ぽつりと呟き、朱花は赤司の服を掴んだ。
赤い瞳から澄んだ滴を零しながら。その滴は絶えることなく、ぽたぽたと地面を濡らす。
「そんなこと、わかってたけど…だけど、今でもあの時のこと、夢に見るから」
「朱花様」
「真っ赤な血が目の前にあって、赤義が倒れてて…それで」
「もういいです、朱花様」
ぽん、と赤司は朱花の肩に手を置いた。
とても小さな肩。確かに、この体に人の死は―――目の前で直面する人の死は重すぎる。
どれだけ苦しんだのだろう。どれだけ胸が痛かっただろう。
「……ごめんね、赤義。――――守ってくれて、ありがとう」
朱花は涙を拭い、ゆっくりと空を見上げた。
“天”というものがあるのならば、赤義はいるだろうか。この声が聞こえているだろうか。
その言葉に答えるかのように、風がふわりと二人の頬を撫でた。
「赤司も、ありがとう。赤司が新しいエイドでよかった」
朱花はにっこりと笑った。心からの笑顔で。
やっと子供らしい顔が見れた、と赤司は微笑した。
大切なことに気付かせることができてよかった。
エイドを恨み、赤義を恨み。そして自分を責め続け。一生そんな苦しみを抱えてゆくところだったかもしれない。
それは、辛い。まだ小さな彼女には重すぎて潰れてしまうだろう。
「あ……でも…」
朱花は再び俯いた。その頬は少しだけ赤を色付けていて。そしてひらひらと手招きをした。
赤司が首を傾げながらしゃがみこむと、朱花はそっと耳打ちをする。
「……あのね…」
ふわりと舞う風。
さらさらと流れる川と、刻。
明日のことなどわからない。ましてや遠い未来のことだって。
それでも赤司は気付いていた。
この人は、長になれる器を持つ人物だということ。
いつかエイドとして仕える日が来るかもしれないということ。
その時は、命に変えても守りぬこう。
“あのね…、赤司は死なないで。無茶しないで。……これはお願いじゃなくて、命令”
「でも、その命令はきけないな」
―――その声は、朱花には届かなかった。
END
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……普段のバカタレな心が洗われるような話です。赤司さんや朱花の見方が良い意味で変わりました。優しさや強さの裏側にあるものを見た気がします。癒された……。
彩崎様ありがとうございます!
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