Piece1



「お前の事、初見で不気味がらないなんて珍しいな」
「同感だ」
「しかも強い」
「強いな」
「逃がすにゃ惜しい人材だ」
「なら、追いかけてこい」
「お前行けよ」
「お前の世話で手一杯だから、遠慮しておく」
 ありがとよ、と笑い、蹴り倒したゴブリンをサムナが剣で臥す。
 汗を手の甲で拭い、ギレイオは辺りに視線を巡らせた。
 茶色の大地に散らばる黒い累々たる死体の山、そこかしこで飛び散る血、人の声、異形の咆哮。久々の戦闘に高揚する気持ちはあるものの、胸の奥が底冷えしている。
 ギレイオは思わず、左目をおさえた。
「どうした」
 唐突に動きを止めた相方を不審に思い、サムナは声をかける。左目をおさえたまま顔を上げたギレイオの様子に、わずかな動揺を覚えた。
「痛むのか」
 ギレイオは小さく息をついて、手を下ろした。
「ちょっと久しぶりだからな」
 軽い物言いにサムナが顔をしかめた。怒っているのか、呆れているのか。
 高揚した感情に引きずられるようにして、心臓が脈打つ度に左目がうずく。
──つくづく厄介な。
「少し調子に乗った」
「……乗るな」
 低く言い放つ。
 すれ違いざま、または振り返りざまにギレイオを見た者たちが皆、目を丸くして走り去っていった。
 その輝きを──色彩を例える言葉はなく、美しいが恐ろしい。
 右目の吸い込まれそうなほど深い碧に対し、左目は恐ろしいくらいに濃い、鮮血の色とも言うべき赤だった。
 見る角度によっては黄金にも輝くそれは、異形よりも異形らしかった。



Piece1 終

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