おかしなる


「え? 君は仮装しないのかい?」

コウモリ、ゴースト、魔女にジャックオランタン。

お菓子の甘い香りが漂ってくる中、ハロウィンの飾りつけをしていたマルスが、ビックリしたようにそう言った。

「え? しませんけど?」

ナマエもビックリして言い返した。

さも当たり前だと言わんばかりの態度は両者一歩も引かず。
見合うふたりの空間だけ、時が止まったかのようである。

「だって、ナマエもまだティーンエイジャーだろ」

「だからって、全員が仮装したいと思ってるわけではないでしょう」

「まあ、それはそうだけど」

王子、なんだか不服そうだな、と思いながら、オーナメントを飾る作業に戻る。

聞けば、ハロウィンパーティーは毎年開催される一大イベントのひとつらしい。
10月最後の一週間の間、仮装したファイターたちがお菓子をもらって回ったり、ゲームをしたり、31日の夜には全員でご馳走を食べるのだとか。

任意だというのでナマエは仮装はせず、お菓子を用意しておくだけのつもりだった。

「えっ!?ナマエ仮装しないの!?」

「しないよピット」

「あら、そうなの……美味しいお菓子、たくさん用意するのに」

「ピーチ姫まで……」

なぜ、みんなそんなに驚いたり残念そうにするのだろうか……よほど見たいのか、私の仮装。

「ハロウィンおもしろいのに〜。仮装したまんま乱闘もできるんだよ!」

「えっ、そうなの? それは見てみたい」

「衣装によっては活用できるけど、動きにくくなることもあるから、気を付けなければいけないのよね」

「そうそう!マント踏んだり、引っ張ったり、頭に被せて邪魔するんだ!」

「なんて狡猾な」

話を聞いていると、とても楽しそうだ。

ナマエは去年の冬にやって来たので、こちらのハロウィンがどんなものなのか、まだよく分からなかった。
うーん、と考え込む。

「……やっぱり仮装、してみようかな?」

「「!」」

「まあ」

どんな格好をしよう。魔女か、ゴーストか、悪魔か……

「本当に!? やったあ、どんな格好になるか楽しみだ!」

「まあ、無難なのがいいかな」

やたらと喜んでいるピットも、いったいどんな仮装をするのだろう。他の参加者たちが何を着るかも気になる。
今から少しだけ、楽しみになってきた。

「まだ分からないぞ? ヘンテコな衣装が当たるかもしれないし」

「そうよ。トンデモナイ格好で一週間を過ごすことになるかも」

「……え?」

「え?」

「え?」

「あら?」

当たる? ヘンテコな? トンデモナイ格好が!?

話が、いまいち、噛み合わない。
ナマエが唖然とすると、三人も頭上にハテナマークを浮かべた。

「どういうこと? 自分で衣装用意するんでしょ?」

思っていたことをそのまま口に出すと、マルスもピットもピーチ姫も、ああ!と納得したように声を上げた。

「違うんだよ、ナマエ。仮装して回る方は、自分で用意できないんだ」

「主催のマスターハンドが決めるんだよ!」

「去年はあみだくじで決めたわね。今年はどうやって決定するのかしら」

「えっ……」

なん、だと……?

「運が良ければ決めさせてくれるんだけどね」

苦笑したマルスのそれは、フォローにはならない。

そりゃ、毎年、ハロウィン楽しみにするだろうなあと、遠い目でナマエは考えた。
例えば、いかつい人が魔女っ子になったり、特殊メイクや被り物で誰だか分からなくなる人、見目麗しい人が猫耳つけたりする、ということだろう。

引いたくじが望んだものではないのなら、恥ずかしいに違いないし、それを笑いものにする人もいるはずだ。

「……やっぱり仮装、しません」

「ええー!? そんなぁーしようよ仮装ー!」

「君はどうせ、私がヘンテコな格好するとこを見たいだけでしょ!?」

「まっさかぁー」

ピットがへらへら笑って、ナマエは吠える。

自分で決められないのであれば、やはり自分はお菓子をこさえて子どもたちに配る側に回ろう。笑われるのはごめんだ。

「でもね、ナマエ」

「はい?」

マルス王子に呼ばれて、歩み寄る。
すると、彼はナマエの耳に唇を寄せて、こっそり教えてくれた。

「一応、くじで決定しなくても、仮装できないことはないんだよね」

「……どういうことです?」

一度顔を離して、マルス王子の深い海色の瞳を見た。
そこへ、ピーチ姫も加わってくる。

「仮装するのが任意であるように、お菓子を用意するのも任意なの。
お菓子を用意してくれるなら、その人は自分で好きな衣装を用意できることになってるのよ」

「へえ……でもそれルール曖昧では……」

「そしてお菓子もなく仮装もない人は甘んじてイタズラを受けなければならないわ」

「シビアってか実質全員参加じゃないですかそれ」

「お菓子さえあればイタズラされないもの」

そういって、ピーチ姫はちゃめっ気たっぷりにウインクした。

さすがマスターハンド主催のハロウィンパーティー、フリーダム。

それにしても。

「どうして耳打ちで?」

自分がそれで聞いたから、なんとなく同じようにこそこそとふたりに聞いた。

「くじで衣装が決まった人たちとフェアでいるため、ってところかな。だから内緒なのかもしれない」

「ふうん……」

「うふふ。でも、知ってる人は知ってるわ。
あなたも、まだその気があるなら、仮装してお菓子を配ってみない?」

「うーん、どうですかねえ…………」

なんて、濁してみるわりには、衣装のこともぐるぐると頭を廻っている。

ランダムで決められた衣装を来てお菓子をもらうか、お菓子を用意して好きな仮装をするか。

マルス王子とピーチ姫が知っているということは、ふたりはお菓子を用意した上で仮装するメンバーに違いないと見る。

それにこれって一応、マスターハンドなりの配慮ということだろうか?
分からないが、少なくともナマエにとっては、後者の選択があったことはありがたい、と思った。

ファイターとして参戦してから初めてのハロウィン、せっかくだし、内緒で仮装して驚かせてみようか。

もちろん、お菓子をたんと用意して。


2018/12/05.
いろいろとすごいごちゃごちゃなルールってのは分かってる。
ほんとはちゃんとハロウィン付近で書いてたんです、ほんとは!!







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