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you can make me happy

優雅なランチタイム後の談話、もとい賑やかな昼食後の女子トークに花を咲かせていた私は友人からの何気ない一言に耳を疑った。


「えっ、篤ってモテるの??」
「今更……」


寝耳に水だと驚く私にその場にいた友人が揃いも揃って呆れた視線を向ける。少なくともここに居る友人全員が認識している事だったらしい。知らないのは恋人である私だけのようだ。
意外だと感心する私に友人たちは危機感はないのかと尋ねてくるが、恋人がモテるという実感がないのだから危機感の持ちようがない。


「篤はおもしろキャラだと思ってたよ」


私が篤を気にしだしたのも独特な喋り方がきっかけだった。淡々と倒置法使ってしゃべるし、冷静そうにみえてノリがいい。文化祭や体育祭での張り切り様はすごくて、普段大人っぽく見えていたからこそギャップがツボにはまったのだ。
だからモテるという枠に篤が入るとは考えたこともない。


「いい? まずボーダー隊員ってだけでモテる。OK?」
「あーなるほど、おっけいです」
「それだけじゃないの。180pの高身長に引き締まった筋肉質な体は高ポイント。さらに周りの男子のようなガキ臭さがない」
「あ〜ノリはいいけどね」
「そこもいいじゃん。落ち着いてるけど冷めてないって感じが」


次々とあげられる恋人のモテ要素は納得できるものばかりで、付き合って半年以上経ってから認識する事になるとは驚きだ。自分の中で重要度が高くなかったせいで世間一般のモテ要素など意識したことなかったけれど、これだけあればモテると言われてもうなずけるような気がする。そんな人が告白の時に「面白いから惚れた」と言った私とよく付き合ってくれているものだ。


「っで、なんて急に篤がモテる話になったんだっけ?」
「もー! 葵ちゃん危機感もって! 穂刈くんが女子に呼び出されてたよって話だよ!」
「おぉ、そうだったね」


青春だな〜なんてオヤジクサいことを思ってしまったことは伏せておこう。
私が焦らない事で友人たちが焦っているが、いま私が焦ったところでどうなるというのだ。女の子だって好きな人が彼女もちだとしても告白する権利くらいあるだろう。
私達の仲は良いと思うし、篤に愛されている実感もある。私も気持ちは素直に伝えるようにしているから篤にも伝わっているだろう。


「大丈夫、大丈夫。あ、チャイム鳴ったよ」
「もう! 穂刈くんが相手にほだされちゃっても知らないからね!」
「そうならないように頑張るよ。ありがとう」


心配してくれる友人たちには感謝だが、もしも本当に篤が他の子を好きになってしまったのならしょうがないことだ。私が無理やり別れないから! なんていうのは違うと思うし、そんな気持ちで一緒に居ても辛いだけだろう。
だから私が出来るのは篤に好きでいてもらう努力をするということで、これは一朝一夕にはいかないことだ。
今日告白されるのであれば、これはもう祈るしかない。
なんて思っていたのに偶然とやらはいたずら好きのようだ。



「私、ずっと穂刈くんが良いなって思ってて。私と付き合って」


なにが悲しくて恋人の告白現場に遭遇しなくちゃいけないのか。
私はただ先生に頼まれて美術の教材をに片付けに来ただけだというのに。よりによってなんで美術室なのか。告白なら屋上とか中庭とか裏庭とか教室とかもっと他にあっただろうと心の中で訴えた所で意味はない。
私が準備室に居ることなんて気が付かずに始まってしまった告白タイムのせいで、物音を立てるのも気が引けてしまい身動きを取る事が出来なくなってしまった。
聞き耳を立てるのは悪いと思うけれど、内容が気にならないわけでもない。聞こえてしまうものはしょうがないよねと自分に言い訳をしてそっと様子を伺う。
篤は背中しか見えないけれど相手の子はバッチリ見える位置だ。隣のクラスのロリ顔巨乳で有名な子だ。


「悪いが俺は…」
「高宮さんと付き合ってるのは知ってるよ、有名だもん。でも奪えばいいだけでしょ? 高宮さんちょっと変わってるし、私の方がイイ女だよ」


篤の言葉を遮るようにして自信ありげに発せられた大胆な台詞に思わず声が漏れそうになる。わざと胸を強調して見せつけてるあたり、相当自信があるのだろう。私には無いからわからないけれど。
男の子は巨乳に弱いらしいけれど、篤はどうなのだろうか。残念ながら篤の表情を確認する事はできないけれど、聞こえてきた盛大な溜息は呆れているようにも聞こえる。


「見えないけどな。イイ女には」
「やだ穂刈くん、パットじゃないよ? 直接見て確かめる?」


断る篤の言葉など気にしていないのかどんどん距離を詰めていく強気な彼女に呆気に取られていたが、これは篤の気持ちが大切だとか言ってる場合じゃないのではないだろうか。
女子相手に力でねじ伏せる事はできないだろう篤は、満員電車の冤罪対策よろしく両手を上げて離れてくれと訴えているのに彼女に引く気は無いようだ。


「ほら、触ってみたくない? 気持ちいいらしいよ?」
「遠慮しておく。離れてくれ、俺から」
「強がっちゃって。このままエッチしちゃえばそうも言ってられなくなるんじゃないかな」


どこまでも強気で肉食だな。
自ら制服をはだけさせ始めたので、篤がこのまま押し倒されるなんて思っていないけれどさすがに見ていられなかった。わざと大きな音を立てながら準備室の扉を開けて登場すれば、音に驚いて動きの止まった二人の視線が一斉にこちらを向いた。


「既成事実をつくろうなんて、そうは問屋が卸さないぜ!」
「……え?」
「ククッ、いま言うか、それを。ハハッ」


状況が把握できずに放心している彼女とは対照的にお腹を抱えて笑い出した篤をみて勝ったと思ってしまうのは恋人としたら違うのかもしれない。でも私は篤が笑ってるととても嬉しくなるのだ。一緒に笑い合えることが幸せだと感じるから。


「一回言ってみたかったんだよね、このセリフ」
「最高だな。やっぱりお前は」


放心している彼女の横をすり抜けて私のところまできた篤は、そのまま彼女に見せつける様に私を後ろから抱きしめた。人前で抱きしめられるなんてことは今までなくて、どうしていいか分からなくなった手が宙を彷徨う。


「男として興味がないわけではないが、俺は中身重視なんだ。そんなものよりな」


あの巨乳をそんなもの扱いするのは驚きだけど、それよりもこの状況のまま会話されることについていけてない。彼女の告白に応じる事はないとは思っていたけれど、これは予想外過ぎる。
私の慌てっぷりを知っていてスルーしている篤は、さらに見せつける様に抱きしめる力を強め、私の耳元へと顔を寄せた。


「こいつにハマりまくってるんでな、俺は。他の女を好きになる事はない。諦めてくれ」
「っ、そんな女のどこがイイの。頭おかしいんじゃない? こっちから願い下げだわ」


相当屈辱的だったのだろう。暴言を吐きながら走り去った彼女はついでに机もなぎ倒していった。これは私達が直していかなくちゃいけないんですよね、そうですか。まぁ篤にこれ以上ちょっかいを掛けないというのなら八つ当たりも甘んじて受けよう。


「……ところでいつまでこの状態なの?」


ぐちゃぐちゃの美術室を整えなくてはいけないというのに背中から篤の体温がいっこうに離れない。
篤が人様に惚気なんて言うせいでバクバクしてる心臓を落ち着かせたいのだが、篤は腕を離すことなくもう少しと耳元で甘えた声を出す。おかげで私の心臓に負担が増えてしまった。というか、これは私への辱めですかね。未だに宙を彷徨い続けている手まで赤く染まってしまいそうだ。


「それで? 葵はどうしているんだ、ココに。心配だったのか?」
「え? うんにゃ、ただの偶然。でも気になって覗いたのはわざとです、ごめん」
「悪い、俺こそ。もっと強く断るべきだった」


この抱擁は覗いたことへの罰でも辱めでもなくて、私を安心させるためのものだったようだ。
恋人に他の女の子が言い寄っていたら、普通なら不安になっていると思うだろう。実際、何の不安も無かったかと言えばウソになる。だけど、普段からたくさんの愛情を貰っていたからか、自分でも驚くほど落ち着いていられた。


「相思相愛だって信じてたから大丈夫、だったかな。アハハっ、なんか照れる」


雰囲気に流されているのだろうか。自分で言っていて恥ずかしくなる。
照れくさくてむず痒いこの雰囲気から逃れようともがいても許してくれず、篤の甘い声が私の名前で耳元を撫でるから大人しくなるしかなかった。


「安心しろ。お前以上の女はいないさ。俺にとって」


そう言ってさらに腕の力を強めるのだから、篤の温もりが離れるのはまだまだ先になりそうだ。

write by 朋


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