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揺れる想いの先

私の彼氏はモテる、と思う。
周りを和ませるような明るさを持ち合わせていて、皆に分け隔てなく接する。
色々な人に声を掛けるコミュニケーション能力があるし、チャラいとか軽い、というわけでもない。

そんな彼だから、飲み会という場に誘われる事が凄く多くて。楽しいことが好きだという性格上、予定が無い限り誘いを断ったりもしないからしょうがないといえばしょうがないんだけど。内心ではかなりモヤモヤしてしまう。

私だって男ばかりの飲み会だったら快く送り出せるが、そんなのは滅多にない。女子だって当たり前のようにその場にいる。

そして、彼はモテるのだ。




「赤葦、ヒマ?ヒマだよね?ちょっと飲みに行かない?」


今日も例によって飲み会で会えない光太郎。この胸の中のモヤモヤとした想いを聞いてもらいたくて、後輩の赤葦に声をかけた。
どうせなら光太郎の事を良く知っている人に聞いて欲しい。そう思った時に辿り着いたのがこの赤葦京治という男だった。

赤葦は高校の時光太郎と同じバレー部に所属していて、光太郎の世話係と称されるくらいには光太郎の扱い方が上手い。
つまりは光太郎の考えている事が良く分かる、という事で。赤葦にどう思うか聞いてみたかったんだ。
もちろん、こういう場合は本人に聞くのが一番いいのは分かっているんだけどさ。


「葵さん、日に日に言動が木兎さんに似てきますよね」
「そんな事ないよ」
「いや、こちらに有無を言わせない感じが」
「あれ?木葉も来たのー?」


金曜日の仕事終わり、駅の近くの居酒屋。
バーとかそういうお洒落な場所じゃなくて、チェーン展開されている大衆居酒屋だ。

やや面倒くさそうに呟きだした赤葦は無視して、後ろに見えた木葉に話を振る。
二人とも高校の時に光太郎繋がりで知り合ったけど、今ではこうして光太郎抜きでも飲んだり出来る仲になっていた。

そして、光太郎と喧嘩した時や悩み事の時に白羽の矢が立つのも、主にこの二人だったりするわけで。今日も例外なくこうして呼び出したのだ。
ちなみに、今日飲んでる事は光太郎には内緒。だって、飲む理由を聞かれたりしたら困る。光太郎に言えないからこそ、二人に相談するんだから。


「久しぶりじゃん。何かあったのか?」
「まぁ・・・ちょっと」
「どうせ木兎さん絡みでしょ」
「そうです!どうせ、ね!」


さっき無視したからか、嫌味にもとれる言葉を落とす赤葦に噛み付いた。だけど、赤葦は呆れたような溜息ひとつで返してきただけで、手元のメニューから手際よく飲み物をオーダーしていく。年下なのにこの余裕・・・いつもの事だけど、何かちょっと悔しい。

上着を脱いでネクタイを緩め、袖を捲れば完璧なオフモードへと変わる二人。
それを見ながら、光太郎も今女の子の前でこうしてオフの姿を曝け出しているのかと思うと、自然と奥歯に力が入る。

嫉妬から友達に愚痴るなんてみっともない。笑って許せるような、心の広い大人の女になりたい。
常々そう思ってはいるけれど、まだまだ理想とは程遠いのが現状だ。


「お疲れさまー」


メニューを眺めている間にお通しと一緒にテーブルに運ばれてきたビール。
ゴンッと鈍い音を立てながらジョッキを合わせ、見るからに冷えていておいしそうなそれをゴクゴクと喉に流し込んでいく。
いつもはゆっくりと飲む性分だけど、今日はアルコールの力を借りないと上手く話せそうにない気がするし、何よりも飲みたい気分だった。

一杯目を早々に終えて、二杯目をチビチビと飲みながら口を開く。
光太郎が行っている今日の飲み会の事や、女の子に対する彼の態度の事。
最近不安に感じていた事を思いつく限り話してみたけど、私が望むような答えは返ってこなくて。


「つまり、葵さんは木兎さんの事を信用してないって事ですよね」


逆に、私が責められるような言葉を投げかけられた。


「いや、信用はしてるよ?でもそういう事じゃなくて」
「不安になるって事は信用してないんじゃね?」
「木葉まで・・・」


ダメだ。人選を間違えたかもしれない。
こういう時、女子だったら相槌を打って同意してから進んでいく会話なのに、男はこう・・・論理的というか。とにかく冷静すぎる。
出鼻を挫かれて沈みそうになる気持ちを、残りのお酒を一気に流し込む事で無理矢理引き上げた。


「じゃあ、二人に聞くけどさ!」
「お、おぉ・・・」


ドンッ、と勢いのままにジョッキを机に置けば、「静かに置いてください。割れます」なんてどこまでも冷静な赤葦の言葉が耳に入ったけど、そのまま聞き流して。


「彼女が居たとして、女の子もいる飲み会に頻繁に行く?」
「頻繁には行かねぇけど、女がいるいないってのは気にしないな」
「俺はどうしても行かなきゃいけない時以外は断りますね。不安にさせたくないので」
「それ、それだよ赤葦!」


頻繁には行かないけど、異性は気にしないと言った木葉。
彼女を不安にさせたくないから必要最低限しか行かないと言った赤葦。

赤葦の答えこそ、私が光太郎に望んでいたものだった。
光太郎のことを信用してないわけじゃないし、女の子のいる飲み会に行かないで。とか束縛をしたいわけでもない。
ただ、心の中に蔓延る不安を払拭して欲しいだけなの。

それがどういうカタチでもいい。飲み会の後に連絡をくれるとか、それだけでも。
こんな面倒くさい考えを光太郎に汲み取ってもらおうと思うのは無理な願いかもしれないけど、それでも分かってほしいという女心。


「それ、木兎に言えば良くねぇ?女が居る時は行って欲しくないって」
「喜んで行くのやめそうですけどね」
「・・・そうかなぁ」


そうだったら、いいんだけど。そんなに上手くいくだろうか。
もちろん直接言えたらそれにこしたことは無いんだけれど。口に出してもし引かれてしまったら?束縛に嫌気が差して愛想を尽かされてしまったら?そう考えると中々言い出すことも出来ない。

もっと色々二人に聞いて欲しいのに、一気に飲み干したせいでアルコールが急激に回り始めて頭がぼんやりとする。
思考が纏まらなくて自分が何を聞きたかったのかすら曖昧になり、さっきの会話のせいか一瞬頭に浮かび上がった言葉を何も考えずに口に出してしまった。


「赤葦が彼氏だったら良かったのになぁ・・・」


ギャアギャアと酔っ払い特有の大きな声が喧騒となってお店中に響き渡ってるというのに、私の今の発言でこのテーブルだけ沈黙が流れる。
あぁ、しまった。失言だ。変な間が流れた事でそう気づいたけど、鈍い思考では上手い事取り繕う事も出来なくて。


「大分酔ってんな。今日はこの辺で解散にしよーぜ」
「そうですね」
「う〜・・・何かごめん」


木葉の一言で結局お開きになってしまった。飲んで絡んで愚痴って・・・ちょっと今日は度が過ぎる。家に帰って一人で反省しよう。そして、酔いが覚めたらまた二人に何かお詫びをしなければ。
そう心に決めて、二人にもう一度ちゃんと謝罪をした後に一人でお店を出た。
送ってくれるという気遣いも、予定よりも早い時間に終わったことを理由に断って、夜風に当たりながら自己嫌悪に頭を抱える。

あぁ、もう。酔っているとはいえ、何であんなこと言っちゃったんだろう。
深い溜息とともに、頭の中で彼の顔を思い浮かべた。

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*お相手分岐です
→[木兎ver.
→[赤葦ver.


*注* 次の話は性描写を含みますので、注意喚起としてパスワード入力になります。


write by 神無
HappyBirthday Saito&Uka!



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