Piece5



 この所為か、一度見つけてしまうと、同じような光が方々から通りに向けられていることに気付く。中には意志の見えない物もあったが、多くは確固な意志を持ってこちらに向けられていた。どうやら、これが住人らしく、悟られぬように視線を巡らせたサムナへギレイオは呆れたような声をかける。
「お前、普通、あんな所から見つけるかよ」
「……随分、物騒な住人が多い」
「俺らに比べりゃ平和主義者ばかりだ。だって見ろよ、仕掛けてこないだろ」
 確かに、とサムナは頷く。誰もが様子を窺うばかりで、仕掛けの一手が出る気配もない。
「こうしてとろとろ走ってりゃ、いい的撃ちのカモだが、誰にだって仕留めることが出来る反面、誰かが仕留めたカモを横取りするのも簡単に出来る。餌ってのは捕食者より案外物騒なもんで、餌を取った時が一番危険なんだよ」
「やったことがあるように言うんだな」
「当たり前だろ。ここで暮らしてた時期もあったんだから」
「ここに?」
 そう言って、サムナはギレイオの顔を見つめた。
 お世辞にも、育ちのいい相方とは言えないが、それでもこのような場所で暮らしていたとなると驚きは隠せない。
──考えてみれば。
 サムナは、自分が会う以前のギレイオを全くと言っていいほど知らなかった。彼の口から伝えられる物事でしか過去のギレイオを推測することは出来ず、それが推測の域を出ないものであることは明確な事実である。
 そして同じくらい、ギレイオはサムナのこと知らないのだが、ここで二人の互いに関する知識の量が対等であるとは言い難かった。ギレイオが知らないのと同じく、サムナは自身に関する知識や記憶、情報といったものが欠如していることを認識していた。
「……故郷というやつか」
 サムナがぽつりと呟くと、ギレイオは苦笑した。
「ちょっと惜しい。答えは今度だ」
 着いたぞ、と言って車を止める。
 建物と建物の間に納まるようにして、半円形の覆いのついた入口が暗い口を開けていた。大昔には照明もあったようだが、今は頭上で虚しく残骸をさらすだけに留まっている。陽光も遠慮した入口の奥には、微動だにしない暗闇が巣食うのみだった。
 ギレイオはハンドルにもたれかかりながら、しばらく入口を見つめていたが、やがて「よし」と小さく声に出すと、シートベルトをしめ始めた。いつもは二人の尻の下にしかれている品である。

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