時、馳せりし夢 「一」



 ぎりぎりと不毛な言い合いをし、トリアーコンタはコーヒーを一息で飲み干した。ヘンデカは「あーあー」と残念そうな声をあげる。
「もったいない。朝の一杯くらいもっと大事に飲めよ」
 トリアーコンタはコーヒーのおかわりをもらい、ヘンデカの前で着々と減っていく山盛りの朝食を指さした。
「あのな、そんなもんを朝っぱらから食ってる奴に朝の一杯を説かれたくない」
「しめのコーヒーは大事にするよ?」
 言いながら、ハンバーガーのパンで皿に広がったソースを大事そうにかき集めて食べ、残りのポテトをつまんだ。
「いつものね」
 その体勢のまま通りかかったウェイトレスにデザートを注文する。常連であるヘンデカにはそれだけで充分で、すぐにシナモンロールとコーヒーのセットがやって来た。食べ終わる時間も把握しているようだった。その様子をイライラとしたようにトリアーコンタは眺める。
「……結局、いらないとか言いながらその食費に消えてるんだろ」
「女に使うよかいいだろ」
「……」
 トリアーコンタは黙った。ヘンデカの言う「女に使う」同僚を二人はよく知っていたし、トリアーコンタはその男を苦手としていた。だからこそヘンデカは例えに使ったのである。嫌がらせに使うには最適だが、そう言うヘンデカも同じく苦手とする人物ではあった。
 溜め息をつき、トリアーコンタは本題に入る。シナモンロールが到着する頃合いに切り出すのもいつものことだった。
「なあ、戻れ。お前にゃ普通の生活は無理だ」
 シナモンロールにとりかかっていた手を止め、ヘンデカは溜め息をついた。
「……あのなあ、その個性のない言葉どうにかしろ。BGMにもなりゃしねえ」
「させるつもりもねえよ」
 息を吐きながら、トリアーコンタは背もたれに背を預ける。上背のある彼が背もたれを使うと、やけに体が大きく見えた。いや、実際に背は高いのだが。
「だって、今もまともに見えちゃいねえんだろ? その飯も、おれも」
 トリアーコンタがシナモンロールを指さして言う。ヘンデカはじっとりとした目つきで彼を睨み付け、シナモンロールにかぶりついた。かかっていたアイシングの欠片がぱらぱらと皿に落ち、指についたそれを舐めて取るヘンデカへトリアーコンタは問う。
「今は何に見えるんだよ」
 ヘンデカは低い声で「結晶」と言った。トリアーコンタはそら見たことか、とでも言うかのように息を吐く。
「こないだは岩、その前は花か? どんどん生き物から離れてるじゃねえか。お前な、それ重症化してってるってわかってんだよな?」

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