Piece18



 ここに連れてこられた時点で虫の息だったが、ワイズマンとロマが手を尽くして処置したお陰で、どうにか息は保っている。ただし、意識はまだ戻らない。
 何かの爆発に巻き込まれたらしい右手は辛うじて無事と言えたが、回復したところで再び同じように動くとは限らないとのことだった。
 加えて、ギレイオの魔法が三人の頭に暗澹たる雲を落とす。
 ヤンケよりはワイズマンらの方が理解が深かったが、魔法の速度は彼らの理解を超えていた。無論、そこには持ち主であるギレイオの意志が作用したところが大きいが、まるで油を得た小さな種火が爆発したかのようである。もはや種火は小さく戻ることを知らず、油を注いだ本人もその炎を御することが出来ない。
 それは意識を失ったところで変わりなく、外に倒れていた時も、処置室で処置をする間も、手に触れる物は見境なく分解されていった。今も玄関扉を出た脇の床には、大きな穴が空いている。触れさせなければいい話とばかりに、ギレイオの手は少しだけ横にずらされ、腕の部分だけを台に乗せて、手は中空を掴むのみだった。
 それだけならまだしも、ワイズマンらの頭を悩ませているのはもう一つある。
 保険と言って仕込んだ、左目の魔晶石に取りつけた機械は跡形もなく消え去り、ワイズマンの魔法も消滅しようかというところだが、どうも様子がおかしいのだった。
 確かに魔法は自然物とは異なるため、分解するという理論が当てはまるのかも怪しいものだが、ギレイオの魔法の成長速度を思えば、そんな理論も吹き飛ばす現象を起こすと考えても、考えすぎだとは言えない。しかし、ワイズマンがギレイオの左目の様子を見たところ、機械の存在と共に自身の魔法も消えつつあったが、どうやらそれが変質しているらしいことがわかった。
 常日頃、ロマの魔法を介して自身の魔法の変質を目の当たりにしているワイズマンにすれば、その変化に気付くのは畢竟である。問題は、何故、そんな変質が起きているのかであり、原因として考えられるのはギレイオの魔法しかない。
 分解する魔法が、他者の魔法を食い尽くすのではなく、飲み込んで全く別のものにしようとしている──理解どころか想像も追い付かない出来事だった。
 そうなれば左目にしてやれることはなく、治癒目的以外の魔法を使うことも出来ない。彼らに出来ることは何もなかった。
 無論、そこにはサムナの捜索という難題も含まれる。
 ギレイオを見つけて後、ヤンケが辺りを探し回ったが、サムナの足跡は一つとして見つからなかった。
「……血、足りますかね」
 お茶を半分ほど飲んだところで、ロマがぼんやりと言う。ギレイオの出血量は凄まじく、施術中も今も輸血をしているような状態だった。
「ストックはどれくらいありますか」
「今のまま輸血を続けるなら、難しいですね。栄養剤も足りないだろうし……ちょっと、その辺の病院を回って手配してもらえないか聞いてきます」

- 313 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -