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やっぱり敵わない


「どこ行ったんだろう」


昼休みの喧騒の中、軽い気持ちで探し始めた彼氏の姿。
だけどクラスに行っても見当たらなくて、それが何だか余計に気になってしまった。別に用事がある訳でもないし、居なければそれでいいんだけどさ。


「あ、いた」


それでも何となく不貞腐れた気持ちになりながら、ふと覗いた隣のクラスに目立つ頭を発見。松川と談笑している貴大の姿に思わず笑みが溢れた。
ここのクラスに居たんだ。いつもいつも部活で一緒にいるクセに、お昼まで一緒って仲良すぎじゃない?いや、別に嫉妬とかではないけどさ。

話に夢中なのか、私の姿にはまだ気付いていないようで、背後から足音を殺してそっと忍び寄ると、その手に食べ掛けの小さくなったシュークリームがあるのが見えて、悪戯心が沸々と湧き上がってきた。
ニマニマと笑いながら近づくと、松川と目が合ったので人差し指を口元に当てて貴大に気づかれないように合図を送る。そのまま真後ろまで来た時、貴大の手首をガシッと掴んで自分の口まで運び、ターゲットのシュークリームをあむっと一口で頬張った。


「おわっ」
「ん〜、美味しっ!」


瞬時に甘いクリームが口の中に広がって、それを堪能しながら数回咀嚼して飲み込んだ。
口の端についたクリームを舌で舐めとりながら未だに唖然としている貴大に向かって微笑む。


「ごちそーさま」


しかし、余裕でいられたのもその一瞬。


「葵ー、なーにしてるのかな?」
「んむ、」


大きな手が眼前に迫ってきたと思ったら、そのまま片手で両頬を潰されて唇が突き出る。
一連の流れを見ていた松川が堪えきれないとばかりに吹き出したので、さぞかし変な顔をしているんだろう。


「にゃにしゅんのよ」
「ごめんなさいは?」


シュークリームを取られた事にご立腹なのか、笑みを浮かべているけど手に込められている力は中々のもので、離そうとその手首を掴むが自分では外せそうにもない。謝るまでこのままなのは容易に理解できたので、ままならない発音で謝罪を口にした。


「っし、じゃあジュース奢ってネ」


何がじゃあ、なんだ。
手を外されても未だ若干ヒリヒリとする頬を撫でながら非難めいた視線を向ける。


「えー、ワリに合わなくない?私食べたの一口だけだよ」
「俺、最後の一口食わないと満足しない人なの」
「何それ。ま、別にいいけどさ」


ただの悪戯が随分お高くついてしまったようだ。
そのジュース代で安いのならシュークリーム一つ買えちゃうんですけどね。


「てか、扱い酷くない?」


確かに断りなく食べてしまったのは悪かったけどさ、彼女の可愛い悪戯だったら笑って許してほしいよね。


「俺が好きなの知ってて食べる方が酷くない?」
「えー、だって私も好きだもん」
「そっかそっか。そんなに俺の事好きなのか葵チャンは」


軽口を叩いていたら貴大がいきなり斜め上の発言をして来て、茶化すように言われたその一言に心臓が跳ねた。


「はぁ?違うし、シュークリームの話だし!」
「わざわざ俺の事探しにくるくらいに好きなんだろ?」
「違うし!」


ここが教室だという事も忘れていつもの如くつい言い合いを始めてしまう私たち。
貴大の事が好きなのも、わざわざ探しに来たのも本当なんだけど、こうして揶揄うように言われたりするとどうしても素直に認められないのは私の可愛くないところ。図星を突かれて顔が熱くなっているのが自分でも何となく分かるから、きっと傍目に見ても赤くなってしまっているんだろう。
そうすればいくら言葉で否定したって意味ないんだけど、狼狽える私を見てニヤニヤと笑う貴大を前にするとどうしたって認めたくない。


「もー、お前らどっか行って。人のクラスでイチャついてんなよ」
「い、イチャついてなんていないでしょ!?」


最初は面白そうに見ていた松川なのにウンザリした表情でそう言うものだから、焦って周りの皆へ視線を巡らすと、好奇を含んだどことなく迷惑そうな視線を向けられているのに気付いた。
つまりそれは松川の言った事が皆の総意だということを表していて。


「じゅ、ジュースだったね。買いに行こっか」


その視線から逃げ出すように貴大の手を掴んで教室を後にし、脇目もふらずに自動販売機の前まで来てから漸く一息つく。

とりあえず約束を果たすために財布を取り出そうとポケットに手を当てるも、そもそも何かを買う目的で出て来たわけではないので、そこにはただの布の感触しか無かった。
無理矢理引っ張って此処まで連れて来たのに・・・。色々と裏目に出てしまう自分に落ち込んでいると、横から腕が伸びてきてガシャン、と小気味のいい音が響く。


「コレでいい?」
「あ、ありがとう」
「財布忘れるとかウッカリさんですねー」
「…すみませんね」


取り出された紙パックにストローを差し込んで、そのまま渡してくれるのかと思いきや貴大の口へと運ばれるジュースを視線で追い「ちょっと、くれるんじゃなかったの?」と心の中で突っ込む。
私の視線でソレが伝わったのか、微かに笑いながら飲みかけのジュースが差し出された。
一緒に飲むなら初めからそう言ってくれればいいのに・・・。


「で、マジで何の用だったの?」
「え?・・・えーっと」


困る。それを聞かれると非常に困る。だって、用事という用事なんて無かったし・・・ちょっと話せたらなって思っていた程度だもん。
言葉を濁しながらジュースを飲んでやり過ごそうとしたけど、相手は貴大だ。それが通用しないのはもう分かっている。


「・・・忘れちゃった」


誤魔化そうとヘラリと笑って見せたけど、私よりも更に深い笑みを浮かべた貴大を見て、上げていた口角が引き攣る。
凭れていた自販機からそっと背を離すと、私の方へと身を乗り出してきて、軽く唇を重ねた後にワザと音を立てて離れていった。


「こういう事、したかったとか?」
「ち、ちが・・・」


まさかこんな所でキスをされるとは思わなくて、驚きからつい否定の言葉を口にしてしまう。


「違うの?じゃあ行こーぜ」
「っ、待って!」


なのに、貴大は言葉そのものを受け取ってしまったようで、踵を返して私に背を向けるものだから、思わず制服の裾を掴んで引き止めてしまったけど。

あぁ・・・やられた。そう思ったのは、振り返った貴大の表情を見てから。
してやったりと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべる貴大に若干悔しさが沸きあがってきて、何か一矢報いる事は出来ないかと思考を巡らせる。


「やっぱりシたかったんじゃん」
「違うもん」


すると、こちらに向き直った貴大の鮮やかな色のネクタイが目に入って、ある事を思いついた。
思いつきのままにネクタイを掴み、身長差を埋めるように自分の方へ引っ張りながら、背伸びをして更にその差を詰めるとシッカリと唇を重ね合わせる。唇から伝わるのは、しっとりとした柔らかな感触と温かさ。驚いているのか、触れ合った部分から微かな震えが伝わる。


「私からしたかったのっ」


たった数秒の事だし、自分から仕掛けておいて何だけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
これを思いついた時に考えた台詞を半ば投げやりに言い放ち、掴んでいたネクタイも解放した。けど、いつもは直ぐに言葉を返してくる貴大が何も言って来ない事に気付いて、逸らしていた目線を上げると・・・。


「っ・・・それは反則だろ、」


ほんの少し色づいた頬を隠すように大きな手で顔を覆っていて、一呼吸後にポツリと呟いた言葉。
一目見て照れているんだと分かる表情に嬉しくなって、今度は私の顔が緩んだ。


「急に可愛い事すんのヤメて」
「お互い様でーす」


お互いに茶化し合って笑っていると、何気なしに私が引っ張ったせいで崩れたネクタイを結び目に指を掛けて緩める貴大。
それが行為を始める瞬間と重なってしまって、気を逸らすように慌てて手にしていたジュースをもう一口、口に含んで流し込んだ。


「・・・なぁ、」
「なに?」
「今日部活ミーティングだけだから、久しぶりに俺ン家来ねぇ?」


雰囲気をガラッと変えて、甘く囁くその言葉の意味が分からないほど初心じゃない。
そんな甘い誘惑に勝てるはずもなく、「行く・・・」と小さな声で応えれば、ふわりと頭を撫でられた。

あぁ、もう。
やっぱり貴大には敵わない。




フォロワさんと花巻について語ってたら生まれた作品です(笑)
花巻にやって欲しいよねー!って言ってた事を詰め込んでみました(*^^*)
皆と話してるとネタが尽きなくて本当楽しいですw
write by 神無


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