「駄目っつったら駄目だ。だいいち、俺に頼む事がお門違いなんだよ。除霊って、あんた幽霊かなんかのつもりか?」
顔をあげた慎は苦笑する。
「……少しだけね」
「鬼は精霊の一種だ。かなり上等の」
精霊の中でも、神格を得ているのが鬼である。上位に位置する鬼は霊力は勿論のこと、体力も常人の倍以上はあり――同時に治癒力も並ならぬものがある。
嵐はだから、と言って嘆息した。
「そう簡単には死ねない」
「どうしても?」
「残念ながら。それでもっつうなら、専門の奴を紹介しようか?」
弱々しく、慎は頭を横に振る。その様子は本当に鬼なのかと、疑惑を抱かせた。
「そいつらは、おれをただ殺すだけだ。……意味のある死が欲しい」
「……頑固だな」
「友達にもよく言われた」
微笑し、小さく息を吐くと頭を壁につけて天井を仰いだ。
「少し休むか?」
「病気じゃないからいい」
「……ちょっと聞くけど」
「うん?」
「断食なんて馬鹿な真似してねえだろな」
「あー……はははは」
頭に手をやり、慎は乾いた笑い声をあげた。見事言い当てた嵐はげんなりとする。
「馬鹿かあんた……何日?」
「七日。無理だったかな」
「……鬼の体はそんなにやわじゃない」
困った様に笑う慎を見て盛大に溜め息をつき、立ち上がる。追いすがる様に見上げる視線を嵐は正視した。
「何か持ってくる。そんなんじゃ話にならん」
「でも」
「ここの台所は潤ってるからな。遠慮するだけ無駄」
他人の台所事情をさらけだし、己の空きっ腹も抱えて退室した。――嫌な予感の的中を恨めしく思いつつ。
三章 終り
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