Piece21



Piece21



 夜が明けると全てが生まれ変わるような心地がした。昨日までと同じ部屋の同じ家具に囲まれて目覚めたにも関わらず、それらは一晩経つと殻を破ったかのような新鮮さを見せる。ただし、それも目覚めて数秒の話であり、喉に空気を通せば途端に覚醒を促され、「生まれ変わるような心地」も夢の延長だったと知るのだ。そしてそんなことはありえないと判断を修正するのがネウンの日課だった。
 彼らに睡眠は必要ないが、たまに記憶や情報を整理するための手段としてその方法を取ることがある。無論、人間のような睡眠とは違い、演算に多くの機能を集中させるための必要処置であり、緊急の呼び出しがあればいつでも動ける状態にあった。
 エインスやドゥレイは短時間でこれをやってのけるものの、ネウンは彼らの倍ほどの時間を要した。ネットワークへの介入など、情報処理の能力が高いために得られる情報も多く、彼ら以上に整理する手間がかかるというのもあるが、単に、彼らほど処理能力が高くないからという理由もあった。
 そのため、ネウンは大抵、夜間に処理を行うようにしていた。昼間ほど緊急招集をかけられることがなく、人も機械も静かである。特に、エインスが完成してからはその傾向が顕著になった。一応は完成形に近いタイプとしてその後は新型の開発を止め、エインスのデータを収集して後に開発の再開か停止かを議論するとのことだった。それまで忙しなかった周囲が極端に静かになったことで、ネウンは更に夜間における処理時間の比率を上げた。
 聴覚の問題というよりは、周囲から干渉されることを避けてのことである。聴覚そのものは遮断してしまえるが、「頭脳」は遮断出来ない。出来うる限り、処理中に新たな情報を投げ込むのは避けたかった。
 だから、サムナがデイディウスの邸宅に招かれてから三日目の今日も、いつもの通りの朝を迎えるはずであった。整理の行き届いた頭は軽く、すっきりとするのである。
 このところ得られる情報が急激に増えたために、いつかはやらなければと考えていたのだが、忙殺されている内にその時間も後へ後へと押し流され、ネウンが思っていたよりも乱雑に投げ込まれていた情報は彼の頭脳を圧迫していた。前夜にディレゴへ整理を行うことを告げ、朝になれば少しはすっきりするだろうと思って床についた。
 ところが、日の出から間もない頃合いに目覚めたネウンは微かに眉根を寄せた。
 いつものような「生まれ変わるような心地」の錯覚もなく、至極、当然のように全てが稼働を始めている。まるで誰かに叩き起こされたかのようだった。その所為か、整理は中断され、検索をかけてみるとまだ乱雑なままの情報がいくつも残っている。中途半端に止められた仕事ほど始末の悪いことはなく、それは言いようのない不快感としてネウンの中に広がっていった。再開しようにも強制的に止められたために、まずは正当な手順を踏んで整理を中断させなければならない。わざわざ夜間に行っていたのに、全くの時間の無駄であった。
──いったい、誰が。
 ただの機械がネウンに介入出来るとは思えない。ドゥレイやエインスにおいてはそんなことをする理由もなく、例えやったとしても足はつく。それはディレゴやデイディウスについても同じことが言えた。
 サムナかとも考えたが、あり得ないと一瞬で思考を振り払う。彼は開かれたネットワークに入ることは出来ても、閉じたネットワークに入ることは出来ない。サムナは開拓者ではないのだ。
 では誰か、とネウンは中断作業を進めながら思考を巡らせた。

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