたんだから。皆だって不思議だろうな。

そんな周囲の声に、いつも葵ちゃんは「え〜変かな〜?旭カッコいいのに」と普通に返してしまうからみんな納得できなくて、葵ちゃんの趣味が悪いなんて言われちゃう。
それすらも申し訳ないと思っている俺は、よく「旭のそんな優しいところも可愛いけどね」なんて葵ちゃんにからかわれるんだけど。って、なんか思い出しただけで恥ずかしくなってきた。
体育館から少し離れた場所で一人で百面相している俺はかなり不審かもしれない。けど、新たに聞こえてきた声で俺はさらに慌ててしまった。


「旭の良さは教えてあげられないけどね。旭がモテちゃっても困るし」


私だけの秘密だから〜なんて葵ちゃんの声に、清水が「はいはい、ご馳走様」なんて返しているが俺はそれ以上聞いていられなくてさらに遠くへと立ち去った。

葵ちゃん恥ずかしすぎるよ。
早くなる心臓を落ち着かせるために、一人深呼吸を繰り返すが治まってくれず。
葵ちゃんが帰り支度を終えるまでには落ち着かなくちゃと顔も洗ってみたりして、浮かれた気持ちを鎮める。

本当に、いつも葵ちゃんにはドキドキさせられるな。
男女関係なく怖がられる俺に、葵ちゃんは初めから普通に接してくれた数少ない女の子。清水の友達だったってのもあるかもしれないけど、俺はその普通がとても嬉しかったんだ。
多分、俺はその時にはもう葵ちゃんを意識していたんじゃないかな。

だから、「旭ーおまたせ!」なんて笑顔で駆け寄ってきてもらえるのが嬉しくて、つい顔がほころんでしまう。菅あたりにだらしがないと怒られそうだな。
部活の後だからのんびり寄り道なんてしていられないけど、一緒に帰れるこの時間はとても好きだったりする。
隣を歩く葵ちゃんが今日の出来事を話してくれるのを聞くのも、なんだか恋人っぽくて嬉しくなるなんて言ったらまた皆に笑われるかな。


「っあ!」
「え?!?」


楽しそうに話をしていた会話の途中で、何かを思い出したように叫んだ葵ちゃんに驚いて俺も足を止めた。
ちょっと遠くなってしまったが、何か忘れものなら取りに戻らなくちゃとか思いながら葵ちゃんを見ると、困ってるわけでもなく楽しげな表情で俺を見上げていた。


「せっかくの放課後デートなんだから甘えちゃえって思ってたんだった」


そう言いながらするりと俺の腕に自分の腕を回して体を密着してきた葵ちゃんに、ドキッと心臓が大きくはねた。
普段なかなか二人きりにならないからか、こうやって葵ちゃんが触れてくることは殆ど無いだけにどうしていいかわからず固まってしまう。


「はは、なんか旭は私のだぞーって主張してるみたいでイイね」


そう言ってはにかむ葵ちゃんを見て、俺の中で沸き立つ衝動を抑えきれず、葵ちゃんの腕を引き人通りの少ない路地へと足を急がせた。
突然の行動に驚きながら俺の名を呼ぶ葵ちゃんに、ゴメンとだけ伝えてそのまま連れていき、人目が付かなくなったところでその体を抱きしめた。


「えぇ?!あ、あさひ・・??」
「はぁ・・葵ちゃんが可愛い過ぎて耐えられなかったよ」


いくら人気がないとはいえ、外で急に抱きしめたりしたから腕の中で葵ちゃんが恥ずかしそうに顔を染めた。
普段シャキッとしているだけに、その可愛らしい反応に沸き立つ感情が暴走を起こす。
赤く染まった頬に手を当て上を向かせ、そのふっくらとした唇へ己の欲をぶつける様に食らいついた。
それは触れた、なんて優しいキスじゃなく、文字通り食らいつく様にその唇を欲した。


「んっ、、ぁ、さ・・ひ、っんん」
「ご、めん。・・もう少し、だけ」


離れようとする唇を無理やり頭を押引き寄せて防ぎ、柔らかく熱い唇を貪る。
葵ちゃんの了承も得ずにこんなことダメだってわかってるけど、抑える事が出来ずに唇がふやけるほど求め続けた。
求めるだけ求め、これ以上は俺の変なスイッチが入ってしまうと唇を離せば、真っ赤な顔の葵ちゃんが涙目で荒い呼吸を繰り返していた。


「葵ちゃんお願いだからこれ以上可愛い顔するの止めて」


必死に抑えている欲望がこれ以上暴走しない様にきつく葵ちゃんを抱きしめる。
己の意志の弱さには反省しなくちゃいけないけど、葵ちゃんの無防備さや俺を喜ばせすぎるのも反省してほしいな。・・・じゃないと、


「もっと酷い事したくなっちゃうから」






ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
旭さん、え?本当に?って感じになってしまいました・・・。
そして強制終了のごとく終わらせました…。不甲斐ない。。。。

いつかちゃんとした東峰旭さんを書きたいな(欲望だけ)



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