秋桜─COSMOS



 金星に移動してすぐにコスモスがやったことは自らへの罰則事項を解除し、自由に動けるようになることだった。勿論、その「自由」には自らの行動記録の改ざんも含まれている。せっかく学べる頭があるのだから、色んなものを見たかった。
 だが、その楔よろしくコールがやって来た。データは改ざん出来ても、コールの承認と報告は彼女自身からなされるものである。その口を塞ぐ手をコスモスは持っていない。
 だから、彼女たちは互いの利害を一致させ、共犯体勢を作ることにした。
 与えられた仕事はきっちりこなす。これは絶対の最優先事項である。それに抵触しない限りは、お互い自由にしてよく、それぞれの領分を踏み荒らさない。
 その領分を踏み越える時は、何らかの対価を支払うこと。
 二人に上下関係はない。互いが互いの楔であり、共犯であった。
「そこはさー……真面目に仕事してるんだから、ちょっとはまけてくれてもいいじゃない」
「じゃあ、わたしも同じセリフで返す」
「うう……」
「まあ、あんたの恋路に興味はないけど、シーイーにはちょっと興味あるから、別にいいよ」
「ちょっと、それどういう意味!? さっきの機械で充分って、彼も入ってるの!?」
「あんた本当にむかつくくらいよく覚えてるわよねー……」
 短くなった煙草を灰皿に押し付け、コールは新しい煙草に火をつけた。そして「だってさ」と言い、にやりと笑う。
「政府が金かけて作った最強のスパコンが、一介の作業ロボットに恋するって面白すぎるでしょ! 泣けるほど笑えてくるわ! こんな面白い話逃したらただの馬鹿。その渦中にある作業ロボットが気になるってのはエンジニアとして真っ当な感情でしょうが!」
 コールの性格が真っ当であるかどうかはともかく、腕とエンジニアとしての信念は信じられるものだとコスモスは知っていた。
「……じゃあ、そのうち本当にシーイー連れてくるから、可愛いモデルをよろしくね」
「あいさー」
 コールは敬礼のポーズをとり、そしてくわえ煙草で続けた。
「ま、がんばりなさいな、一等星」
 コスモスは相棒の言葉に「ありがとう」と返し、更けゆく金星の夜を見つめた。
 暗い宇宙で二つの機械は次の夜を待つ。片方は星々の中に漂い、片方は高温のガスの上に浮かぶコロニーの中で。
 夢見る機械たちは、宇宙の中で語り合う。



終り

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