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カウントダウンは君と


ドキドキと早鐘を打つ心臓を上から抑えつつ、ゆっくりと足を進める。
・・・どうかな。驚いてくれるかな。そう思いながらドアの前で一回深呼吸をして軽くノックをした後に、思いっきりドアをあけ放った。


「お邪魔しまーっす!」
「び・・・くりした。何?」


想像通り、コタツに入りながらポータブルゲームを手に持ち指を忙しく動かしていた研磨は、突然の私の来襲に酷く驚いていて目をクリッと開いていた。そんな顔も可愛い・・・・・・じゃなくて。


「初詣、いかない?」


少し外に出ただけなのにすっかり冷えてしまった足先をコタツへと潜りこませながら本題を切り出せば、「・・・いかない」と一言でバッサリ切り捨てられた。
腰を落ち着けた私をチラリと見ただけで、その視線はすでにゲームへと戻されていて合うことはない。
まあね!知ってたけどね!ただでさえ出不精の研磨が態々人混みの中に出向くなんてありえないって思ってたけどね!
それでも出掛ければ一緒に年越しする理由になったのに・・・ダメだったかぁ。


「じゃあココで年越ししちゃおっかな」
「え?」
「え・・・だめ?」
「ダメでしょ。帰りなよ」


ぶぅ、とワザとらしく口を突き出して拗ねた顔をしてみても「そんな顔してもダメ」と一刀両断。
ちなみに今、時計は夜の11時を指している。いくら幼馴染とは言えども普段はこんな時間に来たりしないし、お母さんも研磨のママも許してくれたのは今日が大晦日であるからだろう。
帰るといってもすぐ隣・・・何ならそこの窓を開ければすぐに自室の窓があるという近さなので、別に研磨の部屋だろうが自分の部屋だろうがあまり変わらないとは思うんだけど、研磨にとっては違うらしい。
一昨年まではテっちゃんも一緒。去年は部の皆で。
だから今年こそは、好きな人と二人きりで年越ししたい!そう思って根回しも完璧にしたのに・・・研磨はきっと気づいていない。


「研磨とカウントダウンしたい」
「家に帰ったって出来るでしょ?」


そこから。と窓を指さした。
本当に、全然分かってない。とコタツの中で研磨の足を軽く蹴ってみるけどアッサリ引っ込められて終わり。


「やだよ〜」


なんてゴネながらコタツに張り付いて梃子でも動かない、という風な姿勢をとっていればコトッと物音が聞こえて顔を上げてみれば、持っていたゲームを置いた研磨が真剣な表情で私を見ていた。
やばい・・・怒らせたかな、と慌てて姿勢を正して研磨に向かい合う。


「あのさ」
「・・・はい」
「おれだって男なんだけど」


・・・はい?そんな当たり前の事をなんで今更・・・?
と声には出さなかったが、盛大に首を傾げてしまったので分かっていないのは伝わったらしい。


「こんな時間に男の部屋で二人きりとか・・・ダメでしょ」


気まずそうに視線を逸らしながら言う研磨に、心臓がキュッと締め付けられる。
研磨にとって私は隣に住んでいる同い年の女の子で、ただの幼馴染。それだけだと思ってた。研磨が男で、私が女である事を意識なんてしていないんだと。
でも、違うんだろうか。私にとって研磨がずっと男であったように、研磨にとっても私は女として映っているんだろうか。

一気に緊張してきて、ゴクリと息を呑みこむ。
口の中だって乾いてしょうがない。
それでも・・・言ってしまおうか。完全に想定外の流れだけど、ずっと心に秘めていたものを解放するいい機会かもしれない。
もしダメだったとしても・・・普通に接するようにしよう。少し時間は掛かってしまうと思うけど。


「・・・ダメなの?」
「おれの話聞いてた?」


呆れ顔でそう言い放つ研磨にズイッと近寄る。
それはもう、その瞳の中に映る自分が見えるくらい近くに。


「研磨が好き」
「は・・・なに」
「研磨の事がずっと好きだから、こんな時間に二人っきりでいても良いような関係になりたい・・・・・・です」


意気込んだものの段々と恥ずかしくなってきて、ついには尻すぼみになってしまった。
それでも言い切ったので、あとは研磨の返事を聞くだけだけど・・・あれだけ帰りたくないと思っていたのに、今はそこのドアから逃げ出してしまいたい心境だ。
長年に渡って抱え続けた想いというのは中々に厄介で、拗れている。
研磨の顔を見る事も出来ずに、俯きながら判決が下るのを待っていた。


「おれも」


少しの沈黙が異様に長く感じたが、その間の後にポツリと落とされた言葉に勢いよく顔を上げる。


「おれも、葵が好きだよ」
「・・・うそ、ホントに?」
「うん。でも葵はずっとクロが好きなんだと思ってた」
「え?テっちゃん?」


まさかの名前にパチパチと瞬きを繰り返すが、その顔は冗談とか言ってるようには思えなくて・・・いや、研磨はそもそも冗談とか言うタイプじゃないから本気なんだろうけど。
今までそんな誤解をしていたなんて、ただただ驚きだ。
テっちゃんは年上だけど気さくで話しやすい。しかも包容力まであったりするものだから、いつも話したり頼ったりしていたけれど・・・あくまでもお兄ちゃんみたいなもの。現にテっちゃんは私の気持ち、ずっと前から知ってるしね。


「私が好きなのはずっと研磨だけだよ」
「・・・うん」
「テっちゃんは幼馴染だけど、研磨は幼馴染なだけじゃ嫌だ」


だからこの誤解は根こそぎ解いておかないといけないと思って、素直に自分の気持ちを吐露した。
一回タガが外れてしまったからか想いが通じ合ったおかげかは分からないけど、研磨が好きっていう自分の気持ちを伝えるのに恥ずかしさはなくて、いつ頃から好きだったのかどんな所が好きなのかを一生懸命語っていれば、フッと口元を手で覆われて「もういい」と止められる。
まだまだ語り足りなかったから不満の目を研磨に向けたけれど、その顔が微かに赤みを帯びているのに気づいて言葉を呑みこんだ。

・・・あの研磨が・・・、照れてる。それを確認した瞬間にどうしようもない愛おしさが湧き上がってきて、素早く研磨の隣に移動すると座ったままギュウッと抱き着いた。


「研磨大好き!」
「・・・ありがと」


背中に回された手に力が入って、包み込まれるように抱きしめ返されれば想いが通じ合った事を実感出来てより一層ギュっと力を込める。
そのまましばらく研磨の感触や温かさを堪能していれば、やんわりと肩を掴まれ離されて少しの距離が生まれた。


「なんか・・・」
「ん?」
「余計にこの時間に二人で居たらいけない気がしてきた」


研磨の言葉を理解するとともに、今度は私の顔に熱がこもるのがわかった。
それはつまり・・・幼馴染同士であればありえないこと。夜遅くに恋人同士が二人きりでいれば・・・想像では補えないような事があるのかもしれない。


「まぁ、今更だし今日はいいけど。年明けたら帰りなよ」
「・・・ハイ」


嬉しいことがありすぎて、来年はいいことづくめな予感しかしない。
カウントダウンがゼロになったらこう言おう。


「今年も、これからもずーっとよろしくね」


write by 神無



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