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好きは嫌いでムカつく


私はこの及川徹という男が嫌いだ。
いや、正確には好き・・・というのかもしれないが。それを素直に認めたくないほど、この男を見ているとムカついて仕方がない。
今も部活仲間にいじられギャーギャー騒いでいるが、いじられている理由も昨日の練習試合で差し入れを貰っただのどうのって・・・本当に知れば知るほど残念な男なのだ。
女子にヘラヘラしてばかりだし、器小さいし、負けず嫌いで、頑固で、意地悪。


「ほんと、なんであんな奴好きなんだろう‥。」
「だから及川はバレーしてるとこだけ見てればいいって言ったのに」


それ以外はダメダメだよと、私を及川にはめた張本人である友人がしれっと及川を貶すのもどうかとは思うが、言っていることが分かりすぎて反論もできない。
再びチラリと及川を盗み見れば、岩泉くんに向かってあっかんべーなんてガキ臭いことをしている姿が目に入り自然とため息が漏れた。
こんなんが試合中にはがらりと変わるんだから男って‥‥。

私だって昨日の練習試合を見に行った。だから後輩ちゃんらしき子が及川に差し入れを渡すところもばっちり見たわけだけど、そんなことは日常茶飯事だしどうでもいい。イラっとはするけど。
それよりも印象的なのは何度見ても慣れることのない及川のあの顔。
サーブを打つ前にボール越しに相手コートをにらむあの目には、視線が合っている訳でもないのにゾクリと鳥肌が立った。自信ありげなトスも、ツーアタックを決めてしてやったりと上げる口角も、教室にいる及川とは別人過ぎて目が離せなくなる。

本当に、バレーしてる及川だけにキャーキャー言っているミーハーになれたらよかったのに。この微妙に手が届くんじゃないかとか淡い期待をさせるほどの庶民さとか知らなければ…。


「はぁーーーー、ムカつく」


及川を見つめながら自然と口から出てしまった言の葉が風に乗って騒いでいる及川へと届いたようで、「何?高宮なんかいった?」なんて急にこっちを見るから一瞬息が詰まった。
俺に何か言わなかったかと少し離れた席から問いかけてくる及川に、いつもの調子で「うるさい」なんて悪態をつけば、自分だけじゃないのにと不貞腐れながらまた岩泉達にじゃれつく姿を見てホッと胸をなでおろす。


「・・・葵、ツン過ぎでしょ」
「ツンなわけじゃないもん。本当にうるさかったんだもん」
「あ〜はいはい」


そういう事にしてあげますとでも言いたげな返事に納得はいかないが、何か言い返したところで私の方が分が悪い気がするので止めておいた。
反射の様に悪態をついてしまう私は、きっと及川によく思われてはいないのだろう。そう思ったらもうすぐやってくる及川の誕生日にプレゼントなんて渡せるわけもなく、また深いため息だけが漏れる。
渡せないとか思っていながらもドキドキして選んだプレゼントは、早くもカバンの中で眠り続けているのだから。


「及川さん!!お誕生日おめでとうございます!!」
「及川〜ハピバ!」


そんな言葉が飛び交う中、中心人物である及川は心底嬉しそうに色んな人からプレゼントを受け取っている。
その中には頬を赤らめながらプレゼントを手渡す女の子もいるわけで、今日の私はいつも以上に眉間に皺を寄せて及川を見ているだろう。

少し前にも友人から「それ好きな人見る目じゃないから」なんて指摘されたがムカつくものはムカつくし、あの子たちのように自然とプレゼントが渡せない自分が嫌になるのだから仕方がない。徐々に増えていく及川の荷物と比例するように苛立ちを増やしながら、一日があっという間に過ぎていった。

もうサヨナラだという時間になってもプレゼントは私の鞄から出されることなく、眠り続けている。教室を出る最後の最後までお祝いやら揶揄いやらでクラスメイトに囲まれていた及川は、大きな紙袋を抱えながら嬉しそうに部活へと向かっていった。


「部活始まっちゃったら渡せないし、部室の方も人凄いと思うよ?」


渡すなら今じゃないの?と背中を押してれる友人の言葉に勢いよく席を立つも、追いかける足は中々進まない。
もし、いらないとでも言われたらどうする?告白するわけでもない。ただみんなと同じようにプレゼントを渡せばいい。
それは分かっているのに、否定的な考えばかりが浮かんでは不安に染め上げていく。


「私が代わりに渡してきちゃうぞ?」
「それはダメ!!」
「じゃあ行ってこい」


まだ間に合うぞと軽く頭を叩かれ、もうっ!なんて反抗しながらもお礼を言い駆け出した。
もしかしたら昇降口でも後輩とかに囲まれているかもしれない。その時は尻込みせず渡せるだろうか・・なんて臆病な想定をしながら足を急がせれば、丁度靴を履き替え終えたばかりの及川を見つける事が出来た。
周りに人はいるが誰も及川に話しかける様子はない。
今しかない。


「及川!」


間に合わないので上履きのまま、及川を呼び止める。
荷物を持ちなおそうとしていたのか、変な体制で振り返った及川の顔も見ずにその胸へプレゼントを押し付けた。


「お、おめでと」


それだけ言うのが精一杯。いま顔なんて上げたら真っ赤なことがばれてしまう。
重みで及川がプレゼントを手にしたと分かった途端、その手を放し「じゃ」っとすぐさま及川に背を向ける。

鞄も持って来てるのだからもう帰るだけだが、今この空間にいるのは耐えられないと、来た道へと戻る様に足を踏み出した――はずだった。
進むはずだった体は、腕を何かに掴まれ動く事が出来ず、その場に立ち尽くす。
その何かが何なのか分かってしまうだけに振り返れずにいる私に、背後でクスッと小さな笑い声が聞こえた。


「高宮、ありがと」


言葉と共に耳元にかかる息で全身が電気が走ったように痺れる。
掴まれていたのも一瞬のことのはずなのに、まだ触れていた右腕が熱い。


「お前も可愛いとこあるじゃん」


そう言いながら私が渡したであろうプレゼントで私の頭を小突く及川に反抗しようと振り返れば、そこには試合でツーアタックを決めた時の様なしてやったりのニヤリ顔で笑う及川がいて、いつものようにつくはずだった悪態は出ずに頬が染まる。
私のプレゼント片手に「じゃあね」なんてウインク付きで去っていく及川の後姿を、ただ茫然と赤い顔のまま見送るしかできなかった。


「・・なにアレ、ズルい」


今まで私の態度が悪かったせいかもしれないが、あんなサービスしてくれたことなかったのに。及川の顔からして私が照れていた事なんてバレバレなんだろうと思うと、明日からどうやって顔を合わせてたらいいのかわからなくなる。
先程のように緊張しすぎて悪態すら出なくなったらどうしようか…。


「あ〜〜〜ムカつく」


体中が熱くてズルズルとその場にしゃがみ込む私は不審者極まりないが、それでも今は先程の余韻に浸っていたかった。

ホント、ムカつくくらい好き





及川さんお誕生日おめでとう。だったので書いてみましたが・・・・これ、続きますね(笑)
生誕祭には間に合わないのでその内及川視点で続き書こうと思いますっ!
夢主ちゃんのツンが照れからくるものだと気づいた及川のその後ですね!!
だれも期待していないかもしれませんが待っててねwww

write by 朋



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