Piece5



 辺りは既に、街の中心部とはかけ離れた様相を呈していた。狭い道に身を寄せ合ってそそり立つ建物はどれも古く、濁ったガラス窓が陽光を微かに集めて反射させている。街灯や電気などの公共の設備も見られたが、中心部の物に比べて古い物であることは明らかだった。しかも、充分な手入れがされておらず、所々で断線した電線が虚しく垂れ下がっているのが見える。本来の機能を発揮するだけの配慮というものが、この区画には一切窺えなかった。
 タイタニアに到着してから初めて車を止め、ギレイオは座席にくくり付けていた棺桶のベルトを外す。そして錠前を開け、ノックして合図をした、
「出ていいぞ」
 サムナは棺桶の蓋を押し開け、斜めになった蓋が落ちないよう支えながら体を起こす。そう明るくもない場所で外に出た所為か、周囲の風景を把握するのに時間はかからなかった。
「……本当にタイタニアか?」
 興味深そうに見渡すサムナへ、ギレイオは苦笑しながら答えた。
「答えが難しいな。タイタニアだが、正しくは違う」
 ギレイオはサムナに棺桶から出るよう促し、空になった棺桶を片付け始める。タイタニアに入るからと急ごしらえで作ったもので、見た目こそ普通の棺桶だが、実際は薄い合板による張りぼてのような作りだった。解体にはさほどの手間を必要としない。
 スパナを金槌代わりに、手際よく棺桶を解体していく。
「この辺りは昔のタイタニアなんだよ。街が発展するのにつれて、旧態の街も壊して新しく作り直していくけど、中には壊しそこねた街もあってさ。そんなのが、ちょこちょこ点在してるんだ。ここは、そういう古い街の一つ」
 ギレイオの話を聞きながら、サムナは視線を巡らせる。
 ここがタイタニアだというのは、うすら寒い冗談のような気がした。だが、遠くにそびえ立つ電波塔の姿が、冗談だと思い込もうとする心に現実を教え込んだ。
「どうして壊せなかったんだ」
「まあ、色々あるわな」
 棺桶の本体部分を解体し、今度は蓋に取り掛かりながら続ける。
「どの街だって貧富ってのはあるだろ。新しいタイタニアが富裕層の物なら、この古いタイタニアは貧民街みたいなもんだ。貧乏人だの流れ者だのを集めて押し込めるための場所が、偉大なるタイタニアには必要なんだな」
 あとは、と言って笑った。
「この街にだって、ご他聞にもれず犯罪者や裏稼業に従事してる奴らもいる。はっきり言って風体も柄も悪い連中だ。害虫が人間の世界に間違って出てこないように、そんなのが大手を振って歩ける街が必要だろ?」

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