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現実は妄想と非なり

クラスに必ずムードメーカーっているじゃない?いつも笑顔で、クラスの中心になって盛り上げるような人。この3年4組においての中心人物は、彼――菅原孝支だと思う。
お調子者とかそういうのじゃなくて。クラスで何か決める時だったり、皆が困ったりした時にサラッと助け舟をだしてくれるようなタイプ。いつも菅原くんの周りには人が集まって楽しそうに話しているし、どんな人にも分け隔てなく接する彼に好意を抱いている女子も多いと聞く。


「あー・・・今日もかっこいい」


私もその一人だったりするんだけど。あの輪の中に入る度胸は持ち合わせていないから、こうしてちょっと離れた場所から見る毎日。
声を上げて笑う姿も他の男子の時みたくウルサイとか思わないし、むしろ満面の笑みを見てると癒される。


「見てないで話しかければいいのに」
「うーん・・・あの中には入りたくないなぁ」


友達の呆れたような言葉を受けつつも、視線は菅原くんから離す事はせずに答えれば深い溜息をもらってしまった。
だけど、仕様がないじゃないか。積極的でもなければ消極的でもない私は、普通に話すことは出来ても彼を囲むあの中に割り込むことは出来ないのだから。
大勢よりも少人数が好ましく、その機会を窺ってはいるけれど、中々上手く行かないのが現状だ。


「爽やかすぎて眩しい・・・」
「何それウケる」


大真面目に言った発言を笑い飛ばしてくる友達を一睨みしても全く効いておらず、どうやらツボに入ったらしい彼女は笑い続けている。暫くは何を言っても笑われるだけだな。そう判断した私は脳内で菅原くんとの会話をシミュレートし始めた。

自分の都合のいいように繰り出す妄想はいつしか告白にまで発展して。もちろん妄想だから断られるハズもなく、顔を真っ赤にして告白してくれる菅原くんや、ぎこちなく私の名前を口にする菅原くんが浮かぶ。
手とか繋ぐのかな・・・あぁ、でもお互い恥ずかしくて無理かもしれない。キスは三回目くらいのデートでかな。


「あぁ、ダメだ。可愛い、しんどい」
「は?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと脳内の菅原くんが可愛すぎてヤバかっただけ」
「大丈夫じゃないねそれ」


自分の妄想が輝きすぎててしんどくなり、机に伏せれば怪訝な声がふってくるが、友達とのこんなやり取りもいつもの事。妄想に留まらず、いつか告白出来たらいいなって思うけど。
菅原くんは朝も放課後も部活で忙しいし、昼休みとかは皆に囲まれていて上手くタイミングが掴めない。・・・なんて、ただの逃げかもしれないけど。
本当に告白したかったら、ちゃんと約束を取り付けて二人きりになる時間を作ればいい。分かっているけど、そう簡単に出来たら苦労しないんだよな。
だから私は決めてる。もし、なんの計らいもなく二人きりになれたらその時は、神様のお告げと思って菅原くんに告白するんだ。
まぁ、そう決めてから既に一年半が経過しているわけだから。いつになるのか、本当にその時が来るのかすら分からないけど。

伏せていた顔を上げてもう一度菅原くんへと視線を移せば、まさかのまさか、バチリと目が合った。
パチパチと瞬きを繰り返し、コテンと首を傾げるその仕草が可愛すぎて見とれていれば、菅原くんは輪の中から抜け出してこちらに歩みを進めてきて。そこで漸く見とれている場合じゃないと気づいた。
一歩一歩距離を詰めてくる菅原くん。距離が近づく度にドキドキと鼓動が加速してどうしようと狼狽えてしまう私。


「高宮さん、どした?」
「い、いや・・・何でもないよ」
「今コッチ見てたべ?何か目で訴えてんのかと思った」
「違うって」


何だ、違ったかぁ。ははっと笑いながら自席へと戻っていった菅原くんは皆に茶化されていたようだけど、私はもうその場に居られなくなって、特に行きたくもないトイレへと逃げ込んだ。
まさか視線が合うなんて。まさか態々自分の方まで来てくれるなんて。
トイレの鏡に映った自分の顔は誤魔化しようがないくらい赤くなっている。気づかれなかったかと心配になったが、あの様子ならきっとバレていない・・・はず。


「あぁ・・・ダメだ」


不意打ちは心臓に悪いし、普通に話すのもままならなかった。むしろ冷たく返さなかった?感じ悪かったかも。
こんな様子だと、告白する前にいつか本人に気づかれてしまいそうだ。いや、それはそれでいいのか・・・?いやいや、普通にダメでしょ。
混乱のあまり自分が何を考えてるか分からなくなってきて。結局落ち着いたのは授業開始のチャイムが鳴った頃だった。



◇ ◇ ◇



授業が終わると瞬く間に皆教室を出て行ってしまい、私一人だけになる。
今日はバイトもなければ予定もない。何となくまだ帰る気が起きなくて机に突っ伏した。


「何か疲れた・・・」


誰も居ない教室で独りごちるなんて、もし誰かが通りがかりでもしたら不審な目を向けられる事間違いないんだけど、つい零してしまう程には気疲れしていた。
昼の一件があってからというもの、それ以降菅原くんのことをいつも以上に気にしてしまって。でも、あの時一度気づかれてしまっている以上次は気づかれるワケにいかない。
自然と追ってしまう目線に自分で気づく度に逸らすという事の繰り返しで。自分自身で神経をすり減らしてしまったのだ。


「はぁ〜・・・」
「あれー?高宮さん、まだ残ってたんか」
「っ!?す、菅原くん・・・」
「部活に使うタオル忘れたんだよね」


どうしてここに、と聞く前に返された言葉。一体どこの少女漫画だろうというくらい出来過ぎたシチュエーションに混乱してついていけない。
でも、脳内を支配している事がただ一つ。

二人きりになれたその時は、告白する。
今が、ずっと待っていたその時なんじゃないだろうか。


「あ、あの・・・菅原くん!ちょっとだけ話、いいかな」


いきなりすぎるし、話に脈絡なんてない。この恋が成就するなんて微塵も思っていないけど、このまま燻る想いを抱え続けているのももう限界だ。
意気込みとともに勢いよく立ち上がれば、ガタリと椅子が悲鳴を上げた。


「俺も。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「え、な・・・何、かな?」


向かい合った菅原くんの表情にはいつも浮かんでいる笑顔は無くて。それだけで雰囲気がガラリと変わり、さっきの意気込みが急激に萎んでいく。


「昼のアレってさ、本当は俺の事見てた?」


何を聞かれるのかと身構えていれば、さっきまでずっと考えていたお昼の事。「ずっと気になってたんだけど」そう続けられて、息を呑む。
どう答えようか少し悩んだけれど、ここで誤魔化していては先に進められない。そう思って一つ頷いた。


「はー・・・良かった」
「え、何?」
「マジで自意識過剰だったらどうしようかと思った」


未だに事態が呑みこめずにその場に座り込んだ菅原くんを呆然と見下ろすと、普段は見えない頭頂部が見えて。そんな些細な事にさえキュンとしていたら、チラリと私を見上げた視線に射抜かれた。
俗にいう、上目遣いを今ここで使ってくるなんて卑怯すぎやしないだろうか。ドキドキどころかバクンバクンと強く脈打つ心臓は壊れるんじゃないかと思うほどだ。


「俺、高宮さんと二人きりになれたら言おうと思ってたことがあってさ」
「・・・うん」
「いきなりこんな事言われて驚くかもしれないけど・・・」


立ち上がって少しずつ距離を詰めてくる菅原くんを、微動だにせずにただ見つめる。


「俺、高宮さんが好きなんだ」


その言葉を聞いた瞬間、色々な感情が振り切ってぶわりと溢れ出す涙。
信じられなくて、でも嬉しくて。言葉に詰まってただ何度も頷く事しか出来ない私だったけど、ちゃんと菅原くんには伝わったらしい。
最後の距離を一気に詰めてきて、その腕の中に抱きしめられたから。
初めて感じる温もりと、密着したことでふわりと香る菅原くんの匂いに動揺していると、「あー・・・良かった」と小さな声が耳元で聞こえた。


「・・・緊張した」
「う、そ」


嘘じゃないよ。笑っているのか微かな振動が伝わり、勇気を出して彼の胸へと頭を預ければ確かに通常よりも少し早い心音が耳に届く。
他のクラスの生徒ももう帰った後なのか、静かな教室の中でただその温もりに浸っていて。高ぶっていた感情が少し落ち着いた頃、漸く密着していた身体が離れた。


「あのさ、」
「・・・ん?」
「葵・・・って呼んでいい?」


スルリと頬に伝う涙の跡を拭うように滑る優しい手。
躊躇いなんて一切なく触れてくるその手に一瞬反応が遅れたけど、菅原くんの言葉を反芻して「え、えぇ!?」とつい大きな声が漏れた。


「あ、いきなりすぎた?葵ちゃんとかの方がいい?」
「待って、ちょっと待って」


展開の早さについていけなくて待ってほしいとお願いしたけれど、「あ、そうか。葵ちゃんの話って何?」ナチュラルに呼び方を変えてくる菅原くんと、今のこの状況に混乱するばかり。
顔を真っ赤にして告白してくれる菅原くん?私の名前を呼ぶのもぎこちなくて、手を繋ぐのも恥ずかしがる?そんな妄想の中の菅原くんなんてどこにもいない。
何度もした妄想は一つも当てはまらなくて、現実は妄想なんかよりももっともっとすごかった。

私も好きです。そう言おうと思ったけど、言ったらどうなるんだろう。
それでも言わなければこの状態のまま、いつまで経っても部活に行きそうにない菅原くんだから、覚悟を決めるしかない。


「あのね・・・私も、菅原くんの事が好き、です」


勇気を出して言った言葉の後に落とされたのは、三回目のデートでするはずのキス、だった。




菅さん推しのふぉろわさんのお誕生日に!何気に菅さん書いたの初めてで・・・しかも一日で書いたので何を書いたのか記憶が・・・笑
write by 神無
HappyBirthday Mitsu!



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