Piece14



Piece14



 少女は道すがら、アインと名乗った。
「……男みてえな名前だな」
 ギレイオが素直な感想を述べると、思いがけず、アインは静かな声で応えた。
「……だったら良かったのにね」
 独り言ともとれる言葉には返しようがなく、二人は再び黙り込む。
 涙をおさめたアインは二人に会わせたい人間がいると言って、どんどん街の中心部から離れていく。住宅街を抜け、貧民街のような区画を抜け、遺跡の残骸のような物が乱立する場を歩いていると、少女の姿によって押し込められていた警戒心が首をもたげてきた。
「……これはお前が実は賊とか、そういう流れじゃねえだろうな」
「年端もいかない子供を捕まえて、そういうこと言わないで」
「年端もいかねえ子供は、自分のことをそうは言わねえよ。お前、いくつだよ?」
「十一」
 その割には随分と聡い話し方をする、とギレイオは溜め息をついた。
「……めんどくせえ子供だって言われねえ?」
 アインは前を向いたまま答えた。
「いいの。それが子供の私の強みなんだから」
 子供の、という部分に込められた力の意味を、ギレイオはなんとなくわかるような気がした。
 だからと言って、面倒なことに巻き込まれた感が薄まるわけではない。それは道を進むごとに色を濃くしていく。辺りに明りは既になく、月の明かりだけで視界を保っているようなものだった。
 遺跡と言うには憚りのある遺構たちは、原型を留めていないものが多い。元は建物だったのだろうが、歩を進めてみれば前壁だけ残った状態であったり、柱だけが林立していたり、基礎が残っていればいい方で、建物であったのかどうかすら怪しいものが大多数を占めた。
 そのどれもが風化し、角を丸め、時に雨だれで穿たれたのであろう穴からは鳥の落としものか、草花がささやかな生を謳歌していた。
 薄く緑の広がる平地に巨石が転がる様は、長大な歴史の末端に触れているようで、自然と静謐な気持ちになる。だが、そのどれもが栄光の跡というわけだ。
「……何もかんも、続かなきゃ意味ねえよなー……」
「ここのことを言ってるの?」
「宝でもありゃありがたみも出るってもんだけどな」
「昔はあったみたいだけど、ほとんど調査と盗掘で持ってかれちゃった。そうなるといよいよ虚しい光景だと思うわよ、本当」
「宝ありきの遺跡ねえ」
「低俗っていうんだって、そういうの」
 アインはギレイオを振り返って睨む。対するギレイオは、目を丸くして返した。
「お前も同じこと言ったじゃねえか」

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