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クラッシュ寸前ハートビート


お昼休み。早々にお弁当を胃の中に収めた後、食後のデザートと称して机の上に出したお菓子を摘みながら友達と談笑する。
毎日恒例と化しているこの時間だけれど、ここでアイツが来るのも最近の恒例となりつつある。


「うわっ、ウマそー!」
「食べる?いいよ」


ほら、来た。目を輝かせて傍に寄ってきたのは、同じクラスの木兎光太郎。置いてあるお菓子を差し出せば、「サンキュー!」と満面の笑みで受け取り早速頬張っている。

いつからだっただろう、木兎の視線に気付いたのは。友達と話している最中やたらとこっちを見てくるのを不思議に思っていたけど、席替えをして近くなってからその視線の意味が分かって、思わず笑ってしまったのはまだ記憶に新しい。


「おいしい?」
「ウマい!」


木兎が所属している男バレは全国でも名を馳せている強豪だ。その中でも木兎光太郎という名前は中々有名らしい。目の前で幸せそうに食べている姿からは想像出来ないけど、凄いプレーをすると聞いた事がある。
だから、木兎の視線が私たちじゃなくて机の上のお菓子に注がれていると分かった時、もしかしたらお昼ご飯だけじゃ足りないのかと思って差し出したのがきっかけだった。
餌付け成功、といったところか。今ではこの時間になると吸い寄せられるようにやってくる。


「お前ってちっちぇーよな」
「何、急に。普通だよ?」
「いや、ちっちぇーって!細ぇし。ちゃんと食ってんのか?」
「ご飯食べた後にお菓子まで食べてますけど」


口の中に詰め込んだお菓子をもぐもぐと咀嚼しながら私に視線を向けてきたかと思えば、いきなりそんな事を言われて首を傾げる。
女子としては平均的な身長だし、木兎からすれば大体の女子は小さいんじゃないだろうか。細いと言われるのは嬉しいけど、毎日毎日お菓子を食べている事もあって理想の体型からは程遠いし。これも、木兎には女子は皆細く見えているんじゃない?って木兎の基準を疑ってしまう。

いや、そう思わないと私の心臓がもたないのだ。基本的に木兎は思った事をすぐ口に出すし、その言葉に嘘はない。お世辞だって言わない。本心から出る言葉だと知っているからこそ、ドキドキと心臓が煩く音を立ててしまうんだ。


「なあ、ちょっとこれ着てみて」
「えぇ・・・やだよ」
「別に臭くねーぞ!」
「そんな心配はしてないけど・・・え、ホントに?」


木兎に抱いている私の想いは目の前の友人くらいしか知らないはず。気付かれないように隠しているし、木兎の言葉に動揺してみせたところで、こういう類の話に鈍い木兎が気付くとも思えないから。

だけど、無自覚で翻弄してくるのはやめてほしい。
差し出されたブレザーに何の意図があるかなんて分からないけど、ただ単純に小さいと思ったから、自分との差を比べてみたいとでも考えたんだろう。

好きな人の・・・ブレザー。恥ずかしいけど、ちょっと興味がある。そんな思いから受け取ってしまったけど、本当に着るんだろうか。確認も込めてチラリと木兎に視線を移してみたが、腕を組んで待ちの姿勢になっているのを見て、軽く息を飲み込んだ。

自分のよりも少し重いブレザー。ゆっくりとした動作でカーディガンの上から羽織ってみると思っていた以上に大きくて、ブレザーに着られているといった表現が正しいような気さえする。


「やっぱり大きいね・・・ってか、大きすぎ」
「萌え袖になってんじゃん。そういうの可愛いよな」


木兎と一緒にお昼を食べていたんだろうか、何故かうちのクラスに馴染んでいる木葉が私の呟きに答えた。ニヤニヤと笑いながら言った言葉は揶揄いが含まれていて、それが私に向いているのか木兎に向いているのかは分からなかったけど、とりあえず苦笑いで相槌を打つ。

萌え袖どころか指先すら出てないけどね。肩の位置が違いすぎてずり落ちそうになるし、男の子の可愛いの基準はよく分からないけど自分的にはイマイチのような気がする。
っていうか、思っていたよりも恥ずかしい。好きな人のブレザーを羽織ってるというこの状況がまず落ち着かないし、着た瞬間に少し残ってた木兎の温もりとかすっぽりと包まれてしまう体格の違いを意識すると、熱が込み上げてくる気がした。

これ以上はもう限界かも。そう思って脱いでしまおうとブレザーに手を掛けた時、少し乱暴に手を取られた。強い力で阻まれ、何かと思い視線を辿れば不機嫌そうな表情を浮かべる木兎の姿。
え、私何かした?ブレザー羽織ったのが似合わなかった?でも着ろって言ったのは木兎だし。なんでそんな顔をしているの?さっきとは違う雰囲気の木兎にブレザーで暖を取っているはずの身体が冷えていく感覚がした。


「ダメだ」
「え?ダメって・・・え、ちょっ、木兎!?」


小さな声量で呟かれた言葉。意味が分からなくて聞き返してみたのに、返答がないまま掴んだ腕をグイグイと引っ張る木兎。
自然と私の足は前に進み、教室を抜けても木兎の足が止まる事はない。

歩幅の違いから小走りになりつつも、木兎の大きな背中を必死に追いかけていれば、中庭に到達したところでピタリとその足が止まった。


「はぁっ・・・木兎、どうしたの?」


日頃の運動不足のせいか、若干弾んでしまった息が恥ずかしい。目の前の木兎は平然としているのに。


「木兎・・・?」


ふと顔を上げた時、いつも笑みを絶やさない木兎が笑みを浮かべていないのに気づいた。それどころか苦しそうに眉根を顰めていて、思わず名前を呼べば力なく笑う。


「悪ィ、何か皆に見せたくなくて」


何でだろーな。そう続けた木兎に、心臓がかキュッと痛くなる。
皆に見せたくない、なんて。まるで独占欲じゃないか。そんな事言われたら木兎にバレないようにしていた気持ちが顔を出してしまう。


「そんなの・・・」
「ん?」
「そんなの、私の事好きみたいじゃん・・・」


自惚れかもしれない。違ったらとんだ恥だ。それでも口に出したのは、この関係が変わるかもしれないという期待から。渦巻く不安は未だ羽織ったままの木兎のブレザーをギュッと掴みながらやり過ごした。


「っ、ひゃ」
「葵」


ずっと離される事の無かった腕。掴まれている部分は熱を持っていて、そのまま木兎に引かれると、バランスを崩した身体は木兎の胸で受け止められる。

戸惑う私を他所に、初めて聞く熱を帯びた声が耳を擽り一気に身体の熱が上昇した。
木兎のブレザーに包まれているのに、その上木兎自身からも抱き締められてオーバーヒートしそう。いや、もうしてるかも。だって、何も考えられない。


「あー!スッキリした!」
「な、なに」


ビクリと跳ねた肩を掴まれ、ほんの少の距離が出来た事で自然と顔を上げて木兎を見たが、そこにはいつもの太陽のような笑顔があった。
あぁ、やっぱり怒っているような顔や苦しそうな顔よりも、木兎にはこの笑顔が一番似合っている。
木兎の後ろにある青空や太陽の光のせいだろうか、随分と眩しく見えて思わず目を細めた。


「葵。俺、お前の事が好きだ!」
「・・・え?」
「その姿、木葉が可愛いって言ったの聞いてモヤッとした」
「う、うん」
「誰にも見せたくねぇ。って、俺だけがお前の可愛い姿見たいって思った」


あまりにもストレートに紡がれる言葉に、オーバーヒートを通り越してクラッシュしそう。この距離でも心音が木兎に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいに脈打っている。


「今日だけじゃねぇ。いつも葵に話し掛けるのだって」
「ちょ、ちょっと待って」


これ以上はもうダメだ。これ以上聞かされたらもうどうにかなってしまいそう。
嬉しいけど、嬉しすぎてどう反応を返していいかも分からなくなってきた。

だから、ずっと木兎に悟られないようにしてきた私の気持ちを聞いてもらおう。
そしたら、またあの笑顔で笑ってくれますか。





以前開催した夢女子会の時にHIT MEのリサコ様より頂いたネタです。
大分前に書いてプライベッターで公開してたものをお誕生日なので引っ張り出してきました(笑)
ぼっくんお誕生日おめでとう!
write by 神無



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