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30センチの距離

私の彼氏はバレー部に所属しているだけあって身長が高い。同年代の女子の平均よりも少し小さい私との身長差は優に30センチはあるだろう。
普段は背が高いのも魅力の一つ。だなんて思っているんだけど、たまに身長差を意地悪く利用してくるのが玉に瑕だ。


「葵ー」
「っ!ひゃ」


教室で自席に座ってスマホに目を落としていた時、後ろから圧し掛かるようにして体重をかけられる。
油断していた事もあって変な声が出てしまったけど、不意を突かれてしまったんだから仕方ない。両肩に掛かる重みについ「重いんだけど・・・」と溢したけど、カサリとした袋の音とともに目の前に差し出されたソレに意識が奪われた。


「あ、シュークリームだ!」


よくコンビニで見かける慣れ親しんだパッケージの中には、見るからにふわっとして美味しそうなシュークリーム。貴大の好物であるが故に、付き合い始めてから意識し出したものでもあるそれに、つい声を上げてしまった。


「二個買ったから一個やるよ」
「嘘!?嬉しい!ありがとっ」


いつも一口くらいしかくれないクセに珍しい事もあるものだ。と思いながらも私も好きなのでお礼を言いつつ手を伸ばせば、貴大もまた腕を前に伸ばしているため腕の長さという点でシュークリームまで届かない。
目一杯指先まで伸ばしてもそれば変わらなくて、身を乗り出そうとしてももう片方の手で肩に体重を掛けられているのでそれも出来なかった。


「ちょ、くれるんじゃないの?」
「取ってみ?」


笑い混じりにそう言われたのが悔しかったけど、どう頑張っても「ぐぬぬ・・・」と変な呻き声が出るだけでシュークリームとの距離は縮まらない。身長差は腕の長さにも差が出てくるから、当然といえば当然の結果なのだけれど。
私の必死な様子を笑いながら見ているだけで一向にくれる気配の無い貴大に、シュークリームではなく、彼の引き締まった腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。


「いただきます」


ズルい方法だったけれど、距離が縮まったおかげで漸く手にする事が出来て、それと同時に肩に掛かっていた重みもスッと離れていった。勝ち誇ったような笑みを浮かべて貴大の方へと振り返れば、若干不満そうな顔をしていて思わず笑ってしまう。


「・・・ズルくね?」
「ごめんごめん。でもアレは無理だよ」


きっともう少し私が奮闘するのを見ていたかったんだろう・・・悪趣味め。
でもそんな事を口に出したら折角のシュークリームちゃんは貴大に没収されてしまうだろうから、心の中で思うだけに留めておく。


「あ、あとコレな。この前続き読みたいって言ってたやつ」
「えっ、わざわざ持ってきてくれたの?ありがとう」


目の前にズイッと差し出されたのは貴大の家で読んでいた漫画。
袋などには入れられておらず、むき出しのまま渡すっていうところが何とも男の子って感じだけど。部屋に居て、本棚を見たときに思い出してくれたのかな?なんて、自分の居ない所でも貴大が私の事を考えてくれていたのが嬉しくて、破顔しながら受け取る。
貴大もまた、ふわりと笑って私の髪の毛をクシャリと乱していくものだからドキッと心臓が跳ねた。


「じゃ、またな」
「うん」


大好きな背中を見送りつつ、胸の上に手を置いてドキドキとうるさい心臓を上からギュッと押さえた。たまにああやって優しく笑うんだから本当に心臓に悪い・・・。
落ち着くために深く息を吐きながら貸してもらった漫画を丁寧にかばんへ仕舞おうとチャックを開けると、すっかり忘れていたものが顔を覗かせた。

今日の調理実習で作ったカップケーキ。家から持ってきたもので簡単にラッピングしたそれは、貴大にあげようと思っていたものだ。
しまった。今渡せば良かった・・・と、すっかり忘れていた自分を叱咤しつつも時計を見てみればもう予鈴がなる時間。仕方ない、貴大が部活に行ってしまう前にダッシュで3組へ行って渡そう。

・・・そう思っていたのに。こんな日に限ってHRの担任の話が長くて全然終わらない。
どうでもいい話に辟易し始めた時、一人の生徒が「センセー、早く終わってよ」と声を上げた事で漸く終了した。
クラスメイトに心の中で賞賛を送りつつ、かばんを掴んで教室を飛び出す。すぐ隣の教室を覗くも、もう人はまばらで貴大の姿は無かった。


「はぁ・・・」


がっかりして嘆息を漏らしながら逡巡するも、やっぱり渡したいという気持ちが勝って部室棟へと足を運べば、バレー部の部室まであと少しというところで丁度ジャージを着た面々が部室から出てきた。
その中にピンク頭を発見し「貴大っ、」と声を上げて引きとめる。

結果、貴大だけじゃなく他の皆からも視線を集めることになったけれど、ヘラッと誤魔化しの笑顔を浮かべれば「先行ってるな」と空気を読んでくれた。


「どうした?」
「今日調理実習で作ったやつ渡そうと思っただけなんだけど・・・」
「おっ、カップケーキじゃん!サンキュー」


部活終わった後に食おー。とロッカーへしまうのか部室の中へと戻っていく貴大を見つめていれば「葵も来いよ」と手招きされる。
いいのかな?と一瞬躊躇したが、もう少し一緒に居れると思えば身体は正直で貴大の後に続いて部室へと入った。


「さっき渡しそびれちゃった。引き止めてごめんね」
「大丈夫大丈夫。ありがとな」


ロッカーの中へと仕舞いこんだ貴大は、そのまま私へと向き直ってジッと見つめてきたので首を傾げる。


「もう行く?」
「いや・・・折角だし、葵に元気もらってから行こっかな」
「・・・元気?」


元気ってなんだろう、いけいけおせおせ的な声援でも送る・・・・・・ワケないか。元気・・・元気、と心の中で繰り返しながら考えて。
あっ、ギュっと抱きしめるとかかな?と私が答えを導き出したのと同時に、貴大が口角を上げて笑った。


「キスして、葵から」
「え?」


予想以上の言葉に、時が止まってしまったように身体が固まった。
キス・・・ここで?と思ったけど、部室の中で二人きりという状況だから、一応問題は無い・・・のか?
あまり自分からした事なんてないけど、このまま私が躊躇し続けてたら貴大が部活に遅れてしまうかもしれないし。恥ずかしさを残さないくらいサッと軽くしてしまえばいいか・・・うん。覚悟を決めて貴大に近寄り、その顔を見上げる。
不安定になる身体を支えるように貴大のジャージを掴めば、スルリと腰に回される手。その唇へと距離を詰めるように爪先に力を入れた。


「・・・なんで、っ」


でも、残りの数十センチが縮まらずに唇を重ね合わせる事が出来ない。
どうして・・・?と薄目がちだった目を開き貴大を見上げると、弧を描く口許が映り、そこで漸く把握した。

30センチという身長差を埋めるためには、貴大が屈んでくれないと埋まることはない。
それなのに直立している貴大は最初からこうなる事を予測してたとしか思えなくて、悔しさから掴む手に力を込め先程よりも大きく背伸びをする。
だけど、やっぱり結果は一緒で。ほんの少し近くなっただけで距離はゼロにはならない。


「・・・もうっ、屈んでよ」


段々と恥ずかしさが込み上げてきて軽く揺さぶりながらそう言うと、楽しそうに笑いながら「ハイハイ」なんて軽い返事が返ってくる。
貴大が少し屈んだのを確認して今度こそ、と試みるも・・・吐息すら感じられそうなくらいの距離までは縮まったものの、あとほんの少しだけが届かなかった。


「っバカ・・・」


さすがにもう無理だ。込み上げてきた恥ずかしさを抑える事が出来なくて、俯きながら悪態を吐く。
何度繰り返しても結果は同じだろう。ジャンプしたら届くかもしれないけど、勢い余って唇切れそうだし。
じゃあどうすれば・・・そう考えていた時、ふと頬に手が添えられて俯きがちだった顔を上げれば、貴大の顔がすぐ近くにあって目を見開いた。
その瞬間、唇がしっかりと重なり合う。心構えも何も出来ていない。完全なる不意打ちだ。
下唇を食むようにしてからリップ音を立てて離れていった唇を呆然と見やった。

あれだけ言っても屈んでくれなかったクセに、私の心が折れそうになったらこうして仕掛けてくる所とか。


「ホント、意地悪」


熱くなった顔を隠すように貴大の胸に隠れるように額を付ける。
そんな私の頭を大きな手で乱雑に撫でつけた後、微かに笑いながら


「でも、そんなトコも好き・・・だろ?」


なんて言ってきたので、額を更にグリッと押し付けた。
・・・その通り。だなんて悔しいから言ってあげない。




このお話は「はろーまいだーりん」の紫苑様とのコラボ作品です。
RTでとっても胸キュンのものが流れてきたので、色々なキャラで見てみたいっ!
私花巻書くので是非他のキャラを〜!と図々しくお願いしてみたところ快く引き受けてくださりました!
なので、同じシチュで違うキャラになっていますがパクリなわけではないです(笑)
紫苑様のサイトへは、TopページのLinkからリンク繋がってますので是非!
私のなんかよりも素敵なものが見れると思いますのでw

紫苑様、ありがとうございました!
write by 神無



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