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ふわふわ、ふわふわ


ふわふわ、ふわふわ。浮足立った気持ち、とはこういう気持ちの事を言うんだろうか。
ここ最近ずっとこんな気持ちが続いている原因は分かってる。だってこれは彼と付き合った日からずっと続いているから。
告白をして、信じられないことに付き合う事になった時からずっとふわふわとして締まりがない。未だに信じられなくて、朝起きた瞬間にスマホを手に取り彼からのメッセージを見返してホッと安堵の息をつく。それが毎日の日課になっている。
もちろん、その後にニヤニヤと顔が緩んでしまうんだけど。


「おはよ、高宮さん」
「川西くん。おはよう」


川西太一くん。それが、ずっと好きで好きで、つい一週間前に彼氏になった彼の名前。
同じクラスなのにも関わらず、今までは用事がなければ話せなかったのが彼氏彼女になっただけでこうして何の気兼ねもなく話せる。それが嬉しくて、嬉しすぎてやっぱり夢だったんじゃないかと時折不安にもなった。


「一限の数学、課題やった?」
「うん、何とか終わらせた。でも今やってるところ難しいし自信ないけど」
「俺も。答え合わせしない?」
「本当!?助かる」


でも、こうして他愛無い話をする度に夢じゃないって教えてくれて。やっぱりふわふわとした気持ちになってしまうんだ。
強豪と呼び名の高い男子バレー部に所属していて、ミドルブロッカーというポジションに相応しい高身長でしかもレギュラー。おまけにカッコよくて、優しくて、頭も良い。そんな彼がモテないはずがなくて、思いを寄せる女の子は少なくないと聞く。
3組の子が川西くんの事を好きだとか、1組の子が川西くんに告白しただとか。聞きたくもない情報が自然に入ってくるのが女子の情報網ってやつで。耳に入る度に不安になり、彼が断ったと聞くと安堵する日々。


「そんなに悩んでるんだったら告白しろよ」


悶々とするこの想いに決着をつけるきっかけとなったのは、去年同じクラスで仲の良い白布くんの言葉だった。
川西くんとチームメイトで良く話すらしい白布くんに相談だったり川西くんの話を聞き出したりするのがいつもの事だったから、「あの子が川西くんに告白するって・・・付き合う事になったらどうしよう」その時も不安で渦巻く気持ちを白布くんに告げたんだけど。
「もうその話は聞き飽きた」と心底面倒くさそうに言いのけた白布くんは、私に告白をするように促してきたんだ。
こういった相談は既に何度目かだったし、廊下ですれ違ったところをわざわざ捕まえての事だったから白布くんの反応も仕方ないと思う。


「そんな簡単に言えたら苦労しないよ」
「でも言わなきゃ何も変わらないだろ」


反論も直ぐに否定され、更にヘコんだところに「多分大丈夫だから。言ってこい」そう言った白布くんの瞳に茶化しとか揶揄いは無くて。強く背中を押された気分だった。
結果、川西くんと付き合えたわけだから、白布くんにはもう足を向けて寝られないな。


「そういえば今日の部活、ミーティングだけになった」
「えっ、そうなの?」


川西くんの言葉に回想を中断させて顔を上げると、一つの机でノートを突き合わせて見ていたからか思ったよりも距離が近くて、ドキリと心臓が跳ねる。
その距離の近さに動揺する私とは違い、真っすぐに私を見つめてくる視線が更なる動揺を誘った。色素の薄い瞳と視線を合わせられたのはほんの数秒。ドキドキとうるさく鳴る心臓と熱くなる頬が限界だと訴えてきて、慌ててノートへと視線を戻す。
一連の行動があからさますぎたのか、川西くんが微かに笑う声が聞こえて。それだけで嬉しくなる気持ちと笑顔を見逃してしまった悔しさが湧き上がり、感情の忙しなさに自分でもついていけない。


「だから、今日どこか行かない?」
「えっ、いいの?」
「もちろん。ミーティング終わるまで待たせちゃうけど」
「全然平気!行きたい!」


思ってもみなかった誘いが凄く嬉しくて、無意識に声が弾んでしまった。
性懲りもなくまた顔を上げて同じ事を繰り返したけれど、さっきと違って至近距離も気にならないくらいにテンションが上がっている。
どこに行こうか。既にそんな事を考えている私の思考を見透かすかのように頭にポンッと手を置かれて。「どこに行きたいか考えておいて」そう言って広げていたノートを手に席を立った川西くんを見て、漸く担任の先生が来ている事に気づく。

先生が来ていることにすら気付かないなんて、ちょっと浮かれすぎかも。と気持ちを引き締めようとしたけれど、どうしてもふわふわと浮いた気分が治まらなくて内心で自嘲した。


◇ ◇ ◇


「あー、どうしよう」


授業が終わり、既に教室には私一人。
ミーティングが終わったら教室まで迎えに来てくれるらしくこうして待っているわけだけど。どうにも気持ちが逸って落ち着かないし緊張までしてきた。
だって、付き合い始めてから今日みたいに長い時間を二人で過ごすのは初めてで、何を話したらいいんだろう。つまらないと思われたらどうしよう。そんな思いがぐるぐると渦巻く。

気を紛らわそうとスマホで良さそうな場所を検索してみるが、朝からずっとやっているせいで電池がもうほとんどない事に気付いて結局すぐにポケットへと仕舞いこんだ。


「どうしよう・・・」


結局何もする事はなくて再び同じ呟きを独りごちるだけ。長い息を吐きながら机に突っ伏してヒヤリとした感触を感じていれば、ガラリと開かれた教室の扉。その音を聞いた途端弾かれるように顔を上げて視線を移せば、ずっと待っていた川西くんの姿。


「お待たせ。寝てた?」
「ううん、ちょっとボーッとしてただけ」
「そっか。行きたいところは決まった?」
「うーん・・・色々あって迷うんだけど」


話しながらも横に掛けてあった鞄を持ち、ついさっき川西くんが入ってきた扉を抜けようと手を掛けて横に引く。普通の動作なのに、何故か扉は固く閉ざされたままで。あれ?鍵なんてかけてないよね。そう思ってもう一度引くも結果は同じ。


「あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけど」


首を傾げつつ、頭上から降ってきた川西くんの声に導かれるように顔を動かすと、ふとかかる影に気づいた。
そのまま上へと動かせば、漸くこの状況を理解して一気に身体の熱が上がる。
ドアが開かなかった原因は川西くんが片手で押さえていたからで。そうすると自然と距離は近くなり、川西くんとドアの間に挟まれた状況になってしまう。
言うならば壁ドン、みたいなものだ。


「なな、なに・・・」
「葵って呼んでもいい?」
「えっ・・・え!?」


さっきまでどこに行こうかと話していたのに、全く脈絡もなく名前の話に変わって。ただでさえこの状況でテンパっているのに、加えて名前までとはいきなりハードルが上がりすぎだ。


「前から言おうと思ってたんだけど、タイミングが無くて」


だからって今もそういうタイミングじゃなかったと思うよ!なんて事は口に出せず。もごもごと言葉にならない声が出るだけ。
確かに、名前で呼んでもらうのは嬉しい。川西くんは女の子を下の名前で気軽に呼ぶタイプではないし、トクベツな感じがする。けど、まさか今このタイミングでなんて思っていなかったからどうすればいいか分からない。


「葵」


でも、好きな人の口から呼ばれる自分の名前はとてつもなく甘い響きに聞こえて、耳から全身へじわじわと伝わっていくみたいな気がする。
自分にとっても、川西くんから呼ばれる名前はトクベツなんだって思い知らされる。


「・・・うん、嬉しい」
「良かった・・・。葵も、俺の事名前で呼んでよ」
「え?」


一つハードルを乗り越えたと思ったらすぐさま立ちはだかる次のハードルに思考が追いつかなくて、瞬きだけを繰り返してしまうという、何とも間抜けな反応しか返せない。
そんな私を落ち着かせるように、大きな手で頭を何度か撫でながらほんの少し口角を上げ「俺の名前、知ってるよな?」と聞いてくるから。


「川西・・・太一、くん」
「うん」
「・・・・・・太一くん」


恥ずかしさを押し殺してポツリと呟いた彼の名前。
その瞬間、頭を撫でてくれていた手が背中に回って引き寄せられた。
初めて感じる彼の温もりに、香りに。声も出ないくらい驚いて、心臓が飛び出てくるんじゃないかって思うくらいドキドキした。


「あー・・・、結構クるね」
「な、なにそれ」


伸ばした手は控えめに腰の辺りの制服を掴む事しか出来なかったけど、体格差からすっぽりと包まれてしまうこの感覚は恥ずかしいけどクセになってしまいそうなくらい気持ち良くて、幸せで。

ふわふわ、ふわふわ。
浮足立つこの気持ちは暫くおさまる事はなさそうだ。




素敵なアイコンを描いて頂いたお礼に!しかし川西くん初めて書いたのでお礼になるかどうかちょっと・・・アレですね。名前を呼ぶ話、書きすぎ案件wwもうこれは性癖です!性癖なんです!勝手に出ちゃうんです!だから許してww
write by 神無



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