十周年番外編 Another×Route



「ああいえ、違うんです。その、あなたのお連れさんをつれて、お義父さんが」
「……あ?」
 途端に声に険悪なものが混じる。ルーユは慌てて言葉を足した。
「いえいえいえいえ、うちのお義父さんが勝手にやったことで、ただお連れさんが大丈夫なのかなと思って」
 大丈夫もなにも、とギレイオは怒りをどうにか抑え込んだ。
「で、二人がどこに」
 ルーユは取り繕うように笑う。
「それが、肉を食べたいと言って外へ」
「………保存食なかったですっけ」
「干した物じゃなくて、生を焼いてと言って」
「……」
「と、止められませんよ。あのお義父さんさえ止められないのに、仲間まで出来たら……!」
 いつから自分の相方は連れを変えたのだろうとうんざりしつつ、ギレイオは狼狽するルーユに同情せざるを得なかった。ゴルも相当に破綻した人物だが、それと同じくらいによく言って豪快な人物がこの世にいるとは思わない。その人物がギレイオの相方を気に入らないわけがない。どちらも考えなしで行動することにかけては右に出る者はいないからだ。
 酷評ではなくこれは本当で、大抵はルーユや老人の息子である彼女の夫が諌める役らしく、息子に「あれは止められん」と言わしめた老獪であった。そうは言っても年寄りを放っておけるわけもなく、ほっとけと言う夫に反していつもルーユが義父の手綱を握ろうとするのだが、暴れ馬たる老人は彼女の手には収まらず、どこへなりとも走って行ってしまう。これで怪我でもすれば少しは大人しくなるかと周囲は期待するも、残念ながら、老人は足腰共にいたって健康な人物であった。
 健康な体に健康な心、そこへ人並み外れた行動力が加われば、止まれと言う方が難しい。
「……外って、どこの窓から出たんですか」
 ギレイオは居室にとあてがわれた部屋の窓から外を眺めていた。今は一階から出入りすることが出来ないために、皆、二階から出入りしている。ここに二人は来ていないし、来たとしたら蹴り飛ばしてでも追い返していた。
「多分、私たちの寝室から」
「あー……じゃあソリと何か投げ飛ばす物を下さい」
 行ってくれると歓喜したものの、ルーユは不穏な言葉の登場に笑顔を凍りつかせた。
「投げ飛ばす……?」
「……なに考えたのか知りませんけど、お宅のじいさんにじゃなくてうちの相方にです。石頭なんで別に大丈夫ですよ」
「でも、怪我なんてしたら」
「怪我の一つでもしてくれた方が大人しくなるかもなー……」
 はあ、と深い溜息をついてギレイオは夫婦の寝室へ向かった。
 ルーユの申告は、老人たちが旅立ってからすぐだったようで、それが幸いして雪の上にはソリの跡が残っていた。更にありがたいことに風もなく、舞い散る雪の中にこそこそと蠢く人影がはっきりと見て取れる。片や老人、片や若者、知識と力のバランスはとれているだろうが、なにぶん協調性の欠片もない二人である。音を吸い込む雪の上にあっても、何かを言い合っていることだけはよくわかった。
「……あの馬鹿野郎……」
 舌打ちを交えてギレイオが言う後ろで、ルーユの夫であるバシムが笑った。

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