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拍手小話 キス編


 初めてのKiss(及川)




月曜日の午後、付き合ってから初めて一緒に帰る事に朝からドキドキしていた。


つい先日、ずっと好きだった及川くんに告白されて付き合う事になったけど、未だに信じられない。

だって及川くんっていえば、全校生徒の9割は知ってる有名人だよ!?

なんで私なんか…そう思ってしまうのも無理はない。


「おまたせ!行こっか」

「あ、うん」


楽しみにしていたのに、緊張していてぎこちなくなっているのが自分でもわかる。


「3組っていつも終わるの早いよね?ウチのとこももっと早くHR終わればいいのに」

「あの先生、話が長いって聞くけど…」

「そう!今日なんてさー」


そんな私を察してか色々と楽しい話題を振ってくれて、自然と話が盛り上がって段々といつもの自分の調子を取り戻す事が出来た。


折角だから飲み物買って少し話そうって提案してくれた及川くんの意見に乗っかり、道沿いにあったお店でコーヒーをテイクアウトする。

しばらく歩くと、子供も居ない小さな公園を見つけて、そこのベンチに腰をおろした。


「放課後、いつも時間取れなくてごめんね?」

「いや、それは全然…。及川くんのバレーしてるところ好きだし。あと、まだちょっと実感がわかないっていうか…」

「え?そうなの?んー…じゃあ、はい」


徐にベンチから立ち上がって、私に腕を伸ばしてくる。

これは私も立てっていう事かな?そう思って及川くんの手を取ると勢いよく引かれてしまった。


「っ、きゃ」


びっくりして声が出たけど、自分の置かれてる状況を把握して更にびっくり。

及川くんの腕の中にスッポリと収まっている状態だった。


「ななな、何」

「ふはっ、吃りすぎ。ねぇ、これでも実感湧かない?」

「えっ?…いや、えっと」


実感するどころか、心臓が飛び出てきそうなくらい跳ねているし、緊張のあまり手が震えてきた。

こういう時って手はどうするの?背中にまわすの?

そんなの想像しただけで無理だよ。


「あのさ」

「う、うん」

「余裕ぶってるけど、緊張してるのは俺も一緒だから。2人で少しずつ慣れていこ?」

「うそ…及川くんがそんな」

「本当だって。ほら…聞こえない?」


グッと抱きしめる腕に力を込められると、ちょうど私の耳が彼の胸の部分に当たる。

すると、自分のうるさい鼓動とは別の音が同じくらいの速さで聞こえてきた。


「ほんとだ」


嬉しいのと驚いたのが混ざって、及川くんを見上げてふふっと笑ってしまった。

そっか。及川くんも緊張してるんだ…そっか。

私だけじゃ無かったことに安心して、ふっと身体の力が抜ける。


「あー…でも」

「ん?」

「今の顔が可愛すぎたから、ちょっとフライングしてもいい?」


どういう事だろう?及川くんの言っている意味がよく分からなくて彼の顔を見上げると。

想像していたよりもずっと近くに綺麗な顔があって、驚きのあまり目をぎゅっと瞑った。


ふわ、と髪の毛がくすぐる感触の直後。

温かくて柔らかいものが私の唇に押し当てられる。


「いいい今、」


すぐにその感触は離れていったけど、唇に残った感覚はまだ残っている。

初めてのキスは何の心構えも出来ないまま奪われてしまった。

でも、私の性格からしたら事前に言われたところできっと心構えなんて出来ずに狼狽るばかりだろうから、これはこれで良かったのかもしれないけど。


「凄い可愛い顔見せるから思わずしちゃった」

「・・・ソウ、デスカ」

「ププッ・・・何で片言?これからも俺、多分いっぱいするから。慣れてね?」


私の頭を撫でながら、小悪魔的な笑みを浮かべて言う及川くん。

…慣れる前に心臓が壊れないか心配です。

慣れる日・・・来るんだろうか。




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