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フラペチーノより甘く


「あの二人、補習らしいよ」
「出席日数関係ないんでしょ?」
「ないない。普通に赤点取ったからだってさ」


 ボーダーって聞くと頭に思い浮かぶイメージはやはり広報の嵐山隊だ。三門の専用チャンネルで見れる特集は兎に角かっこいいし、これを見るとボーダーに憧れる気持ちもちょっとわかる。
 とくに実力派のA級は知名度も高くて、ボーダーに所属している人達に言わせれば雲の上の存在らしい。でも、ちっともそんな気がしないのは間違いなくうちのクラスに居る二人のせいだろう。


「まあ、米屋だしね」
「そうそう。出水だし」


 クラスメイトに軽口を叩かれる二人は確かに有名だけれど、このクラスに限ってはボーダーだからという色目ではあまり見られていない。任務で休みがちなところを除けば他の男子となんら変わりはないし、二人もボーダーだからとひけらかすような事はしないから。あとは、実際にこの目で二人の実力を見ていないっていうのも大きいかも。
 初めて二人と同じクラスになったときはボーダーの人という先入観があったけど、それも精々一ヶ月くらいのものだったな。
 だからだろうか。米屋と出水がA級だと知っても俄に信じ難くて、未だに疑ってしまっていたりする。特に出水なんでA級の中でも一位のチームに所属しているらしいので尚更だ。めちゃくちゃ頭がいいわけでもありえないくらい運動神経がいいわけでもないはずなのにな。ボーダーって謎だわ。


「やっべ。マジ分かんねぇ」
「補習がプリントだけで良かったじゃん」
「何で今日に限って任務入ってないかな」
「ああそっか。米屋は任務だっけ?」
「おれも誰かと任務代わってもらえばよかった」
「今日逃げても明日回ってくるだけだからね」


 隣のクラスの友達と散々喋ってからB組へ戻ってみれば、既に皆帰宅してしまったらしく、頭を抱えながら机に向かっている出水が一人ポツンと居るだけだった。
 目の前の課題から逃避したいのか知らないけど、話し掛けられれば無視する訳にもいかない。雑談に応じながらも何となく嫌な予感がしたので鞄を持ちつつ帰るアピールをしてみるが、中々タイミングを掴めずにいれば、机に突っ伏した出水がちらりと視線だけでこちらを見上げてきた。


「なあ、これ教えてくんない?」


 ――嫌な予感、的中だ。しかも上目遣いとか絶対狙ってやってるし。不覚にもドキッとしてしまったのが悔しくて、わざとらしくため息を吐き出す事で心臓の震えを誤魔化した。


「……駅前のとこの新作フラペチーノね」
「うわ、下の自販じゃだめ?」
「じゃ、また明日ー」
「待て待てストップ! 奢るから! 頼む」
「わーい。交渉成立ね」


 本当に奢ってほしかったわけじゃないけど、あまりの必死さに思わず笑ってしまった。そういえば、出水と二人で話したことってあまりなかったかもしれないなあ。お互い友達といる時が多いから二人きりになる機会なんてそうそう無いし。
 くるりと手持ち無沙汰にペンを回しながら、真剣な顔で問題用紙に向き合っている出水を見る。今まで考えたことなかったけど、もしかして出水って結構かっこいい? 髪の色も似合ってるし……うわ、瞳の色きれい。はちみつみたいだ。


「出水ってさあ」
「んー?」
「ボーダーの一位、なんでしょ? 強いの?」
「個人ではおれより強い人いっぱい居るよ」


 何となく、もう少し出水の事を知りたくなってずっと疑問に思っていた事を口にしてみた。肯定なのか否定なのかよく分からなかったけど、ちょっとだけガッカリしてしまったのは何でだろう。かと言って自信満々に肯定されたら、それはそれで疑う気もするし。
 何これ、私めんどくさいな? どういう答えを期待してたっていうんだ。


「ふーん、そっかぁ」
「うわ、興味なさそー」
「そういうわけじゃないけど。出水ってそんな強そうに見えないし」


 するっと言葉が舌を滑っていって、音になった瞬間に後悔した。それが失言だったのは明らかで。咄嗟に謝ろうとしたけれど、謝ると自分の発言を肯定しているように聞こえそうで躊躇する。
 ああ、もう。何してるんだろう。出水に教えているという立場から調子に乗っていたんだろうか。出水の顔が見れなくて、問題用紙を睨むようにしていれば「あのさ」と真剣味を帯びた声が鼓膜を震わせた。


「おれのことあんまりナメない方がいいよ」


 記憶を遡ってみても、出水が怒っているのを見た事はない。だから、私が顔をあげれば「なーんちゃって」って戯けてくれるって期待した。――けど、顔をあげて視界に映ったのは、声と同じくらいの真剣な顔。冗談なんて一切なく、さっき盗み見したはちみつ色の瞳に射抜かれる。


「ご、ごめん……怒った?」
「いや、全然 ?ただ、好きなヤツからの評価が低いのはちょっとな」
「はぁ…………っ、え!?」


 机に頬杖をつき、呆れたように笑いながらサラッと告げられた言葉。あまりにも普通に言われたから適当な相槌を打ってしまったけれど、出水の言葉が脳内でゆっくりと咀嚼されていくにつれて、一部分が何度も反芻される。やっと何を言われたか理解した時には椅子から転げ落ちるかと言わんばかりの勢いで立ち上がっていた。


「ははっ、驚きすぎ」
「え? え? なに、え?」
「んで、動揺しすぎな。さ、終わったし行こーぜ」
「え? どこに?」
「はあ? フラペチーノ飲むんだろ?」


 もしかしたら聞き間違いだったのかと思うほど出水はいつも通りだった。そういう意味じゃなかった? 自意識過剰だった? 動揺を隠せないまま、教室を出ていこうとする出水の背中を追う。


「ちょっと、待って」
「待つよ。いつまででも」
「え?」
「あー、やっぱそんな待てないから、明日から……いや、今から本気出していくわ」
「え?」
「んで、高宮の中で評価上がったら次はちゃんと言う」


 意味が分かったような、分からなかったような――ううん、嘘。ちゃんと分かった。多分これは、自惚れていいやつだ。ゆるゆると口元がだらしなく緩んでしまうと「笑うな」と窘められる。
 既にちょっと評価が上がってしまったかもしれない。そしてきっと、これからぐんぐん右肩上がりになるような気がする。
 まだフラペチーノを飲んでないのにもう胃の中まで甘い気がして、フラペチーノよりもちょっと苦いコーヒーを頼もうと決めながら、出水の背中を見てこっそりと笑った。




ツイッターで募集したお題、出水で「おれのことナメないほうがいいよ」でした!
出水くん好きだなあ……でも出水くんの良さが全く出せていない!!ジレンマ!!精進します……
write by 神無



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