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付き合った日から今日でちょうど二週間。

経緯が経緯だったので、私と岩ちゃんが付き合っているという事はあっという間に部活内に広まり、そしていつの間にかクラス中にも広まっていた。
やはりこういう噂には皆食いつきがいいのか、学年中に広まるのも時間の問題だなと思えるくらい早く広まっている気がする。その証拠に、名前も知らない男子から「岩泉の彼女じゃん」なんて声をかけられることもあって、未だ岩ちゃんの彼女というポジションに慣れていない私はそう言われる度に顔は赤くなるし、落ち着かない気持ちになるしで困っていた。

岩ちゃんと同じクラスのせいか、事ある毎にクラスメイトにからかわれたりもするし。
それでも岩ちゃんは照れる素振りは見せずに軽くあしらっているのだから見習いたいものだ。

と、まぁ・・・現実逃避はここくらいにして。


「お邪魔します」


来てしまった。
あの日以来。・・・つまり二週間ぶりに、岩ちゃんの家へ。
まだ記憶に新しい玄関で靴を脱ぎながら、飛び出しそうなくらい激しく鳴っている心臓を落ち着かせようと深く呼吸をしてみる。けれど数回繰り返しても全然効果はなく、相変わらずドクンドクンと力強く脈打っていた。
今日は他のメンバーも居ないから完全に二人きり。前回の時みたいな好奇心はなく、あるのは全身に広がる緊張だけだ。


「葵」
「っ、はい」


とりあえず岩ちゃんの後に着いていこう。そう思って広い背中を見ながら後を追おうと一歩踏み出した瞬間、ぐるりと岩ちゃんが振り返ったものだから、不意打ちにビクッと肩が跳ねた。
しかも若干声も上ずってしまったし、不自然極まりない反応である。


「どうした?」


それはやはり岩ちゃんも疑問に思ったらしく、私の様子にパチパチと瞬きをして首を傾げながら問いかけてきた。
出来ればスルーして欲しかったとも思うが、自分でもやってしまった感はあったのでしょうがない。
誤魔化すためにヘラリとした笑顔を浮かべ「何でもないよ?」と言えば、岩ちゃんも優しさなのか私の動揺を汲み取ったのか。それは分からないけど、それ以上は何も聞かないでくれたのに安堵する。

しかし、それも束の間。言葉の代わりに伸ばされた手が私の頭の上へと降ってきて、大きな手のひらで数回ポンポンと叩いた後に髪の毛を梳くように撫でつけた。


「何飲む?」
「え・・・あ、何でも」
「分かった。先に部屋行っててくれ。あ、部屋分かるよな?」
「う、ん」


何が起こったのかよく理解出来ないままリビングの奥へ消えていく背中をボーッと見ていたが、バタンと扉が閉ざされて一時的に1人になった事で、漸く硬直していた身体が動く。


「っ、」


ふらふらと覚束無い足取りで岩ちゃんの部屋へと向かいながらも、頭を撫でられたという事実が未だに信じられなくて、この白い壁に頭を打ち付けたい気分だった。
一体、何だったのか・・・。思い出すだけで顔が火照る。
あんな事初めてされたし、岩ちゃんってああいう事する人だったっけ。と思い返したらこの2週間のアレコレが次々と浮かんできて、もっと落ち着かない気持ちになってしまった。

付き合い始めてから今日までの2週間。
二人きりになる時間は決して多くは無かったけれど、先週の月曜日には初めて二人で出かけたし、部活の帰りには家まで送ってくれた。

教室にいる時や部活中だったり、他の人がいる時は本当に付き合ってるの?って聞かれるくらい態度が全然変わらない岩ちゃん。だけど、二人きりになるとやっぱりどこか違う空気が流れていて、私はまだそれに慣れることが出来ない。

岩ちゃんの方は、動揺したり照れたりといった様子はあまり見られなくて。もしかしたら私が気付いていないだけかもしれないけど、翻弄されるのはいつも私ばかりだ。

そんな事を考えていたらあっという間に部屋の前で。
一つ息を吐いてからゆっくりと扉を開ければ、前回と変わらないシンプルな内装が視界いっぱいに飛び込んでくる。

立てかけてある折りたたみのテーブルや物の配置は当たり前だけど変わっていない。けど、今日は床には何も落ちてなくて綺麗に片付けられていた。
もしかして、私が来るから片付けてくれたんだろうか。そう思うだけで嬉しさが込み上げる。


「失礼しまーす」


何となく声に出してから中へ入り、どこへ座っていいのか視線を彷徨わせると、部屋の大半を占領しているベッドが目に入ったが、それは見ないフリをしてそのベッドに凭れるようにしてカーペットの上へ腰を下ろした。

本当はちょっとベッドにもぐったりして、いつも岩ちゃんココで寝てるんだよなぁ。なんて色々浸ってみたいし妄想なんかもしてみたいけど、実際にしようものなら多分どうにかなりそうなので、思うだけに留めておこう。とニヤニヤと緩む口元に手を当てて抑えていれば、「なぁ、炭酸じゃない方が良かったよな」急に扉が開いて岩ちゃんが顔を出すから慌てて口元を引き締めた。


「っ、あ・・・うん。ありがとう」
「ん。机出すか」


岩ちゃんのその一言でハッとする。
そうだ。今日の目的は一緒に課題をする事だった。彼氏の部屋に来たからって浮かれている場合じゃないんだ。
受け取ったペットボトルを出してくれた折りたたみの机の上に置いて、今日終わらせてしまおうと思っていた課題を広げる。

この間は5人で囲んでいた机も、2人だと広く感じるけど・・・。対面で向かい合っているせいか、あの時よりも距離が近いような気がした。


「えっと、岩ちゃんは何やるの?」
「あー・・・とりあえず数学からだな」
「じゃあ一緒だ。分からなかったら教えてね」


岩ちゃんの事を意識しないように問題に集中しよう。そう決意して問題に向き合えば、嫌でも集中せざるを得ないので、数学を選んで良かったと自分のチョイスを褒めたい。

只管に問題と睨み合って手を動かしていたけれど、視界に入る岩ちゃんのノートが始めた時のまま殆ど進んでいない事に気が付いて俯いていた顔をあげると、どうやら私の方を見ていたらしい岩ちゃんとバッチリ視線が交わって、不意打ちに心臓が跳ねた。


「ど、どうしたの?」


そう聞いても視線が逸らされる事はなく、かと言って何か言うわけでもない。
机に肘を付いて手の平に顎を乗せた姿勢からピクリとも動かずに、ジッと見つめるだけ。


「・・・岩ちゃん?」


どうかしたのだろうかと不安になって名前を呼べば、グッと眉間に皺が寄ったので段々と不安になってきた。


「なぁ・・・それ、」
「何?」
「その、岩ちゃんって呼ぶのやめねぇ?」
「え・・・?」


漸く話してくれたかと思ったのに、呼び方を指摘されて頭が混乱する。
急にそんな事言われても・・・というのが本音だけど、もしかして及川くんの真似して岩ちゃんって呼んでいたのがずっと気に入らなかったんだろうか。
でもそんなの一年の頃からだし、今更・・・?


「今まで岩ちゃんって呼んでたけど、ダメだった?」
「今までと今じゃ違うだろ」


若干言いづらそうに発せられたその言葉で、岩ちゃんの言わんとする事がやっと分かった。
今までは部員とマネージャー、そしてクラスメイトだった関係が今では・・・恋人、なのだから。という事だろう。
私も考えなかったわけじゃないけど、自分からいきなり変えるのはちょっとハードルが高すぎて出来なかった。だから、いい機会なのかも。


「岩泉一、くん」
「ふはっ、なんでフルネームなんだよ。普通は」
「はじめ」


照れ隠しに言った名前に笑ってくれたのを遮って、初めて岩ちゃんの名前を呼べばあからさまに固まる彼。


「はじめ」


だからもう一度、一音一音をはっきりと言えば、ずっと逸らされる事の無かった視線がぐるりと顔ごと横に逃げた。


「あー・・・やべぇ」


ポツリと小さく落とされた言葉は、私たち以外いないこの部屋では簡単に拾う事が出来て。
顔が見えなくても、短く切られた髪から覗いている耳が赤く染まったのが見えたので、照れているんだ。と直ぐに分かった。
付き合い始めてから初めて見せてくれた岩ちゃんの動揺に何だか嬉しくなってしまい、その表情を見ようと膝立ちで移動して岩ちゃんの真正面へと腰を下ろす。


「はじめ?」
「・・・ちょっと待て」
「はーじーめ」


珍しいその様子に、調子に乗ってしまったのがいけなかった。
顔を覗きこみながら何度も名前を呼べば、不意に伸びてきた腕に手を取られる。


「そうか」
「え、ちょ・・・何?」
「して欲しいんだったらそう言えよ」


再び向き合ったその顔に照れや動揺は無く、変わりに悪戯な笑みを浮かべていた。
ここで漸くやり過ぎた、と自分の行動を反省したがもう遅い。


「気づいてやれなくて悪かったな」


掴んでいる手とは逆の手で後頭部を引き寄せられれば、もう逃げる術はなかった。
いや、例え逃げ道があっても、結局今と同じ行動しか取らなかっただろう。
近づく岩ちゃんの顔を直視出来ず、恥ずかしさを堪えるようにそっと目蓋を閉じるだけ。

触れている手と同じくらい優しく重なる唇を感じると、ドキドキと破裂しそうなくらいに高鳴る心臓。
やっぱり、どんなに頑張ってみたって翻弄されるのは私の方なんだ。




あかね様、リクエストありがとうございました。
連載でリクエストを頂けてとても嬉しかったです!ジェンガはもう1年以上前のものだったので、私も思い出すために読み返しました(白目)

後日談、という感じで本編ではあまりなかったいちゃラブとのリクエストですので、二人をいちゃいちゃさせたつもりではありますが、物足りなかったらすみません。。

リクエストにお応えするのが遅くなりすみませんでした。
このようにマイペースなサイト運営ですが、また遊びにきていただけたら嬉しいです!
write by 神無


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