Piece4



Piece4


 参った、とだけ呟いてギレイオはエンジンから顔を上げる。
 油と汗にまみれた顔にはお手上げという風の表情が浮かんでいた。機械相手に滅多なことでは降参しないギレイオにしては珍しい。大人しく座ってろ、というギレイオの言に構わず、サムナも車を降りてエンジンを覗き込む。しゅう、と情けない音を立ててエンジンは自身の不調を訴えていた。
「エンジンのピストンがいかれてら。冷却用の水もほとんどねえし」
 あの野郎、と舌打をして車に寄りかかった。
「見えねえところでケチりやがったな」
 そう言って、大きく嘆息した。その「見えないところ」を見抜けなかった自分にも、腹が立っているのだろう。ひととおり憤ったところでギレイオはゴーグルを外し、運転席に回った。
「おれのは使えないのか」
 エンジンを見つめながら、サムナは提案してみる。地図を引っ張り出していたギレイオは、不満たらたらの顔で相方を見返した。
「却下。お前をばらす方がややこしい」
 それ以上の意見は受け付けない、とばかりに大きな地図を広げる。
 あそこでもない、ここでもない、と一人で地図へ文句を言っているギレイオを尻目に、サムナは辺りへ視線を巡らせた。幸いにも“異形なる者”の姿は見えないし、追跡者の気配もない。アクアポートを出て三日ほど経つが、「神殿騎士はどうにかなる」というギレイオの言は見事に的中していた。
 街を一歩出れば荒涼たる風景が広がる。見渡せど見渡せど、人工物の一つも見えない光景がサムナは好きだった。生物がいないからだと思っていた。
「……仕方ねえなあ」
 盛大な溜め息と共に地図を畳む音がして、サムナは振り返った。見れば、渋い顔をしてギレイオが地図をしまっている。
「ちょっと寄り道するぞ」
「どこに?」
「少し戻るけど、小さな町がある。その近くにギルドを置いている町もあるから、ちょっと嫌なんだけどな」
 重討伐指定が復活したとあれば、ギルドにもそれなりの情報が流れていると考えていい。追われている身が、わざわざ賞金稼ぎの巣窟へ赴くようなものだった。

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