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嵐山准に彼女が出来た

※一部19歳組のみ。夢主出てきません。


防衛任務まであと数時間。ぽっかりと空いた時間に大学の課題を済ませてしまおうとラウンジへ足を向けた。隊室には珍しく他の隊員が揃っていたし、各々仕事をしていたので気を使わせてしまうのは忍びないと思ったからだ。
本部のラウンジには常に人がいるので静かな場所とは言い難いが、かと言ってうるさすぎる訳でもなく、心地良い喧騒は逆に集中力を高めてくれる。そうして暫く課題に没頭していたが、不意に呼ばれた自分の名前に顔をあげた。


「あれ? 嵐山じゃん」
「珍しい所におるな」
「二人こそ珍しいな」


声から予想はしていたが、目の前に立っていた迅と生駒が視界に映すと少し驚いた。生駒は兎も角として、玉狛所属の迅がラウンジまで来るのは珍しい。たとえ会議があったとしても、用が済めばすぐに本部を後にしてしまうのに、何かあったのだろうか。そう懸念してしまうくらいには珍しい事だった。

「何やってんの?」
「次の任務まで少し時間があるから、課題を終わらせておこうと思ってな」
「何足も草鞋履いてると大変だねぇ」
「マジメやなあ」
「二人は?」
「珍しく生駒っちとそこで会ったから、後でラーメンでも行こうって話になって」


粗方片付いた課題を閉じれば、目の前の空席へと二人同時に腰掛けた。ラーメンはいいのかと思ったが、時計を確認すると微妙な時間帯だったので、持て余した故のラウンジなのかと納得する。
思えばこの三人で話すのも随分と久しぶりだ。また予定を合わせてどこかに出かけるのもいいかもしれないと考えていると、迅の視線が自分へ向けられているのに気づいた。ただ見ているだけだとは思えないのは、未来視というサイドエフェクトがあるからに他ならない。何か視えたのかと首を傾げていると、面白げに笑った迅が徐に口を開いた。


「嵐山さあ……もしかして彼女出来た?」
「え!?」
「? 彼女に会ったことがあるのか?」


未来視は万能じゃない。会ったことのない人の未来までは視えないと迅本人から聞いていたが、彼女と知り合いだったのだろうか。
思い浮かんだ疑問をそのままぶつけてみたが、迅は否定するように両手を横に振る。


「相手の子は視えてないけど、なんとなくね」
「ちょ、待て待ていつの間に? え、聞いてないで?」
「最近の話だからな」


頭の中でざっと日数を計算してみれば、まだ一ヶ月も経っていない事に気づく。彼女とはほぼ毎朝顔を合わせてはいるが、メインは犬達だしお互い大学もあるため、会う時間は前と変わらず一時間程度。それ以外では中々会えていないのが現状で、そろそろ時間を作らなければと考えていたところである。


「彼女ってボーダーじゃないよね? 同じ大学の子?」
「いや、ボーダーでも同じ大学でもないな」
「えっ、まさか番組で知り合った芸能人じゃないやろな?」


生駒の突拍子もない発想に、迅と声を上げて笑った。確かにボーダーと大学を除外してしまうと選択肢はぐんと狭まるが、そこで芸能人という考えが出るところが生駒の面白いところだ。


「ははっ、違うよ。コロの散歩してる時に知り合った子なんだ」
「散歩……」
「散歩て……期待を裏切らん爽やかさやな」


ナンパとかならおもろかったのに。逆ナンはあってもナンパはないでしょ。聞き役に回りながらぽんぽんと掛け合う二人の会話を聞いていると、何やら生駒が一人納得したようにウンウンと頷いている。


「やっぱ嵐山はモテるんやな……」
「そんな事ないと思うぞ」
「あるわアホ。どうせ彼女に准ちゃんとか呼ばれてんねやろ」
「えっ、何? 生駒っちって彼女にたっちゃんとか呼ばれたいタイプ?」
「たっちゃん……ええな」
「はははっ、真顔やめて」


会話の内容のせいだろうか。ふわりとした笑みを携えながら「准くん」と自分の名前を呼ぶ彼女の姿が頭を過ぎる。
ずっと嵐山さんと呼んでいた彼女だけれど、最近漸く下の名前で呼んでくれるようになった。時折呼びづらそうに声を詰まらせているが、それも今だけだろう。ところどころに混じっていた敬語が完全に抜けたように、時間が経てば慣れてしまうだろうから。


「根付さんには?」
「まだ何も」
「早めに言っておいた方がいいよ。面倒くさくなる前にね」
「それは予知か?」
「いや、そういうわけじゃないけど。普通の子なんでしょ? 一人暮らし?」


迅の言葉の意味する事が分からずに首を傾げながらも「家族と住んでるよ」と事実を告げれば、徐にテーブルに身を乗り出すようにして距離を縮めてきた。同時に声までも潜めるので、自然と生駒と二人で身を乗り出して耳を傾ける。


「なら尚更。変なとこ撮られて拡散されたら面倒でしょ」
「おいおい、嵐山やで? 外で変なことなんかせんやろ」
「じゃなくて。ほら、ラブホ入るところとか見られると広報的にやばくない?」
「ラブホ。やばいな、色んな意味で」
「お前ら、こんなところでなんて話してるんだ」


話の内容が内容だっただけに、突然割って入ってきた声の方向へと勢いよく三人同時に振り向く。だが、声の主が柿崎だと分かると揃って安堵の息を漏らした。迅も同じ反応をしているところを見ると、柿崎が来ることは見えていなかったのだろうか。
しかし、それを確かめるよりもまず呆れた表情を浮かべる柿崎へ説明をしなければ、と口を開こうとしたが、どう説明していいものか言葉が出てこず答えあぐねていたら「嵐山の彼女の話だよ」と迅に先を越されてしまう。


「あ、ああ……彼女出来たのか。おめでとう」
「ありがとう」
「けど、まあ……ラウンジでそういう話は程々にな」
「待ってくれ。誤解だ」


結局柿崎も空いた席へと腰を下ろし経緯を話す事となったが、残念ながら話題が変わる事はなかった。一つのテーブルに男四人が集まって顔を突き合わせている姿は傍から見れば異質で目立つだろう。
出来れば今だけは高校生や中学生組が通りかからないようにと、ラウンジの奥へ目を向けながら内心で祈った。


「で、どうするん?」
「実家は微妙でしょ。特に嵐山のところは妹達もいるし」
「もう高校生でもないしな」
「普通に行くよね?」
「……どうなんだろうな?」


理解が出来なかったわけでも誤魔化したわけでもないが、実際に行動に移した事がないので曖昧に答える事しか出来ない。つい先程考えていたように、彼女とは朝の一時間程度顔を合わせるだけで、ゆっくりと会う時間を持てていないのだ。まずは一緒に過ごす時間を作ろうと考えていたところなので、その先まで深く考えていなかった。
でも確かに付き合っていればこの先起こりうるわけで、考えておく事に越したことはないのかもしれない。そんな事を考えていると、三者三葉の視線が自分に向けられている事に気づき、首を傾げた。


「え、まさかまだなん?」
「最近付き合ったって、そんなに最近なの?」
「え? ああ……まだ一ヶ月も経ってないな」
「あー、びっくりした」
「お互い忙しくて、散歩以外ではまだちゃんと会えていないんだ」


ありのままを告げれば、不自然な程に皆が揃って口を噤む。何も言わずとも、気遣うような視線から言いたい事がありありと伝わってきて、思わず苦笑が漏れる。時間を作らなければと考えてはいたが、そんな反応を示すほどなのか。だとしたら早急に考えを改める必要がありそうだ。


「それは……ちょっとヤバくないか?」
「おれ、いつでも任務代わるからね」
「俺も」
「俺もや」
「ははっ、ありがとう」


早速連絡をとるためにスマホを取り出せば、ディスプレイにいくつかの通知が表示されていた。その内の一つに彼女からのメッセージがあるのを見つけて表示させると、目に入った一文に口元が緩むのを自覚する。
「今度どこかに出かけませんか?」という控えめな誘い。もう抜けたはずの敬語が使われている事に彼女の躊躇いと気遣いが見て取れて、同時に彼女から誘わせてしまったことに罪悪感を感じた。彼女の事だから、きっとこの一言を打つために随分と悩んだだろう。
スケジュールを確認しながら、いつの間にかラーメン談義に入っている三人へ目を向ける。


「本当に代わってもらってもいいのか?」


たまには、頼ってみるのもいいかもしれない。




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