■ 8


「ヌ…ィノワっ、ぃ……いや、だ……っ」

 次に何が入ってくるのか、それは解りきっていた。
 それでも俺の体には、逃れる力が残っていない。
 上向いた顔に、ぺろりとヌィノワの舌が這う。

 流れた涙を拭うように、苦痛に歪む顔を慰めるように。

 眼をあけると視線が絡んだ。
 紅く煌く石のような眼が俺を見つめ、逸らされた。

 そこには涙が浮かんでいた。

 俺は目を閉じ、がくりと俯いた。
 心の底から喜んで俺を犯すなら、そんな眼はしていないだろう。

 己の為す事を、端から悔いながらそれでも止まらないのか。
 あれほど優しく思慮深いくせに、止められないのか。

 熱く潤んだ穴に、ヌィノワの切っ先が触れる。

 真っ赤に焼けた石が触れたように濡れた陰部がじゅっと灼ける音すら聞こえそうなほど、熱く滾ったその上に、俺の腰がゆっくりと沈められた。ずぐっとその杭が中を擦った。

 全身が戦慄いて、俺は獣のような咆哮を上げていた。

「お゛あ゛ぁあ゛ぅあ゛あ゛あっ! ああ゛っああ゛う゛ぅっ!」

 恐ろしいほど大きく鋭い光が背骨を貫いて、何度も激しく体が跳ねた。ヌィノワは尻から手を滑らせ、暴れる俺の腿をしっかりと掴む。

 支えを無くされ、深く串刺しになった俺は、根元にいくにつれて太くなる杭に穴を押し拡げられ、力の入らない手で両脇を通るヌィノワの腕を掴んだ。

 そこへ爪を立てながら腰を上げようとするが、僅かに持ち上がるたびに湧き上がる熱に力が抜けて、また自らを深く刺して喘いだ。

 ヌィノワは息を荒げたまま、じっと動かない。どくどくと脈打つ杭は徐々にその太さを増しているようだった。その大きさにぎちりと張り詰めた粘膜が杭をしっかりと咥え込んでしまって、腰を僅かに持ち上げることも出来なくなった。

 胸を上下させて荒い息をつくと、中に収められた熱い杭をはっきりと感じた。

 抜いてくれないなら、早く終わらせて欲しかった。無様に串刺しにされたままヌィノワの視線に晒されているのは堪らなかった。

「ヌィノ、ワ……も、ぅうごい……っ、はや、く……っ」

 朦朧としたまま、口走る。
 ヌィノワが深く息を吐き、囁く。

「ネルヴィ……」

 その声は苦痛に満ちていた。

 ヌィノワの声が頭に反響する。

 ネルヴィ、ネルヴィ、ネルヴィ。

 名前を教えた時に、繰り返して言った時の声。
 毎朝、俺を起こした陽気な声。
 酒に酔って嬉しげな声。

 太古の神々を語り、遠く眺めた移りゆく人間たちの姿を語り、独りきりの日々を語ったその声。

 どんなに辛く哀しい話の時も、その声は深く優しかった。
 それなのに、いま俺を呼ぶ声は苦痛しかない。

 そのくせ俺を貫くモノは、喜びにうち震えて硬くそそり立っている。

 なんて、滑稽なヤツだ。

 不意に口元が緩んだ。

 何千年も生きたくせに、長い長い孤独も耐えてきたくせに、ちっぽけな人間達をずっと見ていたくせに、それだけでかくて頑丈な体をしているくせに、こいつは子供のように、俺を手放したくないと駄々をこねている。

 たった七日、共にしただけなのに。
 それがそんなに嬉しかったか。

 本当に、滑稽なヤツだ。

 そう思うと、笑みが浮かんだ。

 それはすぐに体を苛む熱に歪んだが、俺は右腕を伸ばして、ヌィノワの顔に触れた。

 柔らかな毛並み。
 それを握って視線を絡ませる。

「うご、け……、は、やくっ」

 掠れた声でそう言うと、ヌィノワが強く眼を閉じて、俺の足を持ちあげ、ずるりと中のモノを半ばまで引き抜いた。ぴったりとヌィノワの肉棒に吸い付いていた粘膜が引きずり出されるような壮絶さと、強く中を擦られて沸き起こる熱に意識が掻き混ぜられた。

「ああ゛っぅ! ……ぅぐっ、あ゛ぅ!」

 そしてまた落とされ、俺の視界が白く染まった。
 持ち上げられ、落とされ、そのたびに俺は悲鳴をあげて身悶えた。体も心もぐちゃぐちゃに掻きまわされて、何度も気を失いかけて、何度もヌィノワの名前を呼んだ。

 喘ぎながら呼ぶたびに、ヌィノワは俺の顔を舐めた。
 慰撫するように鼻先を擦りつけ、流れる汗と涙をその舌で掬った。

 律動が速さを増して、俺はそれに合わせるように獣のような短く荒い呼吸を刻んだ。俺が腰を落とすと同時にヌィノワが腰を突き上げ、俺はこれ以上なく深く抉られて強く後ろを締めつけた。

 ヌィノワが唸る。そして太く張った根元がさらに膨れて、体の奥にどっと熱いモノが溢れた。

 二度三度とヌィノワの杭が震えて、ヌィノワが深く息を吐く。俺は痙攣する体からふわりと意識が浮いたような気がして、それきり気を失った。




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