Piece5



 サムナは目を伏せた。
「……悪かった。今の質問は忘れてくれ。でも、おれは彼の申し出には乗るべきだと思う」
「理由は」
「お前もおれも、おれ自身のことに関しては大した興味を持たなかった。過去に彼らと接触した経緯もあって、積極的にそういう情報を避けていた風潮もあるんだろう。だが、その結果が今だとおれは思う。ゴラティアスが精査をしたいと言った理由に、お前は見当がつかないんじゃないのか?」
 ギレイオはサムナを睨みつける。
「見当がついてねえって? 俺が?」
「そう見える。もしくは確証がないのかとも思ったが、どちらにしても同じだろう。持ちうる情報が少なすぎる所為だと、お前も感じていると思うんだが。どうしてそれを認めないのかが疑問だ」
 至極不思議そうに言われ、睨みつけていたギレイオの表情に苦悶の色が混ざりこむ。そうしてしばらく、我慢比べのような睨みあいを続けた後、ギレイオが音を上げて立ち上がった。
「あーあーわかったよ。俺の負けだ。ったく、その頑固さも封印してくれりゃ良かったのによ、あの馬鹿野郎。くそったれめ」
 悪態をついてはいるが、その実、認めざるを得ない現実を飲み込んだことで気持ちが楽になっていた。サムナに負けたという悔しさを押し込め、ぶつぶつと文句を言いながら修理場を出る。
 上着のポケットに両手を突っ込んで歩き、崩壊した玄関へ出た。そこには未だ倒れたままのヤンケと、彼女の様子を覗き込むゴルの姿があった。
「……いよいよ死んでるんじゃねえの?」
 ギレイオはぶっきらぼうに言い放つ。ゴルは立ち上がり、鼻で笑った。
「こんなことで死ぬような奴なら、そもそも弟子にせんわ。それで? 帰り支度でもしに来たか」
「てめえの申し出に乗ってやるって言いに来たんだよ、くそじじい」
「ほう」
 ゴルは後ろ手に手を組み、面白そうにギレイオを見る。
「帰らんのか。くそガキ」
 ギレイオは黙り込む。
 ゴルは大きく息を吐いた。
「……それなら、たまには墓参りにでも行ったらどうなんじゃ」
 わずかな良心が言わせた言葉だった。
 これにもしばらく黙っていたギレイオだったが、やがて、小さな声で答える。
「ねえよ。そんなもの」
 葬り去ろうと努めている記憶の片隅に、小さな黄色の花が揺れる。
 そんなギレイオの声を、ヤンケは目を閉じたまま聞いていた。



Piece5 終

- 80 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -