五章

 薄暗い自室の天井を仰向けになって見上げ、嵐は静かに情報を整理していた。
 高屋敷が施工主となって戦前に建てた屋敷は、後に蘇芳与四郎の手に渡る。恐らくそれも戦前のことで、その当時、既に与四郎は高齢で息子の小五郎に当主を譲らざるを得なかったに違いない。
 そして冬、桜の木の前で与四郎は首を切り落とされ、死亡した。切り落とされた首は行方不明。それに連なるようにして使用人が四人、うち一人は家族を含めてというのだからかなりの数の人間が消えたことになる。それから年が明けて四ヵ月後、与四郎の妻が失踪した。
──四ヵ月後。
「……春か」
 呟いた言葉が天井に跳ね返り、落ちてきた。小さく溜め息をついて整理に戻る。
 与四郎、そして小五郎の死後、蘇芳一家は屋敷を後にし、現在に至るまで九家族が越してきている。
 一番目が施工主であった高屋敷の一族。六年で長男と次男を亡くしている。
 二番目が春木一家で、三年後に使用人一人と妻が失踪した。
 三番目が鈴下一家、五年で使用人二人に夫が失踪する。
 四番目は佐々木一家、七年で次女と使用人三人を亡くした。
 五番目が有本一家、四年で祖母を亡くす。
 六番目は棚喜田一家、二年で使用人が失踪した。
 七番目が椎野一家、三年で長男が死亡。
 そして問題の八番目は秋谷一家。一年目に五人の子供の内、三女が死亡。三年目に長男、次男、次女を亡くし、翌年に使用人と夫が失踪し、世話に来ていたという友人の女性もあまり間を置かずに失踪したという。
 これを転機にしたかのように、九番目の高梨一家では家族に死亡や失踪はないものの、一年で懇意にしていた八百屋の主人が失踪した。
 まるで秋谷一家で味をしめたかの如く、以降、屋敷の周辺で少ないながらも死亡や失踪が相次ぎ、現在の屋敷の所有者は吉宮一家であるが、その姿を見たことはない。今は田野倉と二人の使用人が屋敷を管理しているらしく、しかし、一昨日には吉宮の奥さんが夫の会社に顔を出したという。
 与四郎殺害以降、屋敷に関わる人間が次々といなくなっていることの中心に、あの屋敷があるとすれば、今現在、高洲俊一から始まって三人の被害者が出た殺人事件は旧蘇芳邸に関係があると言っても過言ではない。
 なにせ、そのうちの一人である宮古綾の自宅からは観桜会の招待状が見つかったのだから。
「なんか……うまいこと乗せられてないか?」
 寝返りを打って思考を巡らす。
 情報が集まるのはありがたいが、体よく餌をちらつかされているように思える。杞憂に終わればいいのだが、と嘆息した時、ふと、あの屋敷の荘厳な桜が浮かび上がった。
──あれ?
 次いで、宮古綾のアパートへ行く時に出会った小鬼のイメージがだぶる。

- 219/323 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -