……来た。喉が渇いていたみたいだから、泉を飲ませたの」
「どれくらい」
「かなり……あれだけ飲んだら……」
 少女の言わんとする所が知れる。
「ああ……そうか」
 泉の酒には生気が満ちている。その効果はわからないが、おそらく一定量を越せば――不死と言うにふさわしい体になるだろう。
「四人はこの森にいるのか」
「わからない」
「……まあ、死んでないなら……いいか」
 むしろ、死ねない体になったことこそ不幸か、とも思えた。――彼等に落ち度はないにせよ。天狗なみに言えば、運が悪かったとしか言い様がない。こちら側の住人になったのなら、縁があれば会うこともあるだろう。
「……あ」
 外を見て、少女が声をあげた。
 つられて嵐も外を眺め、小さく笑う。
「……なんだ、明るくなっても雨止まないんだな」
 空から陽光が射し込んで、部屋が一気に明るくなる。細い雨の筋がきらきらと、輝いて美しかった。
「……あなたは」
「ん?」
 立ち上がった嵐を、少女は見上げる。
「なぜ来たの? あの人に頼まれたって……」
「ああ。……そうだな」
 すっかり忘れていた。この泉の酒を持ってきてほしいとの事だったが。
――呪詛の影響でああ言ったのなら。
「……ふむ」
 嵐は少女を見つめる。
 見つめられた少女は首を傾げた。
「……なに?」
「……一緒にいたいんだよな」
 少女は頬を染める。
「……まあ、なんとかなるか。つれてってやるから俺の頼み聞いてくれる?」
 笑いかける嵐の意図がはかりかねるように、少女はなに、と尋ねた。
「いや、熊出るんだろ? ここ。それなんとかしてくれ」
 しばらく考え、ようやく合点がいったようだ。今までのような儚さは見えぬ笑顔を浮かべる。
「私、猟師じゃないもの」
「……やっぱ、無理か」
 見上げた空の雲が切れている。雨が、止み始めていた。


四章 終り

- 20/323 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -