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仮面の下の素顔 前編


「花巻、これありがと」


聞き慣れた声が聞こえて、机に伏せて寝ていた顔を上げる。
まだハッキリと覚醒しない頭で何故葵がここに居るのか考えた。付き合っている自分達だけど普段彼女が花巻の教室に来ることはないからだ。周りから好奇の目で見られるのが嫌いらしく学校では殆ど絡まないし、喋ってもそっけないことが多い。


「助かったよ」


目の前に出されたものを見てようやく合点がいった。そうだ。珍しく葵が忘れたからって辞書を貸したんだっけか。確かあの教師は忘れ物に厳しくて、いつも学校に置きっぱなしにしてる花巻の元へと借りにきたのが1時間前。


「おー」


辞書を受け取り、そのまま彼女の顔を見つめる。
スラッとした顔立ちで可愛いというよりも美人。髪の毛も今ドキの女子みたいにクルクルしてなくて、黒髪のストレート。あまり感情を表情に出さないので一見近づき難い印象を受ける事から、影で彼女に冷たい目で見られたいなんていう一部の男子もいる。

馬鹿な事を言っていると思うが、気のおける相手以外にはそれ程までに表情を緩めないのだ。仲の良い女子相手だとそうでもないが、こと花巻に関して学校では決してその仮面を崩そうとはしない。そう、学校では。


「何?なんか付いてる?」
「いや、今日も可愛いなーと思って」
「…バカじゃないの」


抑揚なくそう言い放って顔を逸らす彼女は、端からみれば冷たく見えるのかもしれない。
でも花巻は彼女の耳と目元が微かに紅潮するのを見逃さなかった。口許が緩んでいるのを自覚していたが、特にそれを抑えることはせずに視界に入った葵の手を捕まえる。


「ちょっと、」
「俺、今日部活無いから一緒に帰ろうぜ」


親指でゆっくりと握っている手を撫でると、嗜めるようにこちらを睨みつけてくるが、それもすぐに驚きの表情へと変わった。

自分のせいでもあるのだが、最近一緒に居る時間が中々とれないせいもあって彼女に触れるだけで、もっとその先をと望む自分がいる。
そんな花巻の欲が見抜かれたのか、はたまた違う理由かは分からない。


「分かったから、離して」


しかし彼女は慌てて手を振りほどいて、逃げるように教室を出て行ってしまった。


「(あーあ、残念)」


温もりが消えた手をそのまま顎の下へ持って行き頬杖をつく。
すると、先程まで遠巻きにやりとりを見ていたクラスメイトが近寄ってきた。


「高宮さん、相変わらずだな」
「なー、花巻。高宮さんが女子に見せてるような顔ってどんな時にすんの?」
「あぁ!それ気になる。笑いかけられたら俺絶対オチる気するわ」


勝手に盛り上がる奴らをみて、さっきまでの気分が一気に下がるのが自分でも分かった。
特に答える気も無かったのでそのまま放っておくと、更にエスカレートする。


「彼女が乱れるところとか、想像するだけでヤバイよなー」
「うわ、ヤバイってそれ」
「…オイ、人の彼女で変な想像してんなよ」


さすがに黙っておけず口を挟むと、余程酷い顔をしていたのか謝りながら半ば逃げるように去って行った。


「…チッ」


自分の彼女のアレコレを想像されるなんて、考えただけで腹がたつ。
残り1限だけの授業だったがこの気分の中受ける気にならず、再び机に顔を伏せた。



◇ ◇ ◇



「何か機嫌悪い?」


授業を終えて二人で花巻の家に向かっている途中、葵が顔色を伺うようにそう聞いてきた。確かに未だ友人との会話を引きずっていて多少の苛立ちは残っていたが、上手く隠していたつもりだったので、見抜かれたことに驚く。

更に珍しい事に、自分の右手に指を絡ませるようにして手を繋いでそのまま物理的な距離を縮めて来るではないか。まだ学校からそう離れていないので、彼女がこんな行動に出ることは極めて珍しい。一体どうしたのか。理由を聞こうとするとそれより早く葵が口を開いた。


「今日、手を振り払ってごめん。あの…嫌だったわけじゃないから」


あぁ、なるほど。あの時に拒否したことを俺が怒っていると思ってのこの行動か。
もちろん、そんな事で怒っている訳ではないので分かってるよ。とやんわり否定しておく。握られたこの手は誤解が解けたところで離す気はない。

それどころか、人前での接触を気にする彼女のこの行動に先程の萎えた欲がまた目を出してきて、それを抑えるために握る手に力を込めた。



「ん…」


部屋に入るや否や、待ちきれないないと言わんばかりに彼女の唇を塞ぐ。
男なんていうのは自分の部屋に彼女を入れれば、頭の片隅にそういう行為が浮かぶものだ。ようは流れで、どのタイミングで仕掛けるか。態とらしくないように、がっつき過ぎないように雰囲気を作って事に及ぶのが常だけど、今日ばかりは流れを一切無視して性急に進める。

いきなりの事で驚いたのか、最初は若干の抵抗を見せた葵だったが、後頭部を抑え引き寄せ唇を甘噛みして舌を絡ませると自然と声が漏れだした。


「ちょ、急すぎ」


それでも言葉では抵抗をみせる葵の耳許で、いつもより若干低めの声を意識して囁く。


「…抱きたい」


この声に弱いと知っての事だけど、追い打ちのようにそのまま耳を喰んで軟骨をなぞるように舐める。それも聞こえるようにわざと音を出しながら。


「…っ、ズルい」


肯定でも否定でもない言葉だけど、葵の力が抜けた事でそれは遠まわしの許可という事だ。
なるべく優しくベッドへと下ろしながらさっきよりも深いキスをする。舌を絡ませ、時折吸いながら上顎をなぞり、唇を食む。
それを繰り返しているうちに、次第に彼女の吐息は熱くなっていき、鼻から抜ける甘い声も出るようになって、急いた気持ちを抑えながらゆっくりと服を脱がした。


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*注* 次の話は性描写を含みますので、注意喚起としてパスワード入力になります。
   詳しくはinfoをお読み下さい。




一話で最後まで書く予定だったんですが、思いのほか長くなったのでここで切ります。久しぶりの裏夢・・・どの程度書けるのか・・・。
write by 神無


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