※高校二年設定
「あぁ・・・暇だ」
持っていたスマホを投げ出してベッドへと倒れこむ。年末年始は流石に部活も休みで、宿題や掃除に追われつつも大晦日を迎える頃には暇を持て余し始めた。
誰かと遊びに行こうかな・・・なんて思いつつも、もう数時間もすれば元旦だし、元旦から遊んでくれそうな子が果たして何人いるのか。そう考えるとやっぱり面倒臭くなってスマホを放り出したというわけだ。
「アイツ等も、こういう時に誘ってくれればいいのに」
悪態をついたのは同じバレー部の仲間たち。夏で先輩達が引退してから新たに主将となった黒尾を筆頭に、同学年の面々が頭を過ぎる。
普段から煩く騒いだり、部活の後とか色々誘って来たりするのに、年末で部活動休止になってからは音沙汰もない。
「もう・・・寝ちゃおうかな」
とは言っても寝るには随分と早い時間だし、テレビでも見て時間を潰そうか・・・。
そう思うも、やっぱりそんな気分になれなくて溜息を吐きながら布団を捲りベッドへと潜った時だった。
ピロン、と鳴ったスマホに視線を移せば通知にメッセージが表示されていて、もぞもぞと布団の中で態勢を直してスマホを手に取った。
【初詣いかねぇ?】
たったそれだけだったけれど、さっき頭に思い浮かべていた黒尾から連絡が来たことで一気に気分が浮上する。夜久とか海でも充分嬉しいとは思うが、黒尾はまた特別だ。
口に出して伝えてはいないけど・・・ずっと黒尾の事が好き、だから。
【行きたい!いつ?】
スタンプと一緒にそう返せばすぐに既読の文字がついて、【今から】と目を疑うようなメッセージが返ってきた。
嘘でしょ・・・と思いつつも時計に目を移せばもうすぐで10時になるかというところ。
どこに初詣に行くかは知らないけれど、年越しの瞬間を黒尾と迎える事が出来るなら答えは一つしかない。親だって、この時間に出かけるのを今日くらいはきっと許してくれるだろう。
久しぶりに皆と騒ぐのを想像しただけで笑みが漏れた。
すぐに返事をすると、こうしちゃいられないと部屋着を脱ぎ捨てて親に許可を取りに慌ただしく音を立てながら階段を降りる。
全部の準備が完了した頃にもう一度スマホを手に取れば【了解。30分頃に迎えにいくわ】と入っていた。
――あと、10分。
そわそわとしながら全然進まない時計をただ見つめて時が過ぎるのを只管に待つ。手の中のスマホがヴッと振動した瞬間にメッセージを見る事もせずに部屋を飛び出した。
「黒尾!久しぶり」
「おー。急にワリィな」
「ううん。暇してたから」
「だと思った」
ニシシ、と茶化すように笑う黒尾をバシッと叩いたのはただの照れ隠し。
だって、こんな時間に会うのって初めてだし・・・学校が休みでも部活で毎日のように会っていたから、久しぶりに会ったらなんだか格好良く見えちゃったりして。
「どこにお詣りいくの?」
「隣の駅のトコ。あんまり有名なところは人混みスゲーだろうし」
「あぁ、毎年すごいもんね」
それはもう、テレビで放映されるくらい凄くて。画面越しに人混みと参拝人数をテロップで見たときなんかは絶対行くものかと誓った程だ。まぁ、もし黒尾がそこに行きたいって言えばきっと着いていったとは思うけど・・・今は黒尾の提案をありがたく受け入れよう。
「この時間に出掛けるの久しぶり」
「ヤダ、葵チャンってば不良ー」
「えー?私みたいなイイ子そうそう居ないでしょー?」
いつものような軽口でも決して会話が途切れることはなく、楽しくてドキドキする時間を過ごしているとあっという間に神社へと到着する。
そんなに有名ではない神社なので近くの人しか来ないのかと思っていたけど、都内の人口密度の高さの所為なのかかなりの人が集まっていた。
「スゲー人だな」
「ね。これ、皆と合流できるの?」
まぁ、スマホで連絡もとれるし何とかなるか。っていうか他に誰が来るか聞いてないけど、いつものメンバーでいくと夜久と海あたりかな。
そんな事を考えていると、ジッとこちらを見つめる視線に気づき目線を合わせた。
「ん?どうした?」
「いや・・・皆って、お前誰か誘ったの?」
「え?・・・誘ってないけど・・・」
黒尾が誘ったんじゃないの?てっきり私は皆を誘った流れか、ついでだと思っていたのに。
「じゃあ誰も来ねぇだろ。俺も誘ってないし」
最初から皆で集まることを前提に考えていたから、まさかの黒尾の台詞に鼓動が一気に速さを増した。
ここまでずっと二人きりではあったけど、改めて二人きりなのを意識したというか・・・。
期待、してもいいのか。どうしても考えてしまう。
「他に誰かいた方が良かったか?」
「ううん。そうじゃないけど・・・なんで?」
勇気を出してそう聞いてみたのに、「さぁ、なんでだろーな」といつものように意味深な笑みを浮かべながらはぐらかされてしまった。
こうなったらもう私には聞く術はなくて、ただただ黒尾の真意を考えるばかり。頭の中ではハッピーエンドとバッドエンドがかわるがわる妄想されて混乱しそうな程だ。
参拝の列に並んでもそれは変わらなくて、明らかに口数が減った私を心配するでもなく面白そうに見てくる黒尾にはもう私の気持ちは筒抜けなのかもしれない。
隣に居る距離にまで緊張してしまい、全くいつもの調子が出ないまま時間だけが過ぎていった。
「おっ、もう少しだぜ」
「ホントだ」
スマホを取り出して時間を見れば、あと3分で年が変わる。
周囲の人達もそれに気づきつつあるのか段々と騒めきが大きくなっていった。
そして10、9、と誰かがカウントダウンを始めると、皆も便乗してカウントし始める。
誰もがいつもとは違うこの瞬間を迎えることに高揚しているのだろうか。皆楽しそうに声を上げて、カウントが3を数えた時にふと黒尾へ視線を向ければ予想外に真剣な顔が映り、私からも笑みが消えた。
「にーい!!」
大きな手が肩へと回されて、力強く引き寄せられる。
「いーち!!」
背の高い黒尾が私に合わせるように背中を曲げて屈み、
「あけましておめでとうー!!」
カウントがゼロになった瞬間、私たちの距離もゼロになる。
寒さの所為か乾燥した唇は、それでも温かくて柔らかかった。
一瞬だったけど、初めてのその感触を鮮明に記憶しようと心に刻み込む。
周りも、友達や恋人と年明けの瞬間を祝っていた事できっと私たちの触れ合いには気づいていないだろう。
「・・・さっきの答え」
「な、に・・・?」
嬉しくて、恥ずかしくて、衝撃的で。
黒尾の指している事が何のことなのか考えられない。
「今日、葵だけを誘った理由」
「・・・うん」
「ただ単に、年が変わった瞬間から葵と居たいと思った」
寒さからか照れ隠しなのかは分からないけど、口元に手を当てて視線を逸らせた黒尾。
私もまた、期待から両手で口元を覆って込み上げてくるものを必死に堪える。
だって・・・ずっと片思いだと思っていた好きな人にこんな事を言われて嬉しくないわけがない。
「先にキスしといてアレだけど・・・」
「・・・ん」
「葵が好きだ」
彷徨っていた視線が戻ってきて、力強い瞳を向けながら告げられた言葉。
心臓がギュウッと鷲掴みにされたみたいになって、本当に止まるかと思った程。
好きっていう言葉を聞いた瞬間に涙が溢れそうになるのを何とか押しとどめる。
「わ、私も。黒尾が好き」
周りの喧騒にかき消されそうなくらい小さい声しか出なかったけれど、近くにいた黒尾にはちゃんと届いたらしい。
大きな息を吐いて「あー、良かった」と呟いたのを聞き、黒尾も緊張していたんだと思うと愛おしさが溢れる。
「・・・確信あったんじゃないの?」
きっと私の好き、は普段の言動で黒尾に伝わってしまっていたんだろう。
黒尾が何の根拠も無しにああやってキスをしてくるとは思えないし。
「んー?それでも、嬉しいだろ」
ふわっと笑うその表情に、また胸がキュンと音を立てた。
しかも、さりげなく私の手を取って黒尾のダウンのポケットへと一緒に入れられたものだから、何だかもうクラクラしそう。
想いが通じ合ったということは、躊躇なく触れてもいいってことなんだろうけど。
「なんか・・・」
「ん?」
「今年の幕開けが幸せすぎて逆に怖い」
「ふはっ。なんだそれ」
こんなのまだまだ序の口だろ?なんていう黒尾に、きっと翻弄される日々が待っているのだろう
お賽銭を入れて何を願うか、もう一つしか考えられなかった。
これからもずっと―――。
あけましておめでとうございます!
実は去年の年賀用に書いたものだったりww一年間温めてしまったwwrite by 神無