Piece6



Piece6


 数年ぶりの来訪から三日、「要塞」が久しぶりに迎えた客人の一方は段々と馴染み始め、もう一方は日を追うごとにその目つきを悪くしていった。ヤンケもよく知っている、昔のギレイオの顔に戻りつつあった。
 ヤンケはうなじに嵌めた半円形の機械の位置を直し、その両端が耳の後ろへつくようにする。これは操作盤のみでコンピューターを操ることに面倒を覚えたヤンケが、自分の思考一つで簡単にコンピューターを操作出来るよう、試行錯誤して作り上げた物である。
 結果、今までよりも格段に操作速度は上がり、ヤンケが日々、サーバーの増設工事をしているお陰もあって処理能力も常に上昇傾向にある。更におまけとして視覚的、意識的にネットワークと繋ぐ機能もつけた為、別付けのスコープを通して見れば、ネットワークそのものが現実的な映像としてヤンケの目に映し出されるのだった。
 監視カメラ用のモニターが何台もある上、ネットワーク用のモニターもこれ以上増やしてはゴルの雷が落ちるとばかりに、省スペースの心意気で作り上げた物だったが、これが思いがけない活躍を果たすのである。
 例えば操作盤一つで突破しなければならなかった防衛システムも、ネットワークに入り込んで視覚的に捉えれば、数字だけのデータでは見えなかった死角というものが存在するのだった。お陰で、ハッキングの最短記録を常に塗り替えている状況に、ヤンケはますます自信を深めていたが、ゴルに言わせれば気違いだという。
 気違いも天才の仲間のうち、とヤンケの前のめりな思考は判断し、それすらも褒め言葉にして受け取っていた。
 ヤンケは親しみを込めて、この機械のことを「マッド」と呼んでいた。
「おい」
 「マッド」をこつこつと指で叩きながら考えていると、出入り口からゴルが顔を出す。
「見つけられそうか」
 言いながら、椅子に腰掛けるヤンケの元へ歩み寄る。
 壁一面のモニターは上半分を主要な監視カメラの画面にし、下半分をネットワーク用に切り替えていた。誰かに説明する際には、やはりモニターは必要不可欠なものだが、こうしてわざわざ切り替えねばならないのが手間である。
 ヤンケはゴルの質問にすぐには答えず、椅子の上であぐらをかいた。
「うーん、見つけたというか見つからないというか」
 煮え切らない言い方にゴルは「さっさと言え」と促す。
 ヤンケは仕方ないとばかりに外していたスコープを目に装着し、見つけたデータをモニター上に表示させた。
「楽園機構なんてほとんど怪談じゃないですか。実際、私もそう思ってましたし。だから、そういう噂話ばかり集めてる倉庫を探してみたんですよ」
 三日前、小スパナを顔面で受けて倒れこんだヤンケに、ギレイオらとの話を終えたらしいゴルがやって来た。珍しく心配してくれるのかと期待に胸を躍らせたのも束の間、ゴルは短く、小さな声で言った。楽園機構について調べろ、と。

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