Piece12



 サムナはちらりとギレイオを見てから、視線を前方に戻す。
「ああ」
 しばらく黙した後、ギレイオはぽつりと答える。
「俺が死んだら、お前は何もしなくていい。俺のことも何もかも忘れろ。もしお前の知覚出来る範囲に俺の死体があっても何もするな。朽ちようが食われようが、俺はそれで構わない。それが出来るなら、教えてやってもいい」
 サムナはギレイオの言葉を図りかねた。交換条件というより、脅迫に近い内容である。この一瞬で納得しようにも、そう出来るだけの材料がない──それを不服と思う自分がいる。
「……考えておく」
「そうしてくれ。出来れば俺が死ぬ前に」
 ギアを変え、ギレイオはスピードを上げた。
──そこで死んだ奴は、そこで死んだなりの覚悟がある。
 以前、ゴルが「ギレイオに覚悟をさせてしまった」と言ったことを思いだした。あの口調、そして表情の意味はこれかとサムナは思う。サムナも同じことを、ギレイオに強いたようだと知った。
 ピエシュは覚悟のある死者たちを哀れには思わないと言った。そして、隣りの相棒はその列に自ら加わろうとしている。
 サムナはどうしても、そんなギレイオを素直に見送れるとは思わない。引き留めたいと思う。やめればいいとも思う。そんなことは意味がないと──そうすることにどれだけの意味があるのかと。
 それを「哀れ」と称するのなら、まさしくギレイオの行為は哀れとしか言いようがない。
 だが、「哀れ」と言ったところで、サムナの言葉にギレイオは耳を貸さないだろう。「お前にわかるわけがない」と言われたら、その通りだとサムナは頷くしかない。わかるほどの器が自分の中にないことは、ここ最近ではっきりとしたことである。
 サムナはわずかに背後を振り返った。既にピエシュの家も、墓地も見えなくなっている。辛うじて、花の匂いが追いすがるようにして手を伸ばしてきていたが、それを振り払うかのようにギレイオは車の速度を上げていた。
 やがて、鼻にこびりついていた匂いまでも風に紛れて後ろへ飛び去った頃、サムナはピエシュの家の位置を地図データの中に印した。
 世話になることを前提にしたわけではない。
 ただ、ギレイオからダルカシュの事を聞いた後に、また話してみたいと思ったのである。



Piece12 終

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