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あの日の君が 番外編B

「葵、なんかあった?」


ここ最近、人の話にも上の空でボケ〜っとしている私を不審がってか友人に呼び出された。
わざわざ人気の少ない廊下を選んだのはきっと私を心配しての事。そんな気遣いに胸がジンと温かくなった。ただ、心配してもらうようなことは何もない事が心苦しい限りだ。


「夜久となんかあった??喧嘩でもした?」
「ぜ、全然!!むしろ仲良くなったくらいで・・・」


そう言って顔を熱くさせる私に友人たちが不思議そうに眉を寄せた。

仲良いのならなぜ?あれだけボケっとしていたのだからそう言いたくなるのも無理はない。だが本当に悩んでいるわけではないのだ。
先日、初めて夜久くんと触れ合ったあの日以来、私は自分でもびっくりするくらいに浮かれてしまっているだけなのだから。


「マジで大丈夫なの??」
「私はてっきりまたH出来ずに別れ話が出たのかと思ったよ」


友人から出たHという単語にわかりやすいぐらいに反応してしまった私は、きっと顔が真っ赤になっているだろう。そんな顔で何でもないと言ったところで納得してもらえるはずもなく。
むしろソッチの話で何かありましたと言っているようなものだ。


「え?!うそ!?まさか・・ついに!?」


興奮して詰め寄る友人たちに赤い顔して俯いてしまえば肯定しているのと何ら変わりない。
葵もついに大人に!と盛り上がる彼女たちに慌てて声を抑えるようになだめる。人気の無い所だったからいいものを…恥ずかしすぎる。それでも火が付いた彼女たちを止めることは出来ず、詳しく話せと詰め寄られたじろぐ。
人様に話すようなことでもないと断ろうと試みるも、今までそういった事が無さ過ぎて心配をかけていたので強くでることができない。

もはや誘導質問の様な問いに答えるしか道は残されていたなかった。


「え?嘘!初めてなのにそんな良かったの!?」
「マジで?!私、痛いだけで全然だったんだけど!」


緊張したかとか、夜久くんがちゃんとリードしてくれたかとか、辛くなかったかとか答えているうちに感覚がマヒしたのか、つい「気持ちよかった?」なんて問いに頷いてしまい、友人たちに驚かれた。

私は友人たちが驚くことに驚いてしまう。普通は初めてだと痛いだけなの?

先日の事を思い返してみて、確かに自分は感じていたと改めて認識して自ら顔を赤くさせた。何やってるんだろう自分。


「え〜それだけ夜久が上手かったってこと?やるじゃんアイツ」
「葵は比較対象が無いからわからないけどね〜」


良かったねと私の肩を叩く友人はとても楽しそうで、ありがとうと答えるも素直に喜べないのはその顔が面白がっているようにしか見えないからだろうか。もうこの会話を打ち切ろうと逆に2人質問してみるも、全て返り討ちにされるので流れを変えることは出来なかった。

心で夜久くんに謝罪をしながら半ばヤケクソになって2人の話しにノッた。


「夜久くんはキスだけでゾクッてしたもん。前のとはそんな事なかったのに」


キスなら比較できるよと言う私に、友人が目を見開く。
そのあと、怪しいぐらいにニヤニヤと笑うものだから嫌な予感がしたがヤケクソになってしまった手前引っ込みがつかない。


「それは相当夜久と相性いいんじゃない??」
「それか・・前の彼氏がチョー下手くそかね」


そう言って笑う友人の視線の先が私の後ろを向いているなんて気づくことない私は、キスにも下手とか相性があるのかと妙に納得してしまった。

昔はあんなに好きで付き合ったはずなのに、アイツとのキスは「キスをした!」って事実にドキドキしただけで、触れた唇がどうとか感じたことが無かった。むしろ迫りくるように深くなった唇をとっさに押しのけるほどには良いと思ったことが無かったから。

だから、夜久くんとのキスは頭がぼ〜っとなるようで怖かった。
自分が自分じゃなくなるような、恥ずかしくも「もっと」とねだってしまうような。今思い返しただけでも体が熱くなる


「葵はさ、夜久と付き合えて良かったんだよ」
「そうそう!アイツと別れてからの方が可愛くなったしね!」
「男の力で女は変わるんだよ!」
「夜久は出来る男だわ〜見直した!」


口々に煽てられ、嬉しさと恥ずかしさでどんな顔をしていいのか分からない。

そんな私を満足そうに見つめた後、2人して視線を外すので何とも形容しがたい緩み切った顔で2人の視線の先を追えば、久しぶりに見る元カレがいた。

いったい何時から居たのだろうか。傍には彼女さんらしき人もいて「ちょっと話聞いてるの?」と詰め寄られているが、完全に彼の視線はこちらを向いていた。
私が向いた瞬間に逸らされてしまったが、きっと意識はこちらに向いているのだろう。返答が曖昧になっているようで彼女さんの機嫌が悪くなっていくのがこちらからでもわかった。


「葵、今幸せでしょ?」


わざと少し大きめの声で言う2人の、言ってやった感が居た堪れない。
それでも2人が言ってくれたことは嬉しいし、なにより私にとっての事実だから。


「うん!すっごく幸せ!」


これだけは自信を持って言える。
私は夜久くんが居るから幸せなんだと。
自然と晴れやかな笑顔になる私に満足そうに2人が笑い返してくれるから、そのまま怯まずアイツを見ることができた。


「・・・クソが」
「ちょっと何いきなりキレてんの?意味わかんないんだけど」


この場に居辛くなったのか舌打ちをして立ち去るアイツに、知らないとばかりに彼女さんは違う道へと向かっていった。


「あの顔見た!?」
「ざまーみろって感じだよね!!」
「2人とも落ち着いて・・・」


正直スッキリしたのはあるけれどいつまでも囃し立てるのは違う気がして2人を止めに入る。
私が幸せだってことに悔しがるってことは、アイツは今幸せだって思っていないのかな?それはそれで彼女さんに失礼だし、ちょっと可愛そうとか思ってしまうあたりかなり上から目線なのだが。


「なーに?葵まだアイツの事少しは好きだったりするわけ?」
「え?!全然!微塵も!」


アイツの肩を持ったつもりはなかったのにそう思われてしまったのかと慌てて否定する。
2人の顔がニヤニヤしているから本気で疑っているわけではないだろうけど、これだけはちゃんと知ってほしかった。


「私が今好きなのは夜久くんだけだよ!」


何故か勢いがついて少し大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。チラリと周りを見たら、人気の少ない場所だったはずなのにチラホラ通行人がいて驚いた。
さっきアイツも通ったのだから人がいても何もおかしくはないのだけど。みんなコチラをみて少し恥ずかしそうに目線を外すので全身に変な汗をかいてしまう。

葵ってば大胆だね〜と笑う友人に文句を言ったところで叫んだのは私なのだから誰も責められない。嘘じゃないし、私と夜久くんが付き合っている事なんて公にしているからバレバレなんだろうけど。それでも好きだと叫ぶなんて恥ずかしすぎて、今まで上の空だった授業はさらに頭に入らなくなった。



だがそれよりも何よりも


「あのさ・・今日、廊下でなんか叫んでたんだって‥?」


部活帰りに夜久くんがそう顔を赤らめながら質問してくるから、私の恥ずかしさは増す一方だ。
何で!?とか誰に!?とかどうでもいいことしか思い浮かばなくて慌てる私が面白かったのか、夜久くんが噴き出すように笑った。


「ククっ・・ごめん。ちょっと直接聞きたいな〜って思っただけだから」
「っっ〜〜〜〜///」


笑いながらコチラを見る夜久くんの目が時折見せる意地悪なもので、更に私を追い詰めていく。
熱すぎる顔を隠しきれなくて悶える私の手を取り、三度目の告白をしてくれた時の様に覗き込んでくる夜久くんは私が言うまで放してくれないのだろう。


「・・・今は夜久くんだけが好き・・だって」


あの時なぜ言えたのか不思議なくらい恥ずかしい台詞。
しかも当の本人が目の前にいる状態なんて罰ゲームの様で、心臓が早く動き過ぎて痛くなる。


「あの・・・もういいかな?」
「うん。ありがとう。噛み締めてた」


恥ずかしいから今すぐにでも夜久くんから顔を背けたいのに未だ手を放してくれる様子は無い。


「普段あんまり好きだって言ってくれないから嬉しくて」
「だって・・・・恥ずかしい」


夜久くんはたくさん言ってくれたのだから私もって思うけど、好きという単語を口にするだけで毎回心臓が破裂しそうになるから。
それも理解してるけどねとちょっと寂しそうに微笑まれ、申し訳なさが募る。だから


「なぁ、もう一回言ってくれ」


見つめられた状態でそんなお願いをされて断る事が出来なくなる。


「衛輔くんが好き」
「俺も。葵が好き」


下校途中、誰が通るか分からないような路地だけど。
今の私はそんなことを気にする余裕なんて全くなかった。

ただ、夜久くんがとっても嬉しそうに笑ってくれるから。
それだけで私は幸せな気持ちになれて、自然と笑顔になれる。

あの日、夜久くんが見ていた強がった笑顔なんかじゃない、本当の笑顔。
夜久くんの記憶の中の私を塗り替えていけるくらい、この先お互い笑いあっていけたらいいな。

そっと唇が触れ合う中、私は心からそう願った。


fin.




完!!!!

長々とお付き合いありがとうございました!
本当にグダグダ長く書く癖直したいです‥‥
こんなんですが夜久くんのカッコよく、まっすぐで純な愛をお届けできたなら幸いです。
純とか言いながら男にしちゃいましたけどねwww

この作品を読んで、1人でも夜久君の好感度が上がる人がいますよーに( *´艸`)


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