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熱く静かな焦燥

空は晴天。窓から差し込む日差しが遠慮なく教室内の温度を上げる昼休み。自由に席を移動する面々は揃って窓際から離れて紫外線の攻撃から身を守る必要がでてきた今日この頃。
なにも気にしない男子たちが窓際ではしゃいでいるのを眺めながら頂く昼食は、目に映る男子の話題からどんどん脱線し、次第に女子トークとやらへと発展していく。
まぁ、私たちの年頃の一番の興味は恋愛ごとといっても過言ではないので仕方がないだろう。
最近恋人が出来たと嬉しそうに報告してくれた友人が質問の集中砲火を受けているのを笑いながら傍観する。ここで下手に突っ込んだら彼氏持ちである私に火の粉がかかるのは目に見えているからだ。
私と同じように傍観を決め込んでいる友人が一人。あのボーダーに所属している倫ちゃんは、恋愛ごとは自分とは縁遠いものとでも考えているのだろうか。興味があるのかないのかわからない顔で、愛想のような相槌を打っている。
ボーダー隊員は圧倒的に男性が多いようだし、それこそ才能ある出来る男というのも多いだろうから目が肥えて仕方がなさそうだな、なんて心配は失礼かな。


「も、もう!! 私ばっかりやめてよ〜! 葵ちゃんは穂刈くんとどうなの?」
「ん? 私? 相変わらず上手くいってるよ」


質問攻めに耐え切れずに意識転換をさせようとしたのだろうがお生憎様。今までの経験から下手に慌てると面白がって揶揄われるのは学習した。さらりと惚気れば矛先が私に向き切ることなく戻っていく。
思惑が外れた彼女が泣き真似をするように机に突っ伏しながら妬まし気な視線を向けて来るので、両手を合わせてごめんのポーズを取った。


「うぅ……みんなして私で楽しんでひどい」
「彼氏いるんだからこのくらいは受け入れて……って。あれ? あんたコレ、もしかしてキスマークじゃない?」


机に伏せたことで見えたうなじから除く赤い印に皆の視線が集まる。身に覚えがあるようで勢いよく起き上がってうなじを隠すその顔は、触らなくても熱くなっているのがわかる程に真っ赤に染まっていた。こうなってしまえばかわす事は出来ないだろう。少し甲高い奇声のおかげで注目を浴びていそうだが本人たちは周りの目など気になっていない様で、キスマークの話題に食らいついている。


「みんな元気だよね」
「だよね。葵ちゃんはキスマーク付けられたりしないの?」


相変わらず傍観していたはずの倫ちゃんからの問いが意外すぎてまじまじと彼女を見つめてしまった。今まで自分からその手の質問を振って来る事はなかったし、何より私の彼氏はボーダーで倫ちゃんと同じ隊の隊員だ。よく見知った者同士のあれこれなんて聞いてしまったら無駄に想像できてしまって嫌ではないだろうか。


「倫ちゃんでもそんなことが気になるんだ」
「穂刈くんのそういうのって想像できないから聞いても問題ないかなって」


あぁ、確かに。そう納得してしまうのは私も初めは全く想像がつかなかったから。いつも落ち着いていて動じることが無くマイペース。周囲の揶揄いに照れることもない穂刈篤という男が性欲で狂うなんてあるのだろうか。そう思っていた。だが。


「けっこう普通に痕残してくるよ。見えないところでってお願いしてるけどたまにしつこい」
「うわ、想像できない。っというか、サラリと言うね葵ちゃん」
「隠すほどの事でもないしね」


照れて揶揄われたり、下手に誤魔化して勘違いされるよりは暴露してしまった方がよっぽどいい。もちろん内容にもよるが。それでもその手の話を聞いて欲しいわけでもないので、これ以上聞くなら倫ちゃんの好みとかも突っ込んで聞くからと圧を掛ければすんなり手を引いてもらえた。


「さっきの返答もそうだったけど……。葵ちゃん、だんだん穂刈くんに似てきたんじゃない??」
 

それは揶揄う為の言葉ではなく、ため息交じりのやれやれといったニュアンス。今まで一度も言われた事のない台詞に少し間抜けな顔をしてしまったが、倫ちゃんはそんな私をよそに軽く微笑むだけで友人たちの話に意識を戻していった。






「へぇ、加賀美がそんなことをね」


じわじわとあふれ出る様にもたらされた気恥ずかしさが抑えられず、放課後に待ち合わせていた彼氏へ嬉々として報告する。時間の経過がもたらしたのだろうが、恋人同士が似てきたという事実がまるでお互いに染まってきているようで嬉しかったのだ。もっとも、これだけのことで浮かれてしまっているあたり篤のポーカーフェイスには程遠いのだけど。


「確かに最近見てないな。葵がテンパってんの」
「でしょ〜? いいお手本が近くに居るので」


感謝していますと頭を下げる私に「それはそれでつまらないな」なんて何か思案するそぶりを見せる篤に軽くグーパンをお見舞いする。ボーダー所属の彼は戦闘経験が豊富だから、きっと私のおふざけパンチなんて軽くかわせるのだろうが甘んじて受けてくれるところが男らしい。たまに角度が甘いとか何とか言ってくるので本気で怒った時は一度くらい思いっきり踏み込んだパンチをしてみようと秘かに思っていたりするが。


「そういえばランク戦? ってのが始まったんだっけ?」
「おー、真っ最中だ。明後日も試合あるし、今日は対策ミーティングだな」


ボーダーのシステムはよくわからないけど、ネイバーとの交戦以外にもいろいろあるのだと聞いている。その一つにランク戦とやらがあるようで、それは結構重要な試合なのだという。だから最近デートする時間が少なくなっているが、ちゃんとメールもくれるし、こうやって家まで送り届けてくれるのだから寂しいなんて言ったら贅沢だろう。むしろ負担になっていないかが気掛かりだ。


「早く基地に行かなくていいの?」


いくら私の家がボーダー基地寄りだといっても遠回りしていることに変わりはない。真っ直ぐに向かったであろう倫ちゃんとはかなり時間の差が出来てしまうだろう。いつも別に問題ないだろうと言ってくれるけど、ランク戦とか忙しい時はやっぱり気になってしまう。何度かお会いしたことのある隊長の荒船くんはかなり容量の良さそうな人だったし、時間を有効に使いたいのではないだろうか。
そう考えだしたら気にかかって心が落ち着かなくなってくる。もう今日はここまででいいよ。そう言おうとした時だった。


「おっ、穂刈と高宮ちゃんじゃねーか」


聞き覚えのある声に名を呼ばれ視線を向ければ、その先いるのは声から想像した通り荒船くんだ。帽子をかぶっている姿の方が見慣れているので一瞬分からなかったという事は黙っておこう。
相変わらず仲が良いなと口角を上げながら近寄ってくる荒船くんを特に気にする事も無くいつも通りだと返す篤もいつも通りで冷静だ。


「荒船くん久しぶり」
「おーそういえば久しぶりだったな。こいつのせいで全然久しぶりな気がしねーわ」


その意味を理解しきれずに二人を見比べるが、荒船くんは相変わらずニヤニヤと揶揄う姿勢を隠さないし、篤も動揺することなく至って普通に納得している。置いてけぼりを食らう私に意味深な笑みのまま近づく荒船くんに、自然と身構えてしまった。


「コイツの話ってだいたい高宮ちゃんから聞いたって話ばっかなんだよ。携帯弄ってる時はだいたい高宮ちゃんにメールしてるし。一日一回は名前聞いてんだよな」
「まぁ、そうだな。ボーダー関係以外のネタなんてないんだから仕方ないだろ。葵から聞く以外」


いつもこんな調子だと揶揄い甲斐のない篤に呆れたため息をつきながらも、どこか楽し気な荒船くんの瞳が私を映す。嫌な予感しかしないため警戒したが、今まで荒船くんが篤をからかう事はあっても私に何か言って来る事はなかったので少し油断したのかもしれない。


「コイツの愛、重いだろ。あとしつこいしな、いろいろ」


いろいろの部分を強調した言い方に、お昼に倫ちゃんと話していた話題がフラッシュバックする。実際に荒船くんのいういろいろが何を刺したのかは分からないが、白昼堂々、恋人のいる前で思い起こされたアレコレに一気に熱が集まっていくのが分かった。
先程まで動揺しなくなったって話していたのは何だったのか。荒船くんになんて返答して良いのかわからず赤い顔で視線を彷徨わせる私を豪快に笑う荒船くんにとってはベストな反応だったのだろう。居たたまれない。


「荒船、止めてやれ。セクハラになるぞ、これ以上は」
「とか言って、お前が嫌なだけだろ」
「否定はしない」


そんな二人のやり取りも直視できないくらい余裕のない自分が恥ずかしい。誰が見ても赤いだろう顔を隠し切れないから、危険区域が近いおかげで人通りがほとんどないのは救いだ。
相変わらず篤から恥ずかしい発言が聞こえてくるし、ココは自ら戦火に入る事もないだろうと心を落ち着かせることに専念している内に、どうやら話は終わったようだ。


「邪魔者は退散するが、穂刈。あまり遅れんなよ」


私に悪かったなと謝罪の言葉を残し危険区域へ向かう荒船くんの背中を見送る。揃ったのだから一緒に行くかと思ったが、どうやら篤は私をきちんと家まで送り届けてくれるようだ。次に荒船くんに会った時はもっと落ち着いた対応ができる様にしようと心に誓いを立てていると、ふいに背中に重みと熱が加わった。


「えっ、なに? 急にどうしたの?」


いくら人気は無いとはいえ、路上で背後から抱きしめるなんて滅多にしない篤がいつもよりもきつく抱きしめてくるから、せっかく落ち着かせたはずの心がすごい勢いで加速していく。


「テンパらないのはつまらんって言ったが、やっぱ無しだな」
「あ、ごめん。荒船くんにしてやられたから」
「いや、荒船はどうでもいい。その顔は俺がさせたいみたいだ」


だから他のやつの揶揄いに動揺しないくらい慣れてもらうぞ、なんて。そんな物騒な台詞の意味を考える暇もなく、強引に顎を引かれ唇が奪われる。首が悲鳴をあげそうな角度なのにこの唇を離すことが出来ないのは彼の手がいつの間にか顎から後頭部へ移動しているせいか、はたまた私か本気で嫌がっていないからか。久方ぶりの彼の唇に全身が喜ぶように震えている気さえしてくる。
だがここはまだ日も高い住宅街だ。いつ誰が通ったっておかしくないし、なにより篤はこんな所で時間を潰している場合ではないはず。


「んっっ、チームミーティング、、に、遅れちゃうよ」
「まだ大丈夫だ。堪能させてもらうぞ、ギリギリまで」


本当ならば基地へ早く行って貰うべきなのだろう。だが、互いの唇が触れ合う距離で紡がれた言葉を拒むことなんでできる訳もなくて。
唇がふやけてしまう程の間中、口内で深く絡み合う舌先に身を委ね、ただ篤の熱を感じることしかできなかった。

write by 朋


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