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花の木ならぬは 09

米屋くんの気持ちを知って、正直嬉しいと思ったし、素直にときめいた。それでも、すぐに私も好きだと言えるほどの気持ちはなかった。だからと言ってごめんと断って疎遠になってしまってもいいかと言われると、それも嫌だった。
その結果。


「ちょっと考えさせてほしい」


その言葉で米屋くんの告白の返事を保留にした。ずるいと、申し訳ないなと思ったけれど、一人になってしっかり考える時間が欲しかったのだ。もっとも、一晩悩んだところで答えなんて出なかったのだけど。


私が何も答えないまま、ただ日々が過ぎていった。
相変わらず帰りに出水くんが結衣を迎えに来るのだが、告白以降はなぜか米屋くんも一緒にやってきて私を誘ってくる。おかげで周りからついに付き合ったのかと何度茶化されたことか。
しかも茶化されるたびに米屋くんが「まだオレの絶賛片想いなんだわー」なんて返すから、今では私たちがいつくっつくのかを楽しみにしている感じだ。誰も仲違いすると思っていないところが凄い。それは私の友人たちも同じようで、もちろん結衣も例外ではない。


「葵はいいかげん、素直になったらいいんじゃないかな?」
「そうは言ってもさ〜」


白状すれば、私はどうやら米屋くんが好きなようだ。いつから好きだったのかは分からないが、この気持ちは認めざるを得ない。いくら考えたところで付き合いたくない理由なんてないし、帰りに誘いに来てくれるのを嬉しいと思ってしまっている。
だけどその答えにたどり着いた時から、いつぞやに目の前の親友に吐いた暴言が頭をめぐるのだ。散々いろいろ言っておいて今更米屋くんと付き合うとか、どの口が言えようか。頭を抱える私をよしよしと慰めてくれる結衣も、いくらなんでも何も思わないという事はないだろう。それを確認するのをずっとためらっていたけれど、相変わらずふわふわとしてる結衣から不機嫌な様子は読み取れない。


「結衣はさ、ムカついたりしないの? 私あんなこと言ってたのに」
「全然、私は葵が幸せならなんでも嬉しいよ」


あぁ、この子はこういう子だった。私はなにを恐れていたのだろうか。本当にかなわないと思う。
私の意味ありげな視線に気づいたのか、結衣はちょっと恥ずかしそうに視線をそらした。


「それにね、あの時とは状況が全然違うんでしょ?」
「え?」
「実はね、葵に怒られた後でね、公平くんにも怒られたの。詳しい事情は聞いていないけれど、あの時私が悪かったのはちゃんと知ってるの。でも、謝ったらまた話を蒸し返してしまいそうで……そしたらもう葵が私と一緒にいてくれないような気がして、ずっと言えなかったの。ごめんね」


なんだ。何も理解していなかったんじゃなく、何事もないように振舞っていただけなのか。私に嫌われたくない、その一心で。不器用な結衣のそんな嘘さえ見抜けないほど、あの時の私には余裕なんてなくて、自分の事だけでいっぱいいっぱいになっていたのだろう。情けない。いくら天然で人を疑うことをしない子だと言っても、傷つかないわけがないのに。
言葉足らずなのはお互い様だ。いくら幼い頃からの知り尽くした仲とはいっても、気持ちを言葉にして伝えるのは大事なのだと改めて感じさせられた。


「私こそ、あの時は自分の気持ちちゃんと伝えてないのにキレてごめん。それと、えっと、ずっと友達でいてくれてありがと」
「ぜんぜん! こちらこそ、友達で、ぃてくれて、、っひく、ありがとぅ」


私の照れ臭い言葉に泣き出してしまった結衣の頭を、今度は私が撫でてあげる。周りの視線が刺さるけれど、やっとちゃんと和解できたんだから今はこのままでいたかった。もっとも、帰り支度も済んでいるこの時間はすぐにお迎えの声が掛かってしまうのだけど。


「結衣ー、高宮さーん、お待たせー」
「帰ろうぜー」


当たり前のように二人そろって教室に入ってきた出水くんと米屋くんは、泣いている結衣にぎょっと目を見開く。なにがあったと慌てる二人に、わざとおちょくるように愛を確かめ合っていたと言えば泣いていた結衣が嬉しそうに笑った。その様子でほっとしたのは二人だけじゃないようで、興味津々のくせに遠巻きに見ていたクラスメイトたちもいつもの賑わいを取り戻していた。


「おいおい米屋ー、お前は中々高宮さんから愛貰えないなー」
「それなー。オレは受け止める気満々なんだけどなー」


一部始終を見ていたクラスメイトからの定番になりつつある野次に、これまた定番になりつつある返しを言う米屋くんに恥ずかしげな様子はない。ふざけている様にしか見えないから冗談だと思っている人もいるんじゃないだろうか。どちらにしろ、みんなの興味だけはかなり集めているけれど。

ふと、こんな状況で付き合ったりしたらすぐにバレて、この野次馬たちに根掘り葉掘り聞かれるんだろう光景を想像してしまった。自然と付き合う想像をするくらい米屋くんが好きなんだなと自分の思考に照れそうになっていると、何かを感じ取ったのか結衣にファイトと口パクで応援された。それはなんだ。いまここで言えという事なのだろうか。力強くファイティングポーズを向けてくる結衣のキラキラした目に、覚悟を迫られている気がする。いや、さっきまでの涙で潤んでいただけかもしれないけれど。
米屋くんは今だにふざけた野次にふざけ返している。


「寂しかったら俺の愛やろうかー?」
「いらねーよバーカ。オレは高宮のしか受け付けてねぇの」


ぎゃはぎゃはと揶揄う男子たちをあしらう様子は慣れたものだ。聞いているこちらは恥ずかしいけれど感心してしまう。だれどこの状況を作り続けているのは、いつまで経っても返事をしない私自身だ。それなのに野次を全て米屋くんが請け負ってくれている。わざと揶揄われるようなことを言うのも、私への火の粉を自分に向けさせるためなんだろう。
今だ! 頑張れ! と純粋な目で訴えてくる結衣に背中を押される形で覚悟を決めて口を開く。


「それじゃあ私の愛、受け取ってくれる?」


その瞬間、騒がしかった教室の時が止まったかと思えるほどぴたりと静まり返った。
想定以上の静寂に言った私もどうしたらいいのかわからず、緊張で強張っているだろう笑顔のまま米屋くんを見つめ続ける。そんな私を凝視している米屋くんはまばたきすらしていない。
息を止めたような沈黙に耐えられなくなったのは私たちじゃなく周りの方で、ちょっそれって、とか、キャーとか、あちらこちらから小さな歓喜の声が聞こえる。


「え、マジで?」
「マジですね」


たっぷりと時間を使って出た答えがそれか。まだ疑われているのか、信じられていないのか。緊張していた分、米屋くんの間の抜けた声で一気に気が抜けてしまった。私たちが緊張して照れ合うなんて、らしくないから結果オーライといったところだが。


「つまり俺と付き合うってことであってるよな?」
「あってるね。むしろ付き合わないって言われると私が泣くかな」
「いや、泣かせねぇけど。ついにあれか。惚れたか」
「そうそう絆されて惚れたわ。ってか、どうやら米屋くんが好きだったみたい」


なんか惚れたとか付き合うとかより、好きって単語の方が言った後で気恥ずかしい気がする。再び押し黙ってしまった米屋くんに、徐々に湧き始める羞恥心を隠したいから早く何か言ってくれと願った。


「ッシャー! 」
「「「おぉぉぉ!!! 」」」」


周囲も盛大に騒ぎたいが私たちの微妙な言い合いにタイミング分からず、今か今かと待ち構えていたのだろう。米屋くんのガッツポーズを皮切りにドッと教室が湧いた。
周囲のおめでとうの声の中に、出水くんや結衣の声が混じる。二人からの祝福を素直に受け止められるようになっている自分に安心した。これもすべて、米屋くんが居たからだ。みんなからの祝福に返すありがとうに、米屋くんへの気持ちも込めて一つ一つ噛みしめて口にする。付き合っただけでクラス中から祝福されるなんて、なんて贅沢なことだろうか。かなり恥ずかしいけれど。


「うっし、このまま初デートだな。悪ぃな出水、オレら先行くわ」


周りの野次も挨拶もそこそこに腕を引かれる。かろうじて結衣にまたねと手を振れば、誰よりも嬉しそうに手を振り返すのだから笑ってしまう。きっと明日は朝から質問攻めにあうだろうけど、明日くらいは惚気返してやろうと思うほど、私も浮かれていた。


「それで初デートはどこ行くの?」
「あー、何も考えてねぇわ。どうする? ゲーセンとか?」
「アハハ! それでまた河原いって水浴びするの? 真冬だよ?」
「即行風呂行きだな。あっ、一緒に入ってもいいんじゃん」


付き合ってんだしアリだろうとイヤらしい笑みを浮かべる米屋くんの言葉でその光景を想像してしまった自分が恥ずかしい。


「バカッ、今日は絶対米屋くん家にはいかないから! 水浴びもなしね!」
「しゃーね、また今度な」

楽しみにしとくと揶揄ってくる米屋くんの肩を照れ隠しで叩く。
調子に乗るなとか口では言っているけれど、きっと次のデートには全身お気に入りの服を着ていくことになるのだろう。恋人らしいことが起こる期待を込めて。


fin.


本編はこれで終わります。終わらせてください。
できたら番外編で続きのイチャコラを書くつもりです。もし興味のある大人の方がいましたら、そちらもお楽しみいただけたらと思います。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!


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