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Bashfulness only for me

学業とボーダー任務に加え、広報としての仕事まで任されたことを負担に感じてはいない。この活動でボーダーを理解してもらった上で印象を良くし、市民への協力が得られることで結果的に大勢の人たちが救えるのならば誇らしい限りだ。それは他のメンバーも同じだろう。
だから不満はないが、ただ一つだけ気掛かりがあるとすれば、恋人との時間が少ないということ。彼女もボーダー隊員だから理解はあるだろうが、たくさん寂しい思いをさせてしまっている。それでも彼女が俺に寂しいと言うことはなかった。


「ごめん准くん。おまたせ」
「いや待っていないから大丈夫だ。葵こそミーティングお疲れ様」


少しでも彼女の不安が取り除ければと、こうやって次の予定までの少しの空き時間だけでもラウンジで共に過ごすようにしている。こまめに連絡を取っているとはいえ、やはり顔を見て話せるのは彼女の為だけでなく、俺としても嬉しい。話す内容はたわいのない日常の事ばかりだが、大切な時間だ。


「おっ、嵐山に高宮ちゃんやん。相変わらず仲良しさんやな」
「生駒、弓場。お疲れ。個人戦でもしてきたのか?」
「せや。やりまくってきてん」


二人とも表情からは読み取りにくいが、どことなく疲労感を感じるから休憩を取りに来たのだと察したが、間違ってはいなかったようだ。


「よォ嵐山、イイところで会ったぜ。ちょっと面貸しなァ」


先日の借りを返すぜと親指で背後を指す弓場に、周りのC級隊員がざわついた。見た目や話し方から誤解を招きやすい弓場だが、彼の親指がさしているのは自動販売機だ。大方、先日俺が飲み物を奢ったからお返しをする気なのだろう。


「それじゃあ厚意に甘えようかな」
「高宮、おめェも来いやァ」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます」
「ヤダ弓場ちゃん男前」


自分のはないのかと絡む生駒にたいし、眉間に皺を寄せながらさらりといなす弓場を葵が怖がらなくなったのはいつからだったかな。始めは目が合っただけで緊張すると怯えていたのに、今では先ほどのやり取りもすぐに理解できるようになった。自分の彼女と友人が仲良くなってくれてよかったと改めて嬉しくなる。


「弓場さんありがとうございます。今度お礼にパウンドケーキ作ってきますね」
「おォ、悪いな。急ぐ必要はねェ」


嵐山にヤルついででいいと言いながらも口元が緩んでいるから楽しみなんだろう。たしかパウンドケーキは弓場の好物だったな。以前にたまたま葵がみんなに振舞った時にそんな話になったのを彼女は覚えていたのだろう。そんなところも彼女の魅力だ。


「生駒さんも貰って下さいね」
「さすが高宮ちゃん。カワイイうえに出来る子や」
「いやいや、そんなことないですよ」
「いやいやいや、そんなことある。高宮ちゃんはカワイイ。なぁ嵐山」
「あぁそうだな。葵は可愛いし気が利くし、自慢の彼女だよ」


生駒の言葉に偽りなく答えただけだというのに、弓場から盛大な溜息をつかれてしまった。何かいけないことでも言ってしまったのかと俺と生駒が首をかしげる中、葵は顔を両手で覆い隠して俯いていた。どうかしたのかと屈んで顔を覗き込んでみたが、なんでもないと首を振られてしまう。何でもないはずないのだがと困惑する俺に、弓場が再び溜息をついた。


「おめェらはちったァ羞恥心ってヤツを勉強しやがれ」


恥ずかしいことなど言っていないはずだが、確かに葵をよく見れば耳まで赤く染めている。なにに対して恥ずかしがっているのかはわからないけど、大事ではない様でほっと胸を撫で下ろす。もう一度屈んで顔を覗き込むと、指の隙間から覗いた潤んだ瞳と視線が合わさった。それがいけなかった。


「......悪いが俺たちは先に行かせてもらうよ」


二人への挨拶もお礼もそこそこに、葵の肩を抱いて足早にその場を立ち去る。急にどうしたのかと慌てる彼女には悪いが、今は一刻も早く誰もいない場所へ連れていきたくて、空いている個人戦のブースへと駆け込んだ。


「……准くん?」


扉が閉まると同時に彼女を抱き締めれば戸惑った声色で名前を呼ばれる。なんの説明もしていないのだから当然だ。


「急にすまない」
「全然いいんだけど、どうしたの?」


話の途中で立ち去るのも、トリオン体でいる時に抱きしめるのも普段あんまりない事だけに驚かせてしまったようだ。正確にいえば自分でも驚いている。公私混同はしすぎないようにしようと心がけていたというのに、まさかこの程度のことで抑えが効かなくなるなんて思ってもいなかった。


「君のあの顔を誰にも見せたくなかったんだ」


赤く染まった顔も、潤んだ瞳も、指の隙間から覗く上目遣いも。どれも彼女を引き立てるものでしかなくて、驚くほどの独占欲があふれ出てきてしまった。情けない。弓場や生駒がそんな彼女を見て惚れてしまうわけないと分かっているのだが、どうしても見せたくないと思ってしまったのだ。少し前まで仲良くしているのが嬉しいなんて思っていたくせにだ。


「お願いだから、みんなの前であんな顔はしないでくれ」


勝手だな。俺だけが知る......いや、俺しか知らない顔であってほしいだなんて。かなり心の狭い奴だって、彼女に幻滅されなければいいが。少し不安になりながらも腕の中の彼女を確認すれば、未だ先ほどの熱が冷めないのか俯いている首筋が赤く染まったままだ。


「悪い、無理を言っているな」
「あ、あのね。無理というか、それなら私からもお願いがあるんだけど......」
「なんだ? 遠慮なく言ってくれ」


喋りやすいようにと抱きしめていた腕を緩めたが、葵の視線は俺ではなく、何か言いづらそうにさ迷っている。不満をぶつけられると思ったが、その顔は先ほどまでのように可愛らしく染まり、恥じらいまで感じられるからどうやら違うようだ。


「人前であぁいうのは、控えてもらえないかな」
「ああいうのとは?」
「その、可愛いとか、好きとか......愛情表現してもらえるのはすごく嬉しいんだけど、どうしても恥ずかしさが勝っちゃうから」


そういいながら思い出して照れてしまったのか、再び両手で顔を覆う葵が愛おしすぎて顔がだらしなくも緩んでしまう。そうか、なに照れていたのかと思ったが俺の言葉でだったのか。あの顔をさせるのが俺だとわかり、優越感ともいえる嬉しさが生まれる。


「なるほど。俺が気を付ければいいんだな。わかった。これからは普段言わないようにする分、二人きりの時にたくさん言わせてもらうよ」


可愛い。好きだ。愛してる。離さない。
どれだけ伝えても足りない言葉たちを降り注げば、さらに色付く彼女の頬が熟れたリンゴが薫るように欲をそそるから、たまらずその頬に唇を落とした。こんなところで何をしているんだと叱咤する自分に今だけだと言い訳をして、今度は瑞々しく膨らんだ唇をチュッと音を立てて啄んだ。トリオン体なのが悔やまれたが、いまはこれで満足しておこう。
こうやって含羞を帯びた笑みを浮かべた彼女は、俺だけが知る唯一無二の宝物なのだから。
write by 朋


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